長いこと夫婦で暮らしていると、「夫」との関係性に少し悩みを抱えているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。定年退職などで夫が家にいる時間が長くなるほどに、自由がなくなって不満を抱く人も多い一方で、「60代になってから一周回って夫との関係がよくなった」と語るのが、脳科学者の黒川伊保子さんです。

 著書『60歳のトリセツ』(扶桑社刊)を発刊したばかりの、黒川さんに、60歳から夫との関係性がよくするコツを伺いました。

60代からの夫婦円満のコツ

「家にいる夫が、まったく気が利かない。言われたことしかやらない」、「夫に家事を任せても、結局完璧にはやってくれないので、あと始末が大変で自分の仕事が増えるだけ」

そんな不満を抱える妻は、決して少数派ではありません。年を重ねれば重ねるほどに、その傾向は高まっていきますが、これに対して、「『夫が役に立たない』と妻が感じてしまうのは当然のこと」と黒川さんは指摘します。

●「自分がものすごく優秀である」と気づくこと

「家庭を切り盛りする主婦はとにかく優秀です。それが、60代のベテラン主婦にもなれば、なおのこと。彼女たちの気遣いや機転はものすごくて、周囲からみれば日々高速二重飛びをしているようなもの。その世界観には、夫はもちろん、子どもたちだってついていけません。だけど、その事実について本人は気がついておらず、『なんでみんなは私についてこられないの?』と思うから、不満に感じるわけです」

だからこそ、世の中の夫婦は「ベテラン主婦は、優秀すぎる存在であること」にもっと気がつくべきだと黒川さんは語ります。

「これまで家事にほとんどタッチしてこなかった夫たちが、そんな凄腕の主婦である妻たちについてこられないのは当たり前のこと。いきなり家事を始めても、妻が望むことが予測できるわけがありませんから」

●夫と家事をする場合は、担当制に

夫婦の間で家事能力に大きな差がある前提で、どうしたら家庭内で上手に家事を分担できるのでしょうか。重要なのは「担当制」をつくることなのだとか。

「夫は、絶対に一緒には作業してはいけません。なぜなら、妻の動きにはついてゆけないので、足を引っ張るだけだから。洗濯担当や料理担当など、縦割りの担当制にしましょう」

また、妻側も、できるだけ自分の思っていることを伝える努力が必要です。

「『なんとなく私がやっていることをサポートしてくれないから、うちの夫はダメだ』と思うかもしれませんが、具体的になにをしてほしいか言わないと、スタート地点が違う夫にはまったく伝わりません。また、仮に夫になにか任せたら、失敗を責めないこと。人が育っていくうちには、当然失敗もします。そう考えると一気に大変な作業になってしまうので、面倒になるかもしれませんが、『夫婦2人で生きていこう』という覚悟を持つなら、ぜひ意識してほしと思います」

●想いを伝えないと、好意が悪意に転じる可能性も

ただ、想いを伝えることは、夫側もきちんと誠意をもって行うべきです。場合によっては、言葉が足りなかったがゆえに、よかれと思った発言が悪意のこもった発言だという誤解を生むことも…。

「以前、私が自宅のキッチンカウンターで手を打って痛がっていたとき、夫がそれを見て『そのキッチンカウンターって、その高さで10年前からそこにあるよね?』と言ったんですね。その言葉を聞いて、『10年前からあるものにぶつかる私が悪いって言いたいのかしら?』と、すごく腹が立ったんですが、夫に言わせたら『このキッチンカウンターは前からあるのに、いまさら手を打ってしまうということは、その脇に置いてあるワゴンの位置など、なにか配置に悪い部分があるのかもしれない』と思ったと。

男性は、そこまでキチンと言わないから決して悪気があるわけじゃない。でも、女性は発言の意図が理解できずに腹が立つわけです。きちんと言葉にしないと、伝わらないんですよ」

●60代になってから、夫のことをもう一度好きになった

現在お互いに60代だという黒川さんも、夫とはよくケンカをするのだとか。いまだに腹が立つことも多いものの、60代になってからは夫への愛情が高まっていると語ります。

「夫とは37、38年くらい一緒にいます。いまだに『なんで私の思う通りにやってくれないんだろう』と腹が立つことは、たくさんあります。一方で、『私にこれだけ責められても平気な顔をしているのは、この世の中で夫だけだろうな』という安心感もありますね。

40年近く一緒にいる蓄積があるから、私の物言いにも夫が慣れている。昔は、私がなにを言っても平気な顔をする夫にイライラしましたが、いまは一周回って、『こんなに打たれ強い人はなかなかいないはず。じつは夫ってすてきな人なんだな』と思うようになりました。夫婦って不思議ですよね(笑)」

また、長年一緒にいるからこそ、強い安心感も生まれているのだとか。

「私自身、以前はどこかで『この人、私のことまだちゃんと愛しているのかしら?』とは疑う部分があったのだと思います。でも、もう60代にもなれば、『相手にも私しかいないし、私にも相手しかいない』とわかっているから、本能的にその疑いが消え、安心できたのかもしれません」

黒川伊保子さんの書籍『60歳のトリセツ』(扶桑社刊)では、60代からの人生をもっと楽しむ秘訣を多数紹介しています。