読書によって「文章力」だけではなく、いろいろな「仕事力」をアップすることができる(写真:Fast&Slow/PIXTA)

営業力、コミュニケーション力、文章力、プレゼン力──。仕事に必要な力を高める効率的な方法とは? 精神科医である樺沢紫苑氏が脳科学的な裏付けをもとに「記憶に残す、どんどん頭がよくなる読書術」をまとめた著書『読書脳』から一部抜粋、再構成してお届けします。

文章力をつけたければ、本を読め

私は、だいたい年に3冊のペースで本を出版しています。さらに、毎日、ブログやTwitterに記事を投稿し、メルマガも発行しています。毎日、原稿用紙で10枚から20枚、多い日で30枚以上の文章を書いていることになります。

私はよく、「どうしてそんなにたくさん文章を書けるのですか?」「どうしてそんなに速く文章を書けるのですか?」と聞かれます。

答えは簡単です。たくさん本を読んでいるからです。

本を読む人と読まない人の決定的な違いは、「文章力」があるかどうかに表れます。

本を読んでいれば、たくさんの「文章」と接するわけで、当然「文章」に関する知識と直感も磨かれます。

『キャリー』(永井淳訳、新潮社)、『シャイニング』(深町眞理子訳、文藝春秋)、『グリーン・マイル』(白石朗訳、小学館)などのヒット作で知られるアメリカの小説家スティーヴン・キング。彼は自らの小説作法についてまとめた『書くことについて』(田村義進訳、小学館)の中で、次のように述べています。

「作家になりたいのなら、絶対にしなければならないことが2つある。たくさん読み、たくさん書くことだ。私の知るかぎり、そのかわりになるものはないし、近道もない」

『書くことについて』は、小説家に限らず、プロの物書きになりたい人、また文章がうまくなりたい人は必読の1冊です。よりいい文章を書くためにキングが行っているありとあらゆる工夫が詳しく紹介されています。この本は400ページを超えるすごいボリュームがありますが、最も重要な部分は、この3文でしょう。

文章を上達させたければ、たくさん読んで、たくさん書くしかない。

現代アメリカを代表する小説家の結論が、これなのです。

そんなキングは、1年間で何冊本を読むのかというと、70冊から80冊とのこと。

少ないようにも思えますが、アメリカの小説は分厚いペーパーバックがほとんどです。

日本の本と比べると2倍近いボリュームがあります。つまり、日本の本に置き換えると150冊くらいでしょうか。

月10冊以上の読書をしていれば、文章力も磨かれる。それは作家にもなれる読書量だといえるのです。

ネット時代とは文章力が試される時代である

「文章力」というのは、実はインターネットの時代となった現在、極めて重要になっています。

会社の通達やお知らせもメールで来るし、日報や報告書もパソコンで文書にしないといけない。一昔前であれば、直接話し、直接伝えていたのが、最近では「文章」を通して「書く」「読む」ことによってコミュニケーションをする割合が飛躍的に増えています。

仕事に限らず、友達との交流や恋愛、さらに夫婦や親子の交流、連絡も「メール」「メッセージ」なしでは考えられません。つまり、自分の考えを文章で的確に表現できる人は、仕事で成功する。また、自分の思い、気持ちを文章で的確に表現できる人は、友人や恋人、家族と上手にコミュニケーションができ、友情と愛情に包まれた生活が送れるのです。

インターネットの時代では、「文章力」は絶対に不可欠な「仕事力」だといえます。

そして、「文章力」を鍛えるほとんど唯一の方法は、キングの言うように「たくさん読んで、たくさん書く」ことなのです。

本を読まない。文章も書かない。それでいて、文章力を鍛えることは不可能です。

言い換えると文章力を鍛える方法とは、インプットとアウトプットを繰り返すことです。

アウトプットを前提にインプットを行い、インプットをしたらアウトプットをする。それをフィードバックして、また別のインプットをしていく。「アウトプット読書術」を実践するだけで、文章力は確実に鍛えられます。

インターネットに文章を書きながらそれを繰り返していくと、ブログ、Twitter、メルマガなどで人気を博すこともできますし、本を出版することも夢ではありません。本をたくさん読んで、ネットにたくさん文章を書く。

私が、ここ20年以上毎日やっていることを一言でいうとそうなります。

読書によって仕事力がアップする。その具体例として「文章力」をあげましたが、ほかにどのような仕事力をアップできるのでしょうか?

仕事力にもいろいろあります。営業力、コミュニケーション力、決断力、問題解決力、時間管理力、プレゼンテーション力、指導力、リーダーシップ……。


「本」を読むことで、仕事力のアップにつながる(写真:今井康一)

実は「本」を読むことで、これらの仕事力すべてをアップさせることができます! なぜならば、これらのスキルをアップさせる本は書店に行けば、それぞれ10冊以上並んでいるからです。

本というのは、ありとあらゆる仕事力をアップさせることができる。でも、なぜか多くの人は、本を読まないし、読んでもあまり実行しない。本のノウハウをもっと徹底的に実行・実践していけば、いくらでも仕事力を伸ばせるというのに、残念な話です。

実際に私の例をお伝えしましょう。私は、正直にいうと、話すのは苦手です。とくにたくさんの人の前で話すのは苦手。ですから、1対1で会話を進めていくことを商売とする精神科医を選んだわけです。

しかしながら、どんな職業を選んでも、「人前で話す」という場面は絶対に訪れます。発表やプレゼンテーションの機会はいくらでもあります。医者の世界では、「学会発表」というものがあって、100名以上を前にして話をしなければいけない状況に追い込まれます。どうせやるのなら上手にやりたい、ということで「プレゼンテーション」の本を読む。カッコいいスライドを作りたい、ということで「パワーポイント」の本を読んで勉強する。このように、少しずつプレゼンテーションの技術を向上させてきました。

今では、「講演」が私の重要な仕事になるほど、毎月、講演会やセミナーを開催し、100人の参加者の前でも、堂々と話せるようになりました。

たった2行で起こった「プレゼンテーション革命」

私のプレゼンテーション力を飛躍的に向上させた本があります。

それは、『プレゼンテーションzen』(ガー・レイノルズ著、熊谷小百合訳、ピアソン桐原)です。

この本では、プレゼンテーションのアイデアの練り方から、インパクトのあるスライドのデザイン、さらにプレゼンテーションの技術まで詳しく解説され、すべてのページに新しい発見があるのですが、私がインパクトを受けたのは、デヴィッド・S・ローズによる次の2行です。

「スライドをそのまま印刷したものを配ることは、絶対に避けるべきだ。まして、プレゼンテーションの前に配布するのはもってのほかである」

この2行を読んだ瞬間に、雷に打たれたような衝撃にとらわれました。スライドを印刷したものをプレゼンテーションの前に配る。まさに、私がやっていたこと、そのものだったからです。資料があったほうが、後ろに座った人もスライドが見づらくても便利だろうし、メモもとりやすいだろう。「資料前渡し」がプレゼンテーションの常識。参加者に対するベストのサービスだと思っていた。その常識が完全に間違っていたのです。

資料を事前配布しなくなったことで起きた変化

早速、次回のセミナーから、資料を後で渡すスタイルに変えました。

そうすると、驚くべきことが起こったのです! まず、参加者の目の輝きが違う。よく見ると、参加者全員が話をしている自分のほうを見ているではありませんか。


これは、「資料前渡し」をしていたときには、絶対にありえなかったことです。どんなに熱弁をふるっていても、資料のほうを見ている人は必ずいるし、参加者が熱心なほど、資料の余白にメモしたりするわけですから。

「資料後渡し」にすることで、参加者は講師に注目せざるをえなくなり、参加者の集中力が何倍にも高まります。そうすると、参加者が講演、セミナーの内容を、何倍も吸収できるようになります。セミナー後のアンケートも大好評で、いつもよりはるかに満足度が高かったのです。

「資料後渡し」方式にしてから、私のセミナー参加者が急増しました。30人集めるのも大変だったのが、毎回必ず50人は集まるようになり、気づくと100人の会場が満席になるようになっていました。一度セミナーに参加した人が、圧倒的な満足感からリピーターになって、何度も通うようになったからです。

たった1冊の本、それもたった「2行」のアドバイスを実行しただけで、私は参加者が 100人集まる人気講師に変身できたのです。

たった1冊の本を読んだだけで、私の「プレゼンテーション力」に革命が起きた。

本は、私たちの「仕事力」をアップさせてくれる! これは間違いないことです。

(樺沢 紫苑 : 精神科医、作家)