ガソリン価格の値上がりは顕著だが、政府の抑制策が裏目に出る恐れも(写真・Mugimaki / PIXTA)

秋になると、永田町では「補正予算」の話題が毎年のように沸き上がる。補正予算の編成が、当たり前のような年中行事になり、まるで補正予算を組まないと年が越せないかのようだ。

補正予算は、必ず組まなければならないというわけではない。否、補正予算はむしろ、満たさなければならない事情があるときに限り、組むことができるものである。

「特に緊要の経費」が毎年発生?

財政法第29条には、次のような規定がある。

内閣は、次に掲げる場合に限り、予算作成の手続に準じ、補正予算を作成し、これを国会に提出することができる。

一 法律上又は契約上国の義務に属する経費の不足を補うほか、予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となつた経費の支出(当該年度において国庫内の移換えにとどまるものを含む。)又は債務の負担を行なうため必要な予算の追加を行なう場合

二 予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合

「特に緊要となった経費」は、東日本大震災級の大きな災害や急激な経済変動でもなければ、普通は生じない。なのに、まるで毎年そうであるかのように、補正予算が組まれ、政治イベント化している。

そのうえ、コロナ禍での補正予算は規模が拡大して、直近では30兆円にものぼる。コロナ前の補正予算はせいぜい3兆円程度だった。コロナ禍で、補正予算の桁が狂ってしまったのだ。

では、2023年において、補正予算はどれほど必要なのか。

少なくとも、コロナ禍の経済的な打撃から回復しつつあり、人手不足が生じるほど供給制約に直面している現状において、財政支出で需要を喚起しなければならない強い理由はない。加えて、物価上昇が顕著である。

例えば、すでに当初予算で予定されている公共事業があるうえに、補正予算を組んで追加で公共事業費を増額したらどうなるか。

建設資材は、ただでさえコロナ禍でサプライチェーンの混乱などもあり、高騰が続いている。そこに公共事業の追加増額が行われたら、建設資材を追加した公共事業に充てなければならないから、国内における建設資材の需給をよりひっ迫させて価格高騰を助長する。

公共事業の追加増額は、建設資材の価格上昇をもたらしこそすれ、価格下落を引き起こすことはあり得ない。

ガソリン代が浮いた分、別の商品の需要が増す

ガソリン補助金(正式には燃料油価格激変緩和補助金)も、一見するとガソリンの小売価格を抑制しているように見えて、経済全体では物価高騰を助長している。

政府は、もともと9月末で終了予定だったガソリン補助金を、今年末まで延長するとともに9月7日から拡充することを決めた。これにより、ガソリンの小売価格は抑えられる。ガソリン補助金は、価格高騰を抑制する効果があるように見える。

しかし、家計は、ガソリンに費やす支出が減った分をどうするか。

貯金をする余裕がある家計は貯金に回すこともあろうが、貯金する余裕がない家計(や余裕がある家計でも)は、ガソリン価格が抑えられて浮いた分を、食費など別の支出に回すだろう。

すると、その支出で購入した商品の需要が、それだけ増えるわけだから、その商品の価格に上昇圧力がかかる。需要と供給の関係からみれば、需要が増えれば、その価格は上がりこそすれ、下がることはない。直接目には見えないとはいえ、実際はそうなのだ。

だから、ガソリン補助金は、ガソリンの小売価格を抑えてはいるが、ほかの商品の価格の上昇を助長し、経済全体でみると消費者物価全体を押し上げる方向に作用している。これは、ガソリン税の減税を行っても同様のことが起きる。

こうした情勢下で、巨額の補正予算を組んで需要を喚起すれば、物価高を助長する。

コロナ禍で、補正予算の規模が桁違いに大きくなっている。補正予算で追加した歳出は、2020年度には73兆0298億円、2021年度には35兆9895億円、2022年度には31兆6232億円にのぼっている。

これらが、効果的に支出されているならまだしも、結局は使わずじまいとなって、補正予算で積んだだけの「見せかけ」に堕したものも多い。年度末までに使わずじまいとなった歳出の不用額は、2020年度には3兆8880億円、2021年度には6兆3029億円、2022年度には11兆3084億円と、ついに10兆円を超えた。

31兆円の補正予算、使い残しの21兆円

2022年度における歳出の不用額は、実態を象徴的に表すものとなった。

前述のように、2022年度には補正予算で31兆6232億円もの支出の追加を行った。そして、2022年度の決算段階で、入ってきた収入に比して支出し残した金額(差引剰余金)が、21兆3439億円となった。31兆円余の支出の追加を行いながら、21兆円余も年度末に支出し残してしまうというありさまである。

支出し残したうち、2023年度に繰り越すものもあるが、結局は使わずじまいとなり予算として効力を失うこととなった歳出の不用額が、前述のように11兆円余にのぼった。

加えて、支出の追加に伴いその原資として、国債の増発が2022年度決算までに必要と見込まれていたものの、使わずじまいとなった支出が出たために、12兆円の国債増発を取りやめた。

11兆円もの使わずじまいとなる支出がある一方で、12兆円もの国債増発を取りやめる結果となった。お金に色はついていないとはいえ、2022年度の決算はこうした状態だった。

まさに、補正予算等で支出するぞと勇ましく財政出動を演出しておきながら、結局使う当てがなく、予算として失効して使わずじまいとなったので、それに備えて予定していた国債増発も取りやめた。補正予算は、「見せかけ」だったのだ。

「見せかけ」に終わるような補正予算なら、経済効果もないし、金額を盛る必要はない。おまけに、物価高騰を助長するような情勢で、財政出動をするのは逆効果である。

秋になったからといって、補正予算を組まなければならないわけではない。今秋に補正予算を組むなら、当初予算で計上した巨額の予備費について、その使途を確定させて国会での審議を受けるために、予算を組み替える。そんな補正予算なら、財政民主主義の観点からも意味があるものだろう。

(土居 丈朗 : 慶應義塾大学 経済学部教授)