雑談が苦手という人も少なくありません(写真:EKAKI/PIXTA)

雑談が苦手、何のために雑談をするのかわからない、と感じる人は一定数います。とくに、物事をロジカルに考える人に多いようです。ですが、マッキンゼーでコンサルタントとして働いていた和氣忠さんいわく、雑談にも「ロジカルシンキング」が活かせるそう。

どんなシーンでどんな雑談をすればいいのか、和氣さんの著書『なるほどイシューからの使えるロジカルシンキング』より、一部抜粋・再構成のうえ解説します。

雑談の7つの目的

雑談にも目的があります。その目的を達成するよう、会話を組み立てます。 したがって、ここでも「ロジカルシンキング」が活躍します。漫然と話しているのでは、雑談という貴重な機会を有効に活かせずもったいないです。

雑談の目的を考えてみましょう。

例えば、次のような目的がよくあります。

■お互いに受け容れ合っていることを確認する

■気持ちを癒す、楽しい気持ちになる

■仲良くなる(初対面の場面も含めて)

■お願いごと・相談をしやすくするための導入・準備とする

■厳しいことを伝えるための導入・準備とする

■相手(人となり、バックグラウンド、趣味、得意、価値観、習慣、気質・性格など)をもっと理解する

■落ち込んだ自分の気持ちを立て直す

雑談においては、特に、その背後にある「目的」の理解と相手の「ステークホルダー視点」が重要です。

何かのアクション・コトを起こそうとする時、複数の方々より合意・承認・協力・サポートを得ることが必要になります。このような時、それぞれのステークホルダーの視点に立って、各ステークホルダーの利害、達成したいこと、どうなれば幸せなのか、を理解することが、「ステークホルダー視点」です。

この背後にある「目的」の理解と相手の「ステークホルダー視点」を取り違えると、雑談においてもすれ違ってしまいます。とてももったいないです。

夫婦・カップルの会話で、「ただ話を聞いてほしいだけ、そこで、反論や解決策を言ってほしいわけではない!」というやりとりがしばしば起こってしまいます。このような言葉が発せられた時は、会話がすれ違っています。これは雑談の背後にある「目的」と「ステークホルダー視点」を取り違えていることが原因です。

このようなケースでは、話し手の雑談の目的は「話を聞いてもらって、共感してもらって、自分の気持ちを癒したい、整理したい」ということでしょう。

「ステークホルダー視点」から確認すると、話し手は、何か落ち込むようなことがあったのでしょう。そして、今、落ち込んでしまっていて、救いの手を相手に求めている状況でしょう。

初対面の相手と会話するケースでは

このように「目的」と「ステークホルダー視点」を適確に認識できれば、雑談の機会をよりよい機会とできます。

そして、雑談の後、相手は気持ちが癒され、雑談の目的が達成されます。その結果、夫婦・カップルの関係性・絆もさらによくなるでしょう。

また、仲良くなりたい相手との初対面の会話、あるいは、大事な商談でお会いする初対面の相手と会話するケースについても考えてみましょう。

会話は、雑談から始まります。そして、雑談からの印象が第一印象として、お互いの脳に深く刻まれます。したがって、最初の雑談は、とても大事な時間です。

それが理解できれば、まずは、「初対面から仲良くなる」という目的の達成に向けて準備します。「ステークホルダー視点」で相手の関心・問題意識・当たり前などを想定します。必要であれば、事前に簡単な調査もします。

あるいは、有効な紹介者を介するようアレンジします。そして、初対面の瞬間、自分の全身から「あなたとぜひお会いしたかった!」というオーラが出るよう自分自身の心持ちを盛り上げ、目線、表情、第一声、声のトーン、姿勢・身振り・手振りなど、全身運動を駆使します。

そして、会った瞬間から相手と共感のキャッチボールが始まるよう会話します。このように初対面を準備できれば、最初の雑談がとても有効になってお互いにポジティブな関係になれるでしょう。

雑談ではボディランゲージのほうが重要

雑談における留意点がさらに4つあります。

1つ目は、相手を受け容れ続ける、共感しているというサインを送り続けることです。このサインは、言葉だけではなく、目線、表情、声のトーン、姿勢・身振り・手振りなどの全身運動、ボディランゲージまでを含みます。

じつは、ボディランゲージのほうがより重要です。このサインの出し方については、自分自身のボディランゲージを動画に撮って客観視してみる、あるいは、親しい友人や家族に、あなたのボディランゲージについてどう感じたのか聞いてみるといいでしょう。いろいろなバリエーションを試して、自分自身のスタイルを磨いていってください。

2つ目は、「同意はせずとも受け容れる」です。当然ですが、相手が自分とは違う意見を持っていることは当たり前にあり得ます。

また、ヒトが話すことには二面性・パラドックスをはらんでいることもあります。必ずしも本心が言葉として発せられるわけではなく、むしろ、本心とは反対のことが語られることも多々あります。ヒトとはそういうものだと、ややシニカルですが、割り切って受け容れましょう。

自分とは意見が違うな、あるいは、相手の二面生・パラドックスの矛盾に気づいたとしても、決して、その場で反論したり、矛盾を突いたりするようなことはせず、一旦、淡々と受け容れて、雑談の目的達成に努めます。

この時、「同意はせずとも受け容れる」という心の準備が求められます。「同意はせずとも受け容れる」は、さまざまなコミュニケーションの場面に活かせる黄金律です。ぜひ、この機会に覚えておいてください。

3つ目は、特に、雑談においては、ピラミッドストラクチャーで考えて思考の整理をするのは有効ですが、コミュニケーションスタイルとしては、ピラミッドストラクチャーは使わない、ということです。

コミュニケーション法としては、それぞれの場面の目的と相手のステークホルダー視点に応じて多様なパターンから有効なものを選択して工夫します。

コミュニケーションスタイルとしてピラミッドストラクチャーが有効となる場面は、むしろ、ビジネスシーンなどの特定の場面に限られます。

聞き役+受け容れに徹する

4つ目は、聞き役+受け容れに徹することです。

雑談は、ただ話すことが目的ではありません。「ただ話したい」という一時の欲求から自分中心で話しすぎるとすれ違ってしまい、かえって相手との距離感も離れてしまいます。話し好きな性格のヒトは特に要注意です。巧みな相づち表現と質問を意識的に多用して、聞き役+受け容れに徹しましょう。


雑談においても必ず背後に明確な目的があります。この目的を明確に意識して、相手のステークホルダー視点に立って会話を組み立てる思考は「ロジカルシンキング」です。

さらに、雑談の内容や展開、さらに、コミュニケーションスタイルの工夫においては、感情的なファクターも含めて雑談の目的が達成されるよう「ロジカルシンキング」します。

ここまでをまとめると、

➀自分と相手、それぞれの目的を認識して目的達成する

➁共感のサイン(ボディランゲージ)を送り続ける

➂同意はせずとも受け容れる

➃コミュニケーションスキル≠ピラミッドストラクチャー

➄聞き役+受け容れ>自分の主張

以上の5ステップが「雑談力の型」となります。雑談が苦手だという人は、ぜひ覚えて活用してください。

(和氣 忠 : 大学院大学至善館特任教授)