元国税調査官が教える節税術とは?(写真:Graphs/PIXTA)

税金の支払いは中小企業にとって頭の痛い問題です。利益が想定よりも大きく出てしまうと、それだけ税金の支払いも増えてしまいます。そんな中小企業にとって最も都合のよい節税方法は「経営セーフティ共済」であると、元国税調査官の大村大次郎氏は語ります。「経営セーフティ共済」を利用することで、いったいどれほどの節税効果が得られるのか、詳しく見ていきましょう。

※本稿は『元国税調査官が教える税金を最小限に抑える技術 正しい脱税』から一部抜粋・再構成したものです。

「経営セーフティ共済」を活用する

「中小企業にとって、最も都合のいい節税方法はなんですか?」

と聞かれた場合、私は迷わずに「経営セーフティ共済」だと答える。一応、経営者である私自身もこの節税方法を使っている。

経営セーフティ共済は、いろんなところで紹介されているので、ご存じの方も多いと思われるが、この経営セーフティ共済の本当の威力は、あまりよく理解されていないらしく、これを活用している経営者の方は、まだまだ少ない。

経営セーフティ共済がどれほど威力があるかというと、期末ギリギリであっても、会社の利益を最高240万円も減らすことができる、ということである。しかも、この240万円は、会社にとって“出ていく金”ではなく、蓄積される金だ。

つまり、一銭も無駄金を使うことなく、利益を240万円も減らすことができる。中小企業にとって、240万円の利益を一気に、それも期末に減らせるというのは、非常にありがたいことのはずだ。

ほかにこんな効率的な節税方法はない。夢のような節税方法だといえる。

もし「今期はちょっと利益が多かったので、税金が怖い」と思っているような経営者、経理担当者の方は、まずこの経営セーフティ共済を導入してみてほしい。

取引先の不測の事態に備える共済

では、経営セーフティ共済とは、具体的にはどんなものなのか、どうすれば導入できるのか、ということを説明したい。

「経営セーフティ共済」というのは、取引先に不測の事態が起きたときの資金手当てをしてくれる共済である。

簡単に言えば、毎月いくらかのお金を積み立てておいて、もし取引先が倒産とか不渡りを出して、被害を被った場合に、積み立てたお金の10倍まで無利子で貸してくれる、という制度だ。

この制度のどこが節税になるか、というと、掛け金の全額が損金に計上できることである。掛け金の最高額は年240万円なので、年間240万円の利益を一気に減らすことができるのだ。

そして、この240万円というのは、掛け捨てではない。積み立てた金は、不測の事態が起こらなかった場合は、40カ月以上加入していれば全額解約金として返してもらうこともできる。40カ月未満の加入者は、若干返還率が悪くなる。

しかも、「経営セーフティ共済」は1年間の前払いもでき、前払いの全額が支払った期の損金に計上できる。だから、期末になって200万〜300万円くらいの利益を急に減らしたいというときには、これに加入すれば、240万円の利益を削ることができるのだ。

最もいい節税策というのは、「経費をたくさん計上できて、しかもそれを資産として蓄積できること」だといえる。経費を増やせば、税金が減るのは当たり前だ。しかし経費を増やせても、税金以上に会社の資産が減っていっては、意味がない。

「経費を増やすことができて、しかも資産も減らさない」

というものを見つけることができれば、それが最もいい節税策なわけだ。経営セーフティ共済は、その条件にジャストミートする。とくに忙しい経営者の方、日ごろ節税策をあまり講じてこなかった会社などには、最適の節税方法だといえる。

節税以外のメリットも多い

経営セーフティ共済は、節税面以外でもメリットが多々ある。

例えば積立金の95%までは、不測の事態が起こらなくても借り入れることができる。この場合は利子がつくが、それでも0.9%という低率である(2023年6月現在)。なので、運転資金が足りないときには、この積立金を借りることができる。

つまり、「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」というのは倒産防止保険がついた預金のようなものである。金融商品として見ても、非常に有利なものといえる。儲かったときに、経営セーフティ共済にお金をプールしておけば、税金も取られないし、資金繰りにも役に立つのだ。

経営セーフティ共済は、国が全額出資している独立行政法人「中小企業基盤整備機構」が運営しており、ほぼ官製の共済だ。だからこの機関はつぶれる心配もない。


出所:『元国税調査官が教える税金を最小限に抑える技術 正しい脱税』

経営セーフティ共済は、掛け金の額を5000円から20万円まで自分で設定できる。最高額の掛け金にすれば、削減できる利益は「240万円」となる。そして、掛け金の総額が800万円に達するまで掛け続けることができる。つまり、会社の利益を、毎年240万円まで、総額800万円まではプールしておくことができるということだ。

また掛け金は途中で増減することもできる。だから初めの掛け金は、節税のために最高額にしておいて景気が悪くなったら減額する、という手も使える(減額するには若干の手続きが必要となる)。

筆者はいたるところで、この経営セーフティ共済がいい節税方法であることを宣伝しているが、もちろん、広告宣伝費をもらっているわけではない(経営セーフティ共済は公的機関なので、そんなことはできない)。前にも述べたように、筆者もこの経営セーフティ共済に加入している。自分がやってみて一番いい節税方法だから、勧めているのだ。

加入手続きも非常に簡単なので、240万円程度の利益(所得)を減らしたいというような場合は打ってつけの節税策といえる。

「小規模企業共済」は中小企業に必須の節税アイテム

「経営セーフティ共済」と似たようなもので、「小規模企業共済」というものがある。これは、中小企業にとっては必須の節税アイテムである。

「小規模企業共済」というのは、会社の経営者や、個人事業者が毎月いくらかを積み立てておいて、事業をやめたり退職したときに、幾分の利子をつけてもらえるという制度である。

つまりは小規模企業(法人や個人事業)の経営者の退職金代わりに設けられている共済制度だ。

毎月、お金を積み立てて、自分が引退するときや事業をやめるときに、通常の預金利子よりも有利な利率で受け取ることができる。自営業者を対象としたものだが、中小企業の経営者、役員やフリーランサーやSOHO事業者も当然加入できる。

この小規模企業共済は月に1000円から7万円まで掛けることができるが、掛け金の全額を所得から控除できる。最高額の月7万円を掛ければ、年間84万円が所得控除される。しかも、この小規模企業共済も前納することができる。そして1年以内分の前納額は全額が支払った年の所得控除とすることができるのだ。

だから年末に月々7万円の掛け金で加入して、1年分前納すれば、84万円もの所得を年末に一気に減らすことができる。

小規模企業共済の難点は、預金と違って自由に引き出すことができない、という点である。原則として、その事業をやめたときか、退職したときにしか受け取ることができない。

事業が思わしくなくなったときや、いざというときには、事業を廃止したことにすれば、もらえる。事業を廃止しなくても解約できるがその場合は、給付額は若干少なくなる。また、事業を法人化したときにも受け取れるので、個人事業者が法人化への資金として貯蓄する場合にも使える。掛け金の7〜9割程度を限度にした貸付制度もあるので、運転資金が足りないときには活用できる。

共済金を受け取った場合は、税制上、退職金か公的年金と同じ扱いとなり、ここでも優遇されている。

この「小規模企業共済」も、「経営セーフティ共済」と同じように、独立行政法人「中小企業基盤整備機構」が運営していて、全国で約162万人が加入している。問い合わせ先も「経営セーフティ共済」と同じである。

「中小企業退職金共済」も節税策として有効

中小企業には、「中小企業退職金共済」という制度がある。この共済も節税策としても非常に有効なものである。中小企業退職金共済とは、中小企業がこの共済に毎月いくらかずつを積み立てて、それを従業員の退職したときに退職金として支払うという制度だ。

この中小企業退職金共済のどこが節税になるかというと、積み立てた金額が、全額損金にできることである。

現在、日本の税法では、退職金のための引当金は認められていない。退職したときに、従業員に退職金を払うように就業規則で決められている企業、退職金の支払い慣習がある企業の場合は、従業員に対して退職金の支払い義務がある。

しかし税制上はこの退職金の原資を蓄えておくことができないのだ。

企業が退職金のためにお金を積み立てても、それは税務上損金にできない。つまり、企業は従業員の退職金を払う債務を負いながら、それを損金として積み立てておくことができないということだ。これは企業にとっては、痛いことであり、日本の税制上の欠陥だともいえる。

しかし中小企業退職金共済を使えば、企業が毎年損金として、退職金を積み立てることができるのだ。

例えば、中小企業退職金共済を使って、従業員1人当たり月3万円を積み立てていたとする。これは会社の経費に計上することができるので、毎年従業員1人当たり36万円の経費計上ができる。20年後には利子も含めるとだいたい800万円に、30年後には1200万円くらいになっているのだ。

それだけの備えがあれば、従業員が退職したときに慌てなくてすむだろう。

1年間の前納が可能

さらにこの中小企業退職金共済が、節税上有利なことは、1年間の前納が可能だということだ。


だから期末に1年間前納すれば、期末になってからの節税策ともなる(ただし、一度前納すれば、その後もずっと前納しなければならない)。また国からの若干の助成があり、単なる退職積立金と考えても、有利な制度だ。節税商品としても抜群の内容といえる。

中小企業退職金共済は、資本金5000万円以下(製造、建設業等は3億円以下、卸売業は1億円以下)の企業であれば、どこでも加入できる。

中小企業退職金共済の掛け金は、従業員1人当たり月5000円から3万円までであり、その間の増額は自由にできる(減額は、理由が必要)。また特例としてパートタイマーなどには、1人当たり月2000円から4000円の掛け金もある。

ただ原則として、全従業員に掛けなければならない。経営者や役員、家族従業員は、加入することができないので、経営者の資産形成のためには使えない。

中小企業退職金共済は、解約するのには条件があり、全従業員が解約を認めたとき、もしくは厚生労働大臣から掛け金を払い続ける状態ではないと認められたときとなっている。中小企業退職金共済は、主な金融機関の窓口で取り扱っており、加入の方法も簡単である。

従業員に退職金を払う慣習のある中小企業、払おうと思っている中小企業は、ぜひこの制度を活用したい。

(大村 大次郎 : 元国税調査官)