女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。 一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地であり、その後も定期的に訪れるスウェーデンのこと(フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと)などを写真と文章でつづります。第28回は、手づくりの「福神漬け」について。つくることになったきっかけと、気になるお味は…?

年齢を重ねるごとに変化する「味」の好みと新たな発見

夏の食卓に欠かせないメニューといえば、カレーですよね。食欲の湧かない日でもカレーの香りがしてくると自然と元気が出てくるから不思議です。

【写真】川上麻衣子さんの見た目も楽しい朝食

最近は、種類も豊富でサラサラな薬膳カレーやインディアンカレー、スリランカカレーも体によさそうです。

子どもの頃からだれもが好きなカレー。そんなイメージがありますが、味の好みは年々変わってきました。幼い頃はりんごと蜂蜜がとろーり溶けてる系のカレーが大好き。もちろん味つけは甘口でした。中学生頃に中辛のおいしさを知り、ちょっと大人になった気分を楽しみながら、年を重ねるうちに、香辛料のきついカレーの魅力を知るようになりました。

最近わが家では自宅でつくるカレーとしてグリーンカレーの出番がグッと増しています。ココナツミルクやクミン、ナンプラーといった食材がキッチンにあるだけで、健康志向的な生活を心がけている気分が盛り上がりますし、なにしろ料理の腕があがったような気さえしてきます。

ローレルの葉、八角、カルダモン、ガラムマサラあたりも「やる人」感が増す食材な気がします。つまりは香辛料を上手に使いこなせるかどうかがカギといえそうです。

世界各国に古くから伝わるスパイスの奥は深く、私の場合若い頃よりも40代後半くらいから、一挙に興味が湧いてきました。これは年齢によって味覚や嗜好が変わることが影響しているのかもしれません。 

●梅に、みそ、新ショウガ…季節の「手仕事」が暮らしの基本に

幼い頃と嗜好が変わったと言えば、カレーには必須の福神漬けとラッキョウについても変化を感じます。

福神漬けは大好きだけれど、ラッキョウは苦手。そう思い込んで過ごすこと40年。ある日知り合いからいただいた自家製の塩漬けのラッキョウを半信半疑で口にしたときに受けた衝撃は今でも鮮明に覚えています。

市販の小ぶりで甘い味つけのものしか知らなかった私にとって、歯応えもシャキシャキで、大ぶり。ベタっとした甘みもなくシンプルに漬けられたラッキョウは臭みもなく、一瞬で虜となりました。

●大好きな「福神漬け」を手づくりしようと思い立ち…

このラッキョウ事件をきっかけに、私の「季節の手仕事」が始まったといっても過言ではありません。梅仕事にみそづくり。新ショウガの甘酢漬けやユズコショウ。発酵ショウガなどなど。季節に応じてつくっては冷蔵庫に常備する楽しみは年々増えています。なのに…。

今までなぜか自家製にしなかった一品があります。カレーのお供として欠くことのできない一品。ラッキョウはお手製に目覚めたというのに。ときにはスプーン1杯ですまないほど好物の一品。そう「福神漬け」です。

いつもスーパーで、数種類置いてある福神漬けの中から、なるべく赤過ぎず野菜の素材感がわかるものを選ぶように努めてきましたが自家製に至ることはありませんでした。

ところがある日、突然に「そうだ! 福神漬けをつくろう!」と思い立ちキッチンへ。ところが果たして福神漬けの正体はなんなのか。意外と材料がわからないことに驚きました。大根とキュウリ、レンコンも入っていたような。あとなんだか細長く黒っぽいなにかが入っていたはず。ムンクの叫びのような形をしたなにか。

昆布に似たような、でも昆布ではないなにか。いやいや考えてみると、なぜ私は今までなにも疑わず福神漬けの中のそれを、当たり前のように食してきたのだろうか。便利な世の中にあって、その正体はネット上にすぐ見つけることができました。

「刀豆(なたまめ)」

これがまた想像以上に大きく、私の予想とはまったく形であったことにも驚きました。幼き日に福神漬けを口にしてから50年以上の年月を経て、初めて知った衝撃の事実でした。この世の中、まだまだ知っているようで知らないことにあふれているであろうことを教えてくれた福神漬け。

●冷蔵庫にあるもので意外と簡単においしくできた!

自家製用に刀豆をそろえることはできませんでしたが、福神漬けの定義は「大根、ナス、ウリ、キュウリ、ショウガ、ナメタケ、レンコン、シソ、タケノコ、シイタケ」などから5種類以上を主原料としたものだそうです。

 幸い冷蔵庫に余っていた大根、キュウリ、レンコン、ショウガ、ナスで十分おいしい自家製福神漬けが完成。味つけはしょうゆ、日本酒、みりんに黒糖で少し甘みをたしました。

ちなみに、ショウガは自家製の発酵ショウガ(すったショウガや、刻んだショウガをビン詰めして1か月醗酵させたもの)を活用。

コクが出ておいしいんです。

この福神漬け、ポテトサラダに混ぜてもおいしく、最近のお気に入りです。

諸説あるそうですが、多種の野菜を使うことから七福神の神様に見立てて命名されたという縁起のよい福神漬け。冷凍保存もできてしまう優れものですので、ぜひお試しくださいね。