贛鋒鋰業は中国のリチウム市況の変調と海外の資源開発権益をめぐるトラブルという内憂外患に直面している。写真は江西省新余市の本社ビル(同社ウェブサイトより)

リチウム製品の生産で世界最大手の中国の贛鋒鋰業(ガンフォン・リチウム)は8月29日、2023年上半期(1〜6月期)の決算を発表した。それによれば、上半期の売上高は181億5000万元(約3648億円)と前年同期比25.6%の増収を達成した一方、純利益は58億5000万元(約1176億円)と同19.4%の減益を記録した。

純利益が2割近くも縮小した背景には2つの要因がある。第1に、中国国内のリチウム相場の急落により製品の粗利率が低下したこと。第2に、主要顧客(である電池メーカー)が原材料在庫の調整に動き、リチウム製品の販売量が伸び悩んだことだ。

電池メーカーの生産拡大が失速

中国国内のリチウム相場は、2023年初めの1トン当たり50万元(約1005万円)から、一時は18万元(約362万円)まで急落。その後は30万元(約603万円)まで戻したものの、1〜6月を通じた下げ幅は40%に達した。贛鋒鋰業はその直撃を受け、1〜6月期のリチウム製品の粗利率は24.1%と前年同期比44ポイントも落ち込んだ。

また、業界団体の中国汽車動力電池産業創新連盟のデータによれば、中国国内の車載電池生産量は1月から6月までの累計で293.6GWh(ギガワット時)と、前年同期比36.8%増加した。とはいえ、前年同期の増加率が2倍を超えていたことを考えれば大幅な失速だ。

電池メーカーが原材料の購買ペースを落としたことが響き、贛鋒鋰業の(6月末時点の)製品在庫は年初時点の2倍近い52億元(約1046億円)に膨れ上がった。

市況の変調による業績悪化に加えて、贛鋒鋰業は海外での大型開発プロジェクトでも困難に直面している。メキシコのソノラ州で進めている世界最大級のリチウム資源開発プロジェクトの権益に関して、メキシコ政府が取り消しの決定を下したのだ。


メキシコ政府はリチウム資源の国有化に舵を切った。写真はソノラ・リチウム鉱山の開発予定地(贛鋒鋰業の子会社バカノラ・リチウムの公式SNSより)

ソノラ・リチウム鉱山の資源量は炭酸リチウム換算で882万トンが見込まれているが、本格採掘はまだ始まっていない。贛鋒鋰業は2019年に開発の事業主体であるイギリスの上場企業、バカノラ・リチウムに資本参加。その後の2年間に3回に分けて同社株を買い増し、完全子会社化した。この買収に贛鋒鋰業は総額2億5800万ポンド(約476億円)を費やした。

メキシコ鉱山の権益が剥奪の危機

メキシコ政府は2021年12月、贛鋒鋰業によるバカノラ・リチウムの買収を承認していた。ところが、それから半年も経たない2022年4月、メキシコ政府は(国内資源の開発について定めた)鉱業法の改正案を批准。リチウム資源の開発権益を国有の事業体に独占的に与えることとし、民間企業による開発を禁止した。


本記事は「財新」の提供記事です

2023年8月にはソノラ・リチウム鉱山の開発権益に関して、メキシコ鉱業総局が(バカノラ・リチウムに)取り消しを正式に通知した。これに対して贛鋒鋰業は、この決定がメキシコの法律および国際法に違反していると強く抗議しており、メキシコ政府に(権益の取り消しを決めた)行政審議のやり直しを求めている。

(財新記者:蘆羽桐)
※原文の配信は8月30日

(財新 Biz&Tech)