過去の株価の最高値を久々に更新した企業を抽出し、更新までに要した時間の長さでランキングした

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日経平均株価は今年3月の安値から6000円近く上昇。6月は3万円台が定着し、バブル後最高値も更新した(撮影:尾形文繁)

日本の株式市場の代表的な指標である日経平均株価は6月19日、3万3772円を一時つけ、バブル後最高値を更新した。6月を終えた段階で約10年ぶりとなる6カ月連続の上昇、しかも約33年ぶりの高値圏だ。こうした中、日経平均「4万円到達」説を唱える市場関係者が増えてきた。

日経平均の史上最高値は1989年末の3万8915円。早ければ今年の年末、遅くとも2〜3年以内には、この記録を塗り替えると「4万円論者」はみている。到達時期はともかくとして、日本株には大きなポテンシャルがあるとの意見には一定の理がある。

最大の根拠は、PBR(株価純資産倍率)の改善余地の大きさだ。東京証券取引所は今年3月、PBR1倍割れの企業に対して改善策を取るよう異例の要請を行った。「事業をやめて資産を株主に分配するほうが合理的」。端的にいうとPBR1倍割れとは、市場がそう評価している状態となる。

「PBR1倍割れ」=「株主還元余地が大」

「海外ではPBR1倍割れの企業というと、財務に問題がある場合が多い。だが、日本株の場合、1倍割れでも財務が健全で株主還元余地のある企業が多い」。楽天証券経済研究所の窪田真之チーフ・ストラテジストはそう話す。

PBRを改善するための手段の1つが、自己株買いや増配などの株主還元だ。PBR改善の動きに伴い、株主還元などが強化されれば、株価上昇の余地は確かに大きい。

ニッセイ基礎研究所のリポートによると、TOPIX(東証株価指数)を構成する企業の約半数がPBR1倍割れに陥っている。旧1部上場企業であっても、その約半数がPBR1倍を割っていることになる。

海外の代表的な株価指数の構成企業で1倍割れ企業の比率をみると、アメリカのS&P500は5%、ヨーロッパのSTOXX600は24%。日本がいかに低調かがわかる。裏を返すと、日本株は大きく変わる可能性がある。

こうした期待が膨らむ背景には、総合商社株の変貌があるのかもしれない。

伊藤忠商事を除く大手4社では、これまでPBR1倍割れが常態化。業績の割に株価は冴えなかった。野村証券の成田康浩リサーチアナリストは、「総合商社は時に多額の損失を計上することがあるうえ、資産の入れ替えも十分ではなかった」と指摘する。

だが最近は、過去の反省を生かして投資を実行する一方、株主還元も強化している。そうした中、5大商社の株にいち早く目をつけたのが、アメリカの著名投資家、ウォーレン・バフェット氏だった。

今年4月にはバフェット氏が訪日し、各社の経営トップと相次いで会談。6月には平均8.5%超まで株を買い増しした。バフェット氏が食指を動かしたことも相まって5大商社の株価は上昇を続けた。その結果、現在はおおむねPBR1倍割れを解消している。

海外投資家が日本に目を向ける地合いも整いつつある。「日本銀行の黒田東彦前総裁の下、日本経済は長く続いたデフレから脱却することができた」(窪田氏)うえ、利上げに踏み切った欧米とは異なり金融緩和策を継続している。

相対的に高まる日本株の魅力

不安定な国際情勢も有利に働いている。海外投資家が警戒感を強めるのは何といっても米中関係の悪化だ。

実際、バフェット氏は3月末までに、半導体受託生産の世界最大手である台湾TSMCの株式をすべて売却した。中台間の地政学リスクが念頭にあったとされる。地政学リスクの低い投資先として、日本という選択肢は十分有望という訳だ。

海外投資家の買い余力はまだ大きいとみるのは、SMBC日興証券の伊藤桂一チーフクオンツアナリスト。「アベノミクスの際に海外投資家は、12年11月から15年5月までに日本株を20兆円以上買い越した」と指摘。一方で、今年3月末から6月初旬までの買い越しは約5兆円にとどまるという。

上場3863銘柄中285銘柄が2023年に入って最高値を更新した(6月23日時点)。そこで今回、過去の最高値を久々に更新した企業を抽出、更新までに要した時間の長さでランキングにしてみた。

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ランキングでは上位40社のうち、積水ハウスを筆頭とするトップ10中8社が、1989〜90年以来の高値更新となった。


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ランキングでもう一つ目を引くのが半導体関連だ。とくに半導体検査装置のアドバンテストや半導体製造装置メーカーの芝浦メカトロニクスは、ともに1999年以来の最高値更新となる。戦略物資として世界各国が半導体確保に力を注いでいることが追い風になっている。

インバウンド銘柄も名を連ねる。中古ブランド品の販売で大都市圏に大型店を展開するコメ兵ホールディングスや漫画・アニメグッズを販売する、まんだらけなどだ。

ただし、PBR改善にせよ、中国の代替投資先になるというシナリオにせよ、市場の期待が先行している面は否めない。実績が伴わなければ、日経平均4万円をうかがう勢いはつかの間、風は凪いでしまうかもしれない。


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(大塚 隆史 : 東洋経済 記者)