時代遅れになっている上意下達の「昭和型」のコミュニケーション。職場でのコミュニケーションがうまくいかず、モヤモヤする人が激増中(写真:すとらいぷ/PIXTA)

一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに1000人の話し方を変えてきた岡本純子氏。

たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれている。

その岡本氏が、全メソッドを公開し、累計20万部のベストセラーとなっている『世界最高の話し方』『世界最高の雑談力』に続き、待望の新刊『世界最高の伝え方── 人間関係のモヤモヤ、ストレスがいっきに消える!「伝説の家庭教師」が教える「7つの言い換え」の魔法』がついに発売された。

コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「問題上司の『効果がないどころかマイナス!』の"残念すぎる"声かけ20選」について解説する。

部下に注意できない「口チャック上司」が激増中

みなさんは、最近、身近な人とのコミュニケーションで、イライラやストレスを感じることはないでしょうか。


たとえば、職場で、

「部下を叱りたいが、〇〇ハラになるのではないかと、怖くて何も言えない」

「 部下に何か言ってもまったく響かない、伝わらない」

「同僚を注意したいが、うまくいかない」

「職場の人と話が弾まない」

など、昨今の「リモートワーク」普及「飲みニュケーションの減少」「〇〇ハラ回避」と、昭和・平成型オフィスワーカーたちにとっては「三重苦」とも呼べる状況で、言いたいことも言えない「口チャック上司」が激増中です。

「部下や同僚、後輩にうまく伝えられず、モヤモヤする……」

「話し方の家庭教師」である私が、最近、とくに耳にするのが、こうしたお声です。

私は、トップリーダーたちにプレゼンやスピーチのコーチングをする傍ら、研修やワークショップ、講演を通じて、日本各地の老若男女さまざまな方のコミュニケーションのお悩みを聞いてきました。

「知らない人との雑談や会話大勢の人の前で話すことが苦手」という人が多いのですが、最近、よく耳にするのが、ほめ方や叱り方、指導、説明などといった職場の部下や同僚、家族との一対一の「伝え方」の悩みです。

叱れない、ほめられない、うまく説明・伝達ができない……。

「昭和型」コミュニケーションをアップデート

そこには、トップダウンで厳しく叱りつける、上の立場の人間が命令し、下の人は「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」をする、といった、上意下達の「昭和型」のコミュニケーションが時代遅れになっているという背景があります。

かつては、「一億総中流」「護送船団」などと言われ、まさに以心伝心を地で行くように、「言わなくてもわかる」「言えばわかる」という「阿吽の呼吸」的なコミュニケーションや、厳しい叱りつけが許されていました。

しかし、価値観が多様化し、「昨日までの常識が今日の非常識」という変化の早い時代に、「じゃ、そこんとこ、よろしくね」とか「なめてるんじゃねえ!」などといった言葉で済ませることはできなくなっています。

その変化に対応して、コミュニケーションもアップデートすべきなのですが、肝心のやり方がわからない。そうやって、日ごろの意思疎通に難しさを感じ、悩む人が増えているというわけです。

では、ここで、みなさんの「伝える力」を簡易診断してみましょう。

部下や周囲の人に対して、下記のような言葉を多用していないでしょうか? 日頃使っている言葉をチェックして、数えてみてください。

「努力が足りない」
「やる気がない!」「やる気だして」
「気合いだ」
「全身全霊でいけ」
「自分を信じろ」
「自分から動いて」
「もっと、本気を出して!」
「早くして」
「ちゃんとやって」
「集中して」
「自信持って」
「まあ、よろしく頼むよ」
「しっかりしなさい/やって」
「いい加減にして」
「緊張しないで」
「だらしない!」「たるんでいる」
「〇〇したらダメ!」
「全然できてないじゃないか」
「何度言えばわかるの?」「何度も言わせないで」
「あなたはいつも……(欠点を指摘する)」

さてみなさん、いくつ当てはまりましたか?

16〜20個 「パ(ワハラ)リーグ」堂々の首位打者! 完全に「ヤバい人」です。
11〜15個 「パリーグ」レギュラー。周りからウザがられていませんか?
6〜10個 「パリーグ」補欠。危険水域に突入しています。
1 〜 5個 セーフ!

これらの言葉を多用している方は注意が必要です。なぜ、ダメなのでしょうか?

「根性論」「精神論」の「スポコン」系の言葉

まず、最初の5つ。

「努力が足りない」
「やる気がない!」「やる気だして」
「気合いだ」
「全身全霊でいけ」
「自分を信じろ」

これらは、スポーツ指導の現場などでよく使われそうな言葉の数々ですね。威圧感や怒気たっぷりな上司や指導者の顔が思い浮かびます。

根性論、精神論の壮絶「スポコン」系の言葉、たとえば、「努力」「やる気」「気合」「全身全霊」といった抽象語を投げかけられて、みなさんならやる気が出るでしょうか?

なかには、「強い口調に、一瞬気分が上がる、闘志が湧く」と言う人もいるかもしれませんが、実際の行動や永続的な行動変容には結びつきにくいものです。

たんなるド根性言葉や精神論は、部下のメンタルを鍛えることにも、パフォーマンスを上げることにもつながらないのです。

続く、

「自分から動いて」
「もっと、本気を出して!」
「早くして」
「ちゃんとやって」
「集中して」
「自信持って」
「まあ、よろしく頼むよ」
「しっかりしなさい/やって」
「いい加減にして」

といった言葉の数々。ついつい口から出てしまいそうな言葉ですよね。

これらがNGなのは、すべて、あいまいで、じつは意味不明だからです。

「具体的な行動」をイメージしにくい

こうやって、声掛けされて、すぐに体が動く人はそうそういません。

なぜなら、「実際にどのような行動をすべきなのか」が、まったく頭に浮かばない、イメージできない言葉だからです。

「自分から動く」って何を動かすの? 「本気」って何でしょう? 「早く」とはどれぐらい急ぐ必要があるのか? 「ちゃんと」って、「何を」ちゃんとでしょうか?

「集中」できない、「自信もない」から、困っているわけで、「集中しろ」「自信を持て」と言われて、できるぐらいなら苦労はしませんよね。

「よろしく」って何を? 「しっかり」「いい加減にして」。これらもよく使われる言葉ですが、じつは意味不明です。

こうした言葉は言うだけ無駄。その言葉を発するエネルギーと時間を、「ほかの言葉に置き換える努力」に振り向けたほうがいいわけです。

そして、最後の6つ。

「緊張しないで」
「だらしない!」「たるんでいる」
「〇〇したらダメ!」
「全然できてないじゃないか」
「何度言えばわかるの?」「何度も言わせないで」
「あなたはいつも……(欠点を指摘する)」

これらの言葉の問題点は、人の「ネガティブばかり」にフォーカスする「ダメ出し系」であることです。

「否定語中心」では、「人の成長」を阻害する危険性

食べ物が身体を作るように、言葉は心を作ります

「ネガティブな言葉」は相手の頭の中にそのイメージを植え付け、萎縮させたり、挑戦心を奪ったりする結果になりやすいのです。

こうした「否定語中心のコミュニケーション」は、「人の成長」を阻害する危険性をはらんでいます。


岡本純子さんの「伝え方セミナー」を8月6日(日)に紀伊國屋書店札幌本店(詳しくはこちら)、9月13日(水)に紀伊國屋書店梅田本店で(詳しくはこちら)それぞれ実施します。

このように、じつは効果がないばかりか、逆効果になるような言葉を平気で使い続けている日本人は非常に多いのが実情です。

というのも、前述のとおり、同質性の高いタテ社会の日本では「暗黙知」や「共通理解」に基づくコミュニケーションが一般的で、それこそ、意味不明の根性論や言葉にしない威圧感だけでも、何とかなるという「神話」あったから。

しかし、時代は大きく変わりました。そんな意味不明の指示や声掛けでは人はさっぱり動きません。

聞「かない」効「かない」言葉を、人の行動を「かえる」言葉に。

新刊『世界最高の伝え方』では、言葉のバージョンアップに役立つ「7つの言い換えの魔法」のほか、「叱る」「ほめる」「説明」の世界水準ルールを数多く紹介しています。

ぜひ、活用して、日頃の「モヤモヤ」「イライラ」解消にお役立てください。

(岡本 純子 : コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師)