「ほっともっと」が500円外食市場で一人勝ち。驚異の380円「のり弁」を提供できる理由とは。「のり弁だけが売れ続けると当社の利益が厳しくなるくらい、ギリギリの価格設定です」

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ほっともっと」が500円外食市場で一人勝ち。驚異の380円「のり弁」を提供できる理由とは。「のり弁だけが売れ続けると当社の利益が厳しくなるくらい、ギリギリの価格設定です」

全国津々浦々に展開されている弁当チェーン、「ほっともっと」。利用をしたことがなくとも、その存在を知らない人はあまりいないのではないだろうか。誰もが知るチェーン店を日本最大規模で運営し続けられる秘密と、日常のあらゆるものが値上げする中で380円という激安の「のり弁」を提供し続けることができる企業努力に迫った。

株式会社プレナスが全国に展開する弁当チェーン「ほっともっと」。この「ほっともっと」のロゴや看板、商品ラインナップなどはすぐに思い浮かぶ人も多いだろうが、そのすごさについてはじつはあまり知られていない。

例えば、「ほっともっと」の店舗がどれくらいあるかご存じだろうか。2023年7月時点、「ほっともっと」は日本全国に2451店を展開している。

これがどれくらいすごいかというと、ファミリーレストランでは、ガスト1281店、サイゼリヤ1069店。牛丼では、すき屋1941店、吉野家1213店、松屋1001店。カフェチェーンでは、スターバックス1846店、ドトールコーヒー1070店。ファーストフードでは、マクドナルド2965店、モスバーガー1292店、ケンタッキーフライドチキン1172店といった規模感になっている(2023年7月時点)。

つまり「ほっともっと」より店舗を展開する飲食系チェーンは、日本ではなんとマクドナルドだけなのだ。「ほっともっと」が、これほどまで多店舗展開している事実はほとんど知られていないだろう。

しかし、この突出した規模があるからこそ、調達や生産においてスケールメリットを発揮し、こだわりの弁当をより安く提供することができているのだ。

本記事では、このスケールメリット以外でも、我々にとってあまりにも身近な存在であるがゆえに、これまで気づかなかった「ほっともっと」のすごさを深掘りしたい。

ほっともっと」の商品力を支える「すごみ」はこの4つだ。

すごみ1 : 1日60トン、40万食のご飯

まず1つめは生産機能だ。約80億円かけて立ち上げられたという埼玉県の自社工場では、おかずや調味料の加工を自社で行い、1つ1つの食材へのこだわりと生産量のコントロールを実現。さらに物流センターを隣接することで、作って運ぶ流れを最大限に効率化している。

なかでもほとんどすべての弁当に入るお米の味には、強いこだわりがあるという。全国に4カ所ある精米センターでは、季節・時期に応じて数種類の米を独自にブレンドし、いつでも美味しい「ご飯」になるための工夫がなされている。

精米過程では、玄米の栄養素を持ちながら白米の美味しさを楽しめる「金芽米」という独自の精米方法を採用。自社精米工場から全国の各店にお米が届けられ、1日約60トン、40万食という、ものすごい量の「ご飯」を扱っているのだ。

すごみ2 : 地域で異なるメニュー

ほっともっと」の商品力のすごみの2つめには、地域ニーズへの対応がある。例えば、人気第3位の弁当「チキン南蛮」は、東京ではタルタルソースと甘酢・南蛮ソースのどちらかを選べる。

「チキン南蛮」タルタルソースVer.

これが、九州地域では甘酢・南蛮ソース1つに絞り込まれていたり、チキン南蛮の本場である宮崎県では特別に手作りのタルタルソースが店で作られていたりするのだ。かつ丼のかつをとじるタレやサイドメニューのミニうどんの汁も東西で味が変えられており、季節商品の天丼のタレはその地域の味の好みに合わせ、九州では甘みの強いものが採用されている。

「チキン南蛮」甘酢ソースVer.

それ以外の弁当でも、地域ごとの好みに合わせたきめ細やかな商品作りが徹底されている。沖縄では「麩(ふー)ちゃんぷるー弁当」、岡山では「とりめし」や「ひるぜん焼そば」など、地域に住んでいる人にしっかり刺さる限定メニューが豊富なのだ。地域ニーズに応える「真のご当地メニュー」の存在は、消費者にとって嬉しい驚きになっている。

すごみ3 : 「から揚」が1~2年でマイナーチェンジされている

3つめのすごみは商品の改良にある。特に、「ほっともっと」の人気第2位の「から揚シリーズ」は、近年本格派のからあげ専門店やコンテスト受賞店が増えている中で、その激戦を勝ち抜くための改良が日々おこなわれているのだ。

日夜マイナーチェンジが繰り返される、から揚弁当

1,2年の間にガラッと変わってしまうというから揚のトレンドを調査し、そのトレンドを取り入れながら、味がリニューアルされる。ちなみに2023年6月のリニューアルでは、薄い衣でパリッと感を重視した味わいを採用した。ただし、もとの味のファンも大切にするために、味を変えすぎない絶妙な改良バランスに注意しているという。

また、から揚は出来立てが美味しいのは当たり前。持ち帰り弁当として、買ってから家で食べるまで、15~30分たっても美味しい味となるよう、数えきれない検証を行ったうえで作られている。仕事終わりに買って帰った、から揚弁当が家で食べても美味しい理由がまさにここにある。

社内でから揚の研究を担当する石井さん

そしてから揚弁当には、「から揚スパイス」と「レモン果汁」の2つの調味料が付いてくる。前者はローズマリーやニンニクなどを独自に配合し、長年ほぼ不変の特別な味として人気で、から揚だけでなくご飯にかけても美味しいと評判だ。レモン果汁は一時期なくしていたが、ファンの根強い要望に応じて復活されたものだという。

大人気のから揚スパイス

ちなみに「から揚スパイス」のレシピの材料比は、社内でもほぼ知る人がいない秘伝の調味料なんだとか。

すごみ4 : この時代に驚異の価格設定

4つめのすごみは驚異の価格の実現だ。「ほっともっと」の商品は、全体的に業界の水準と比べて、原価率が高く設定されているという。それだけ商品1個当たりの利益を下げてでも、安くて美味しい弁当を提供する方針が取られている。

特に人気第1位の「のり弁」は、戦略商品として、380円という驚異の低価格が実現されている。白身魚のフライ、特別に長いちくわ天、たっぷりのきんぴらと漬物、箸で食べやすい特殊な加工をした海苔、おかか昆布、こだわりのご飯、という構成だ。この「のり弁当シリーズ」は、年間約3000万食が販売され、ファンの心と舌を掴んで放さない看板商品となっている。

あらゆるものが値上げしている昨今で、驚異の価格で提供され続けている「のり弁」。どうしてこの価格で提供できているのか、ほっともっと広報に話を聞いた。

株式会社プレナス広報・阪東さん

「のり弁だけが売れ続けてしまった場合、当社の利益が厳しくなるくらい、本当にギリギリの価格設定でやらせていただいています。そのためお立ち寄りの際はぜひ、のり弁以外もご賞味いただきたいです(笑)。固定ファンに支えていただいてる商品ですが、本音を言うと、のり弁を入り口に当社のファンになっていただき、その他のお弁当を買っていただけるようになると嬉しいです」(広報阪東氏)

500円前後の食事は大激戦区

立地や人流を分析する出店戦略、調達戦略、自社工場による生産戦略、そしてマスメディアやアプリ・TikTokなどを活用するプロモーション戦略など、全国に約2500もの店を展開する「ほっともっと」の成功は、様々な戦略によって支えられている。ただ、その中心にある強みは、幾つものすごみに裏打ちされた「商品力」にこそあるだろう。

昨今、「500円前後の食事」という市場は、多種多様で強力なライバルたちがひしめく激戦区になっている。弁当屋という同業のライバルはもちろん、スーパーやコンビニの弁当や総菜、進化著しい冷凍食品やカップ麺、ひと手間の調理でできるレトルトパック。外食サービスでは、ハンバーガー、牛丼、定食屋もあるし、デリバリーサービスも発展を続けている。そうした多種多様なライバルとの競争に、ただ安くて早いだけでは、勝ち続けることはできない。

競争を勝ち抜くには、マーケティングで「コア・コンピタンス」と呼ばれる、他社が真似することができない「競争力の源」が必要となる。こだわりの美味しさと安さを両立した商品力を支える「すごみ」こそ、「ほっともっと」のコア・コンピタンスになっている。

取材・文/永井竜之介

写真/石田壮一