書籍の発禁(発売・頒布禁止)処分の試みがアメリカ全土で急増しており、アメリカ図書館協会が2023年3月に発表した報告書によると、学校や公共図書館での本の禁止や制限が行われた例は2022年に前年の約2倍となる1200件が確認され、歴代最多を記録しました。発禁とされる理由には人種差別やLGBTQの問題も深く関わっており、発禁に対する抵抗運動や訴訟が各地で見られるほか、公共図書館が発禁図書をデジタルで取り扱うなど、自由に読書をする権利を守るための運動が広がっています。

Banned books: Here's where to read them for free | Mashable

https://mashable.com/article/read-banned-books-access



Book ban attempts reach record high in 2022, American Library Association report says | PBS NewsHour

https://www.pbs.org/newshour/arts/book-ban-attempts-reach-record-high-in-2022-american-library-association-report-says



書籍の内容や特定の描写が問題視されて、出版を禁止されたり図書館から取り除かれたりするケースは数多く見られています。例えば、アメリカ図書館協会の発表によると、「ハリー・ポッターシリーズ」の本は2001年から3年連続で「最もクレームが入った本トップ10」に名を連ねており、2019年には同シリーズがローマ・カトリック教系の学校図書館から取り除かれたことで話題になりました。本が取り除かれた理由として、ローマ・カトリック教区の主任司祭は「ハリー・ポッターシリーズでは魔法が善悪の両面から描かれていますが、これは巧みなうそであり真実ではありません」と説明。司祭の声明に対しては「フィクションという言葉の意味を思い出させてあげて」「魔法は実在しません」など疑問視する声が寄せられました。

ハリポタの本に「本物の魔法の呪文が書かれている」としてアメリカの学校図書館が撤去を決定 - GIGAZINE



by Bev Sykes

アメリカ図書館協会が2023年3月に発表した報告書によると、2022年に記録された書籍の禁書や禁書未遂の報告は1200件を超え、2021年の729件から倍近い数まで増加したことが明らかになりました。2021年にも「2020年の数字の2倍以上に増加した」と発表されており、年々急増していることがわかります。

また、書籍に対する異議申し立て自体も近年で大幅に増加しており、2019年は566冊が対象となっていたところ、2021年は1858冊、2022年は2500冊を超える異議申し立てがあったとのこと。また、1件の苦情で数百冊の書籍が異議申立の対象となったケースも数多くあったそうです。アメリカ図書館協会の会長を務めるレッサ・カナニオプア・ペラヨ=ロザダ氏は報告書に合わせた声明の中で、「プロの図書館職員は毎日、保護者と話し合い、子どものニーズに最適な読み物を熟慮して決定しています。しかし現在、多くの図書館職員が自分や周囲の保護者の読みたい本を若者に提供する働きかけをしたことで、雇用や個人の安全が脅かされ、場合によっては訴追の脅威にさらされています」と発禁処分の過熱ぶりについて語っています。



アリゾナ州、アイオワ州、テキサス州、ミズーリ州、オクラホマ州などでは書籍の制限を促進する法案が提案または可決されている他、フロリダ州では「性自認に関する教室での議論を制限する法律」を承認し、ジェンダーや人種の描写を含む小説が一時的または無期限に学校図書館から撤去されています。また、2021年にはテキサス州の下院議員が州内の学校教育長に対し、人種とセクシュアリティに関する850タイトルの書籍リストを送り、リストにある書籍を所蔵しているかどうか開示するよう要請したことが報道されました。

一方で、書籍の発禁処分の活発化は「文学に対する攻撃」だとして、反対・抵抗する運動も盛んになっています。2023年5月には非営利団体のPENアメリカと世界最大の出版社であるペンギン・ランダム・ハウスが、「学校図書館から書籍を撤去したフロリダ州の学区」を相手に連邦訴訟を起こしました。

また、フロリダ州ウォルトン郡が「発禁」としたリストを公開した際には、著作がリストに含まれていたローレン・グロフ氏は「私の著書『運命と怒り』は発禁図書リストの49番目に示されていますが、これはおそらく成人による合意に基づいたセックスや中絶が含まれているためだと思われます。ウォルトン郡の公立学校の生徒が私の本をこっそり学校の図書館の本棚に置きたいと思ったら、喜んでコピーを郵送します」と発禁処分に抵抗する意思をツイートしました。





同様に、テキサス州の学区で著作が発禁処分を受けたアンジー・トーマス氏は、「私の作品が禁止されたと聞いて悲しくなりましたが、同時に力づけられました。私はもっと大きな声で伝えていくつもりです。火をつけてくれてありがとう」と強く抵抗を続ける姿勢を示しています。





その他、公共図書館自体が発禁に対抗するキャンペーンを行っているケースもあります。ブルックリン公共図書館は2022年半ばごろ、10代の若者主導で「Books Unbanned(禁止されない書籍)」というプロジェクトを立ち上げました。Books Unbannedのプログラムにより、アメリカ全土の若者は無料のデジタル図書館カードに登録することで、発禁処分を受けた書籍にアクセスすることができるようになります。Books Unbannedのトップページでは、「全国の十代の若者たちは、好きな本を読み、自分自身を発見し、自分の意見を形成する権利を持っています。ブルックリン公共図書館は、その権利を求めて闘っている人々に加わります」と記載されています。



ブルックリン公共図書館の理事を務めるアイダ・ベイ・ウェルズ氏は、Books Unbannedのプロジェクトについて「これはとても素晴らしい動きであり、本を禁止していない州の他の機関が、本を禁止している州に住む人々をどのように助けることができるかを示すひな形でもあります。ブルックリン公共図書館の理事であることを誇りに思います。健全な社会は本を禁止しません」と述べています。





また、ブルックリン公共図書館の社長兼最高経営責任者であるリンダ・E・ジョンソン氏はプレス声明の中で「一部の人に拒否された本が、すべての図書館の棚から削除されてしまうのを、私たちは黙って見ているわけにはいきません。Books Unbannedは検閲に対する解毒剤として機能し、全国の十代の若者が私たちの広範な電子書籍やオーディオブックのコレクションに無制限にアクセスできるようになります。そこには、自宅の書庫で禁止されている可能性のあるものも含まれるはずです」と語っており、書籍を禁止しようとする動きに対抗する意思を示しています。