中国のBYD、EVとPHVの販売が急拡大しており、テスラのライバルに名乗りを上げた(撮影:尾形文繁)

世界で加速するEV(電気自動車)シフトの中、台風の目となりつつあるのが中国の自動車メーカー大手のBYDだ。その勢いは2023年第2四半期(4〜6月)の業績からも見て取れる。

第2四半期の売上高は1399.5億元(約2兆8000億円)で前年同期比67%増となった。同じ期間のテスラの売上高(249.2億ドル=約3兆6100億円)の伸び率47.2%を上回っており、絶対額でも近づいている。

勢いはテスラをも凌駕

BYDの営業利益は85.1億元(約1700億円)、純利益は68.2億元(約1365億円)とともに前年同期比から2.4倍。絶対額はテスラ(営業利益が同2.6%減の約3500億円、純利益が同19.7%増の3900億円、伸び率はドルベース)に及ばないものの、勢いでは負けていない。



BYDは1995年に中国・深圳市で創業し、携帯電話向け電池事業を展開してきた。2003年、中国の国営自動車メーカーを買収して自動車事業に参入した。昨年3月にはガソリン車の生産を終了し、以降、乗用車はEVとプラグインハイブリッド車(PHV)のみを製造・販売する。

BYDの業績拡大を牽引しているのは車載電池を含む自動車事業だ。2023年上半期(1〜6月期)の全社売上高は前年同期比72.7%増だったが、自動車事業が91.1%増、祖業のモバイル事業は24.4%増だった。今やBYDの売上高全体に占める自動車事業の比率は80%に達する。

儲けるのが難しいEVで営業利益率は6%

2023年第2四半期の販売台数は70.3万台。前年同期比98.2%増、つまり1年前の2倍になった。前述したようにガソリン車の販売はなく、EVとPHVのいわゆる「新エネルギー車(NEV)」のみでこれだけの販売台数をたたき出す。

このうちEV(乗用車)が35.2万台(同95.3%増)、PHVが34.8万台(101.1%増)。EV専業のテスラの同じ期間の販売台数が46.6万台(同83%増)なので、EVだけで見てもテスラに迫りつつある。


国がNEV普及を強力に後押しする中国市場が主力であることがBYDの追い風になっていることは間違いない。ただし、(EVに限らず)自動車の値下げ競争が過熱している中国の市場環境は決して良好とはいえない。

そうした中、2023年第2四半期の営業利益率は6.1%。一般に電池コストがかさむEVは儲けることが難しいとされるが、しっかりと利益を上げている。

中国の自動車メーカーの多くは国営で、かつ、日系など海外の自動車メーカーとの合弁事業が収益基盤になっている。一方、BYDは民営企業で海外メーカーとの合弁事業を持たない。2008年にPHV、2009年にはEVの販売を開始するなど、NEV市場でもいち早く自社ブランドを育成してきた。

さらに、自前で車載電池を調達できる点も強みだ。2021年に発表した自社製の「ブレードバッテリー」でリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)を採用した。LFPはコストと安全性に優れるが、エネルギー密度が低いため日本勢を含めた既存の自動車メーカーはEVへの採用に後ろ向きだった。BYDはパッケージングの工夫で弱点を補うことでEVへの採用につなげた。


低コストで安全性が高い反面、エネルギー密度に難があるリン酸鉄リチウムイオン電池をパッケージの工夫で使いこなす(撮影:尾形文繁)

BYDはバッテリー以外にも、モーターといったコア部品も内製しているため、トータルでEVの製造コストを抑えることに成功している。航続距離が400キロメートル台のコンパクトカー「ドルフィン」の販売価格は中国で250万円前後を実現している。

EVとPHVの二刀流が強みに

EVとPHVの二刀流も強さに繋がっている。中国の自動車市場に詳しいみずほ銀行主任研究員の湯進氏は、「BYDはPHVでガソリン車の需要を取り込むことに成功している点も大きい」と指摘する。中国のEV市場は高級車と走行距離が短い超小型EVが多く、長距離を走行する中間層にはガソリン車の人気が根強い。

電池が切れても給油して走れるPHVは走行距離の不安がないが、従来は高級車が中心だった。そうした中、BYDはコスト競争力を武器にPHVの価格を引き下げ、PHVの販売台数も大きく伸ばしている。EVとPHVの合計で「規模の経済」が働かせることができている。

BYDは海外進出にも力を入れており、すでに70カ国以上で販売を開始している。前出の湯氏は「各国のEVの政策を活用しながら、海外ではコストパフォーマンスで十分勝負ができる」と分析する。

海外の生産拠点はEVバスの工場を持つにとどまり、現状、乗用車は中国で生産し輸出している。が、海外で乗用車の生産拠点の整備を進めており、タイでは年間15万台のEVの生産能力を持つ新工場を2024年に稼働する予定。ブラジルにも工場を新設する計画だ。

SUVに続き小型EVを日本へ投入

BYDの海外進出は日本にも及ぶ。昨年7月に乗用車市場への参入を発表し、今年1月からEVのSUV「ATTO 3」の販売を開始した。1月から8月までに700台を販売した。全国各地でディーラー業を営む企業などとディーラー契約を締結し、2025年末までに100店舗以上の整備を目指す。


小型EV「ドルフィン」。日本向けに仕様を変更するほどの力の入れようだ(編集部撮影)

日本ではEVのみを販売する投入第2弾として小型EV「ドルフィン」の価格公表と販売開始を9月20日に予定している。シンガポールやオーストラリアでも販売しており、グローバルで43万台の実績を誇る。日本市場で受け入れられるように、立体駐車場に対応できる車高への調整や、ペダルの踏み間違いによる急加速を防止する誤発進抑制システムなどを追加している。

もちろん、日本は新車販売に占める輸入車比率が6%弱(大半はドイツ車)という国産車優位の市場だ。しかも、新車販売に占めるEV比率が約2%(2022年度)とEVの普及も進んでおらず、BYDが大きなシェアを獲得することは考えにくい。

中国メーカーである以上、アメリカ市場への展開も限界がある。それでも日本メーカーの金城湯池である東南アジアを中心に海外でもBYDの攻勢が強まることは確実。当分、BYDの動向から目を離すことはできそうにない。


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(井上 沙耶 : 東洋経済 記者)