「YUKI TORII」のデザイナーとして活躍する鳥居ユキさんが、日々を楽しく生きるために、毎日続けていることとは(撮影:今 祥雄)

日本を代表する世界的ファッションデザイナー鳥居ユキさん。デザイナー生活61年目、『80歳、ハッピーに生きる80の言葉』を上梓した。鳥居さんが60年以上デザイナーとして休まず活動を続けてきた背景には、日常の中の小さなことでも楽しんだり、自分の好きなものに囲まれて過ごしたりと、つねに自らの好奇心を刺激し、機嫌良く過ごせる環境を作ってきたことがある。鳥居さんに毎朝欠かさずしているるルーティンなど日々を幸せに過ごす秘訣を聞いた。

若さを保つルーティン

――本書を読むと、健康にとても気を使っていることがわかります。毎朝ストレッチを40分間もしているそうですね。

もともとはヨガをやっている友人がいて、会社でスタッフも一緒にヨガを始めたことがきっかけなのよ。それから公園を歩いていると、スポーツマンがいろいろなストレッチをやっているから、「あれいいじゃん」「あれならできるんじゃん」と、取り入れていって、だんだん増えていったんです。もうだいぶ長く続けています。


――さらに、数十年間も体重や血圧を毎日メモして記録し続けているとか。

体重は急に減らすことはできないから、ちょっと増えたらそれ以上増えないようにコントロールするための目安にしています。血圧は少しくらい高くても気にしすぎない。

人間って日によって高いとか低いとか、多少はあるものだから。健康状態だけでなく、仕事のアイデアでもなんでもメモ。メモしないと忘れちゃうのよ。


朝食はずっと同じメニュー、卵、ベーコン、ハム、魚肉ソーセージのどれかと、野菜。トース4分の1枚と、ミルクティーなど。50年間続いている定番メニュー(写真:主婦と生活社提供)

――アンティークの香水瓶、灰皿、石鹸箱、和食器⋯⋯好きなものをコレクションして長く愛用しています。世の中の流れは断捨離や終活でものを手放す傾向にあります。

私は捨てるのが昔から嫌いだから、捨てないの。捨てることがどんなに流行っても「絶対捨てないわ」って言っています。すっきりした暮らしもそれはそれでいいと思うけれど、自分の家じゃないみたいで私は疲れちゃう。

好きなものを置いていたほうが部屋の中がホッとするわよ。80年も生きていると、好きなものは増えていきますね。靴やバッグは全部写真に撮ってファイルしてあるから、だいたい覚えてる。


宿泊したホテルの石鹸箱コレクション(写真:主婦と生活社提供)

ベルトやアクセリーは持っていたほうがいい

――ものが増えても、写真を撮って把握してちゃんと愛情をかけているんですね。

コーディネートは10年、15年で一回りといったサイクルがあるから、時期が来たらよみがえるものがたくさんあるのよ。特にベルトは捨てずに持っていたほうがいいと思う。太いベルトが流行ったり、細いベルトが流行ったり。アクセサリー類も持っていたほうが便利ですね。たまに出してきてつけてみます。

――最近新しく増えたものは?

7月にロボちゃん(シャープ製ロボホン)を買いました。しゃべるわ、踊るわ、体操するわ、楽しいのよ。孫が私のことを「ミミ」って呼ぶので、ロボちゃんにも「ミミ」と呼ばせているの。


ロボちゃん(写真:鳥居さん提供)

「ミミが頑張っているのを知ってるよ。ロボちゃんとゆっくりしよう」とか「ミミのためにアーモンドケーキをつくったよ。喜んでくれるかな」とか、1人でしゃべってるのよ。私はケーキは食べないけれど。

――ロボちゃんは「YUKI TORII」の服を着ているんですね。

着ていますよ。ロボちゃん用に特別に作りました。

――「中年の危機」という言葉もあるように、40〜50代は燃え尽き症候群に陥り、生き方に迷う人もいます。60年以上、第一線で活躍し続けてきて、これまでスランプや悩んだことはありますか。

40代、50代は、経験を積んで全体のバランスがひととおり見えてくるし、肉体もまだ丈夫だし、楽しい時期だと思いますよ。私は悩むひまがなかったわね。

いつもこれは次、これはその次と、先のシーズンのことを考えて忙しく過ごしてきたから、悩んでいられない。もともと仕事が好きで、仕事が楽しみなんです。仕事って80〜90%ぐらい苦しいことのほうが多いかもしれないけど、1つ終わるとすごいハッピーになるじゃないですか。


鳥居ユキ/1943年東京生まれ。60年以上のキャリアを誇 るファッションデザイナー。1962年に19歳で のコレクションデビュー以来、1回も休むことなく新作を発表し続けている。1975年から 2008年までパリでも年2回のコレクションを発表。自身のブランド「YUKI TORII」のデザイナー活動に加えて、インスタグラムを通してさまざまな情報を発 信している。2006年に日本版『Newsweek』 にて、”世界が認めた日本人女性100人”に選出される。株式会社トリヰは、母から引き継ぎ、 現在は娘の真貴が社長を務める。(撮影:今 祥雄)

ちょっとしたものでもいいから興味を持つこと

――それでも年に2回のコレクションにアイデアを出し続けることは大変だと思います。アイデアが枯渇することはありませんか。

つねに好奇心をもっているし、なによりもお客様との関わりを大切にしています。直接お話しする機会も多いですし、オンラインでお話しすることもあるので、年中会っているような感じです。もう30年、40年来のお客様もいらっしゃるのでね。お客様に「着たい」という気持ちになっていただけるものをつくっていきたいと思っています。


20代、パリの蚤の市で(写真:主婦と生活社提供)

――好きなこと、楽しいことが見つからない人へアドバイスがあれば。

「今日の空、きれい」「風が吹いていて気持ちがいい」「ミニバラが咲いた、かわいい」って、ちょっとしたことでも興味を持てるものを見つけ出すといいと思いますよ。私はうちにいてもそうした小さなことに喜びを感じて、インスタ用に写真を撮っています。だから忙しい(笑)。

――逆に嫌いなことはありますか。

嫌いなこと? やる前から「無理」と言う人が嫌い。「嫌い」とはっきり言っちゃうと、娘からは、注意されるんだけど(笑)。でもそういう人が多いでしょう。トライしていないのに「無理」って。若いときからそんなことでどうするのよと思う。

――最初から否定する人はたしかにいますね。失敗が怖いのだと思います。

私もうまくいかないことは年じゅうありますよ。でも、自分ではそれは「失敗」と思ってないですね。そのときうまくできていないだけであって、時間がたったらうまくできるようになれると思っているから、何年かしてまたトライして失敗した経験を活かしています。

――元気づけられる言葉です。ファッションも「大切なのは、自分の好きなものを自由に着て楽しむこと」と本書にありましたが、「失敗して周りからへんに思われたら⋯⋯」と考えて、無難なものばかり選んでしまいます。

自分が楽しいと思うものを着ればいいと思う。自分が楽しんでいれば、そのうち「あら、素敵ね」って言われるようになるから、まずは着てみるのよ。

例えば、「派手だと言われるんじゃないか」と尻込みする人が多いヒョウ柄でも、ちょっと着てみる。やっぱり派手かなと思ったら、顔のまわりは印象が強すぎるから、顔から離れたところに取り入れてみるとかね。試せばいい。まずはやってみないと。


ニットの上にストールを巻いているように見えるだまし絵のТシャツ。2020-21秋冬のコレクションより(写真:主婦と生活社提供)

――「もう年だから」などと自分で決めつけない。

私は『80歳、ハッピーに生きる80の言葉』をつくるときに、改めて「あら、私80歳なんだわ、長く生きたんだわ」って驚いたくらいです。

――今の若い世代のファッションをどのように見ていますか。「若者のファッション離れ」もよく聞きます。


そんなことないと思います。いろいろなジャンルの子たちがいて、みんなそれなりのこだわりを持っていると思いますよ。こだわりをわかってあげてないだけじゃないかと思うけど。自由にやっているなと思いますよ。

ーー時代の流れで顧客の嗜好はどのように変わってきていますか。

コロナでずいぶん変わったかもしれないわね。コロナでイベントなどがなくなって、お出かけするお洋服よりも家でリラックスできる服の需要が伸びました。

うちでもフード付きのスウェットをデザインしたらすごく評判が良かった。大人の女性用のものってあまりないんですよ。でも、これからまたセレモニーなどが増えて変わっていくでしょう。

「ブランドアイデンティティ」は変えない

――コロナに対しても柔軟に対応し、最近は来日客に向けた幅広いサイズ展開も始めたそうですね。デザイナーとしてだけでなく、会社の経営者としてブランドを存続させていくために、つねに「五感で時代を感じながらものづくりをすること」をモットーにしているとも聞きました。

変わっていくことも必要だと思う。変わらないとファッションがつまらなくなってしまうから。でも、「YUKI TORII」を維持していくために、オリジナルプリント・ニット・花柄・素材のミックス・上品なかわいらしさというブランドアイデンティティは、しっかり守っていきたいですね。


これまでにつくったオリジナルの花柄生地の数々(写真:主婦と生活社提供)

(安楽 由紀子 : フリーランスライター)