BYDはEV専用のサブブランドとして展開していた「海洋シリーズ」の車種に、初めてPHVを追加した(同社ウェブサイトより)

中国のEV(電気自動車)最大手の比亜迪(BYD)は8月25日、同社のスポーツセダン「海豹(SEAL)」シリーズにプラグインハイブリッド車(PHV)を追加すると発表。ベースグレードの予約販売価格を17万6800元(約357万円)からに設定した。

海豹は2022年7月にEV専用車種として発売され、当時のベースグレードの希望価格は20万9800元(約424万円)から。その後、2023年5月に発売したマイナーチェンジ版では最低価格が18万9800元(約384万円)に引き下げられた。だが、今回追加されたPHV版はさらに1万3000元(約26万円)も安い。

新エネルギー車の4割がPHVに

BYDの製品ラインナップには、車名に海洋動物の名前をつけた「海洋シリーズ」と、中国の歴代王朝の名前をつけた「王朝シリーズ」の2つがある。このうち海洋シリーズは、これまでEV専用のサブブランドとして展開していた。

海豹のPHV版の追加は、BYDが海洋シリーズの製品戦略の転換に踏み切ったことを意味する。それは、中国市場でPHVの(EVやエンジン車に対する)競争力が高まっている実態を反映したものだ。

中国汽車工業協会のデータによれば、中国の「新エネルギー車」の販売台数に占めるPHVの比率は、2022年の22%から、2023年1月から7月までの期間には27.9%に高まった。中国の自動車業界では、この比率は今後40%まで上昇するとの見方が主流になっている。

(訳注:新エネルギー車は中国独自の定義で、EV、PHV、燃料電池車[FCV]の3種類を指す。通常のハイブリッド車[HV]は含まれない)

中国の自動車業界内でPHVへの期待が高まっている背景には、中国政府が新エネルギー車の普及促進のために支給していた補助金が、2022年末をもって打ち切られたことがある。この補助金のおかげで消費者のEV購入ブームに火が付き、中国の新エネルギー車の関連産業は急成長を遂げた。

しかし補助金が廃止された今も、新エネルギー車メーカーの大半の経営は赤字だ。EVはコストの高い車載電池を大量に搭載する必要があるため、価格競争力の面で(PHVやエンジン車に対して)どうしても不利になる。現時点までに黒字化を達成したBYDと(新興EVメーカーの)理想汽車の2社が、いずれもPHVに強みを持つことは、その象徴と言えそうだ。

(訳注:理想汽車は発電専用のエンジンを搭載する「レンジエクステンダー型」のEVを主力にしている。中国政府の区分ではPHVの一種と見なされている)

電池大手CATLの成長に影響も

BYDはEVとPHVを同時に製造・販売しており、両者の相乗効果によってエンジン車の市場シェアを奪取している。同社の1月から7月までの新エネルギー車販売台数は、PHVの好調を追い風に前年同期比88.6%増加。これは新エネルギー車市場全体の成長率の2倍以上だ。


PHV人気の高まりは、車載電池大手のCATLにとって朗報とは言えない。写真は同社が8月に開催した新型電池の発表会(CATLのウェブサイトより)

一方、中国の車載電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)にとって、BYDの躍進は朗報とは言えない。BYDはもともと電池メーカーであり、車載電池をすべて内製している。そのため、BYD製のEVやPHVが売れれば売れるほど、CATLの市場シェアは下がってしまう。


本記事は「財新」の提供記事です

しかもBYDは、EVよりも電池搭載量が少ないPHVの拡販に舵を切り、競合メーカーも追随の動きを見せている。

冒頭の海豹を例に取ると、EV版の電池容量が最小でも61.4KWh(キロワット時)であるのに対し、PHV版は3分の1未満の17.6KWhだ。新エネルギー車市場におけるPHVの比率がさらに高まれば、CATLの成長余地が狭まる可能性が否定できない。

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は8月27日

(財新 Biz&Tech)