日本では6割の夫婦が陥ると言われるセックスレス。「道具として扱われるよりマシです」と清々しく語る愛さん(仮名・59歳)は、60代の夫が首の頚椎症の手術の後遺症でレスの生活を余儀なくされているといいます。夫婦生活がないまま一生を終える覚悟を決めた妻の心境をお話していただきました。

バツイチ同士の再婚。夫ができなくなっても

お互いに連れ子ありの再婚同士で、2歳年上の夫とは、現在結婚10年目になります。私たち夫婦がレスに陥ったのは3年前のこと。夫がある手術を受けたことが原因です。

●夫の異変。妻が感じたいやな予感

当時、58歳だった夫が、ゴルフの帰りにおでこにたんこぶをつくって帰ってきました。「どうしたの?」と聞くと、「コースをまわっている最中に転んでしまったんだ」と。私は急に胸騒ぎがしてきました。

じつはこのわずか1週間前にも、一緒にスーパーで買い物をしていたとき、なにもない平坦な場所で夫が転ぶ瞬間を見ていたからです。そのときは「ぼんやりしていたらつまづいちゃった」なんて照れ笑いしていたのですが、こんな短期間に2度も転ぶなんておかしい。

「大丈夫なの?」としつこく聞くと、「じつは、足の裏がしびれているような違和感がある」と言い出しました。すぐに病院へ。

●足ではなく、首の手術をすることに…

大きい病院で検査をした結果、夫は首の頸椎が狭まっている頚椎症になっていることが判明。しびれのような足裏の違和感も、この頚椎症の初期症状のひとつだったのです。このまま放置しておくと、将来、下半身が麻痺して車イス生活はもちろん、なにもできなくなる可能性があるという医師からの説明を受けました。

夫の場合、原因は加齢によるところが大きいのだそう。少し転びやすいということ以外は生活に支障がなかったのですが、まだ58歳。今後の長い人生をより快適に生きたいという夫の思いが強く手術を受けることになりました。

●医師は手術をすすめるけれど…

後日、家族も呼ばれて手術の日程とともに、リスクの説明もありました。そのときに医師から言われたのは「歩けるうちに手術をしておくほうがいいけれど、稀に術後に体のほかの部分が通じなくなることがある」ということ。夫はそれでも「早いうちに手術して治してしまいたい」という意志が強かったのですが、私は一抹の不安を感じました。

もともと病院で看護師の仕事をしていて、頚椎症の患者さんをみたこともあったからです。どんな病気でも手術する以上、リスクがあるのはわかっていましたが、いざ夫のこととなるとなにがベストな選択なのか、本当に悩みました。

けれど夫本人の強い意向もあり、手術に踏みきことになったのです。しかし、結果的にこの手術が原因でセックスができなくなってしまいました。

体のつながりがなくなっても、変わらない愛情の形

医師からは「性行為ができなくなる」というところまで踏み込んだ事前説明はありませんでしたが、「術後に体のほかの部分が通じなくなることがある」と言われたときから、私は最悪の事態も想定して覚悟をしていました。なので、ある意味、この程度ですんでよかったと前向きに捉えることもできました。

そして現在60代に突入した夫本人も「手術はしてよかった!」と言っています。以前のように転ぶこともなくなり、今は大好きなゴルフにも復帰することができました。ただ行為だけができなくなっただけ。

もう年齢も年齢なので、このことにわざわざフォーカスして夫婦で話し合いをすることもありませんが、夫からのスキンシップや愛情表現は以前と変わらず…、いや、むしろ深まってきたようにも感じています。

●キスもハグも毎日あります!

夫は「大好きだよ」とか「いつもありがとうね」という感謝の言葉を毎日伝えてくれています。行為ができなくなった分、夫は意識的に言葉やキスやハグなどの愛情表現も積極的にする努力をしてくれているのかも。

寝るときも一緒のベッドに並んで眠りにつくのですが、「少し触らせて」と胸元に手を入れてくることもあります。もうこれから先、夫と夫婦生活がないことが確定していますが、私はこういう触れ合いだけで十分に満足です。

●今更「ない」くらいでは悩みません

私たちは、人生の中盤に巡り合えた再婚同士の夫婦。お互いの子どもたちも成人していて、性欲優先でガツガツ相手を欲するような年齢でもないので、こうして穏やかな時間を過ごせているのかもしれません。

夫に出会うまでの若き日の道のりが、私の場合かなりキツかったので、今は神様がくれた人生のご褒美タイムなんじゃないかとさえ思っています。性欲処理の道具みたいな扱われ方をされるよりよっぽどいい。できなくなったからって、夫への愛が冷めることもありません。

●目標はキレイなおばあちゃん!

ただ、更年期なのか、しなくなったことが原因なのか、理由はハッキリはしないのですが、女性ホルモンとかのバランスが崩れてきているのかな…という自覚はあります。

そして年齢的にもシニアに差し掛かってきましたが、女性らしい美しさに磨きをかけていくことは怠らないようにしていこうと考えています。なので、エステや美容室へはきちんと定期的に通って、夫と出かけるときには服もメイクもオシャレにするなど、いつまでもときめいてもらえる存在でいられるように努力をしているし、そういうところを夫も喜んでくれています。目標はキレイなおばあちゃんになること。

「今日もかわいいね」と夫に言ってもらって毎日2人で微笑み合えるよう、1日1日を大切に生きていきたいと思っています。