徹底したローコスト経営を標榜するオーケー。かつてはボウリング場の跡地を改造した建物に本社を構えていた(撮影・今井康一)

売上高が5000億円、1兆円を超えると戦い方が変わってくる――。ディスカウントスーパーのオーケーは10月17日に「オーケー銀座店」を出店する。2023年3月期の売上高は前年同期比5.5%増の5524億円、店舗数144店(8月時点)と拡大を続けている。

今や東京・銀座は、流通ディスカウンターの集積地である。ドラッグストアの「マツモトキヨシ」が銀座地区で出店数を増やしたかと思えば、衣料小売りの「ユニクロ」「ジーユー」、ディスカウント店の「ドン・キホーテ」、そして100均店「ダイソー」などが続々と進出を果たしている。

柳井氏の推しで銀座進出

銀座は日本一、賃料が高いことで知られる。それでも宣伝効果は抜群で、店名が浸透すれば補ってあまりある効果が見込める。商売人にとって銀座は憧憬の地、魅力的な場所であることに変わりはない。

一方で閉鎖的な土地柄ゆえに、誰かの紹介なしに一等地への進出は難しい。「銀座出店にあたりファーストリテイリングの柳井正会長兼社長はお世話になった」(オーケー)。出店する商業施設「マロニエゲート銀座2」には、ユニクロのグローバル旗艦店やジーユーなどが出店する。オーケーの二宮涼太郎社長は三菱商事出身で、ファストリは三菱商事との関係が深い。

そのオーケーについて公正取引委員会は8月、独占禁止法違反(優越的地位の濫用)の疑いで調査していたことを明らかにした。オーケーが納入業者に対し、商品値下げ分の一部を補填要請しているなどの確認を行うために、オーケーに対して資料を求めていたという。

結局、オーケーから自発的に競合店対抗値下げ補填を取りやめた旨の報告を受けたため、公取委は対応を行わないと発表した。

こうした報道があるたびに、メーカーと流通業者のどちらが主導権を握るのかという議論が出る。オーケーもメーカーや問屋を脅かす存在である一方、消費者側の立場に近いとの見方もできるだろう。

オーケーの店頭には「オネスト(正直)カード」が掲げられている。商品に関するネガティブ情報を正直に伝えるのが目的だ。甘くないミカンなら「甘くない」と正直に書くし、不作で相場高騰の野菜に関しては、急いで食べる必要がないなら「やめたほうがいい」と伝える。値上げ前の商品には「容量が少し減るから、今のうちに買ったほうがお得」と書く。

一般的に流通はブラックボックスだらけだ。少々傷んでいても、おいしくないとわかっていても、ネガティブ情報を隠して売る店は少なくない。販売価格も店ごとに異なる。昔ならば八百屋の店主が「このスイカ、あんまり甘くないよ」と来店客に口頭で伝えていた情報開示を、オーケーはスーパーの店頭で形を変えて行っている。

店頭からキリンや花王の商品が消えた

オーケーはディスカウントスーパーへ形を変えた1986年以来、地域いちばんの安値を目指してきた。店頭POPには「他店より高い商品がございましたら、お知らせください。値引きします」と掲示しているのも特徴だ。

オーケーを安いと認識している消費者は多く、実際に安く提供するために昔からあらゆる対策を講じてきた。あるメーカー幹部は「安く売りたくても、メーカーや問屋を買いたたくことは現実的には難しい。結果として独禁法違反まがいの交渉をしてくるのは、何もオーケーに限ったことではない」と苦慮する。

だいぶ前の話だが、キリンホールディングスのビール商品がオーケーの店頭から消えたことがあった。完全撤去だと目立つため、一部商品は残したとみられる。キリンといえば清涼飲料水、アルコール類など売れ筋商品が多く、店頭から外すわけにはいかない。しかしオーケーとしては小売りのバイイングパワーを誇示し、メーカーへの圧力を強めようとしたことが透けて見える。

2022年2月にも、花王の製品約500品目のうち145品目の取り扱いを中止した。これは花王が商品値上げを実施したことに伴い「条件交渉も含めた弊社の商品見直しの一環」とオーケー側は説明した。


オーケーの二宮涼太郎社長は三菱商事出身(撮影:今井康一)

8月の公取委による調査報告で明らかになったのは、オーケーが約30社の納入業者に値引き分の一部などを補填させていたことだった。「公取委の組織は小さく、独自で調べることは滅多にない」(大手スーパー役員)ため、外部からの要請で動くケースが多い。オーケーの行為も納入業者による情報提供で明るみに出たとみられている。

今やオーケーは売上高5000億円超の大手流通企業となり、社長は大株主の三菱商事から受け入れている。公取委による調査が長期化し、事態が泥沼化するのは避けたいところだろう。

銀座という一等地へ出店を決めたなら、今後はなおさら“品行方正”さが求められるのかもしれない。企業が大きくなれば、求められる役割は変わってくる。行政やメーカーと戦いながら、価格を下げるゲリラ的な戦略は通用しなくなる。

値上げラッシュで問われるスーパーの価値

一方でバイイングパワーを手に入れることで「俺たちはこんなに安く売っているのに、何で買わないの?」と売り場で訴えるようになってくる。組織が大きくなるにつれ、POPで商品情報を提供すれば、客は自然と買っていくのが当たり前と考えるようになりがちだ。

町の八百屋からスーパーへ消費者は流れたことで、セルフでの買い物スタイルが定着した。店と客とのコミュニケーションが薄れる中、売り場責任者は商品や売り場を通じて対話する努力を重ねてきたと言っていい。

足元は原価高で値上げラッシュが続く中、“お買い得”を打ち出してきたスーパーの価値は薄らいできている。今のオーケーは売り場で責任者の人間性を感じられるが、今後は成長に伴う“変節”が訪れるのだろうか。

(森谷 信雄 : 流通ジャーナリスト)