防災や教育分野への活躍期待、いまから知っておきたい最先端技術「デジタルツイン」の現状と可能性に迫る
IT技術の進化で、都市を仮想空間に作る「デジタルツイン」が実現してるかも
もし、私たちが住んでいる世界とまったく同じ世界、仮想空間上にあったとしたら……。そうすれば、現実では不可能で大掛かりな実験をしたり、考えもつかなかったエンターテインメントを開催できたり、どこまでも可能性が広がるでしょう。
実はそんな夢のような話が実現しつつあります。それが「デジタルツイン」と呼ばれる、IT技術により、道路、建物、環境、昼夜の状況まで、精密に仮想空間上に再現された双子の都市のことです。
この記事では、今後、さまざまな分野で活躍が見込まれるデジタルツインについて、長年3D都市空間データ事業に携わり、6月中旬には新製品「REAL 3DMAP TOKYO for XR」も発売した株式会社キャドセンターの取締役社長・橋本拓さん、同社コンテンツデザイン開発グループの赤石隼也さん、中村勇樹さん、プロデュースグループの岡本真希さんに話を伺いました。
国や自治体も力を入れる「もうひとつの都市」
デジタルツインという言葉自体に聞きなれない人もいるかもしれませんが、実は国や地方自治体が積極的に進めている取り組みです。東京都では「東京都デジタルツイン実現プロジェクト」をスタートし、2030年に「あらゆる分野でのリアルタイムデータの活用が可能となり、意思決定や政策立案等で活用」されるという目標を掲げています。
また、国土交通省は2020年度から日本全国の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を目指すプロジェクト「Project PLATEAU(プラトー)」を開始しています。
今年度、「PLATEAU(プラトー)」は「実証フェーズを超え、本格的な社会実装のフェーズに入ります」と発表し、年間を通して開発コンテストなどさまざまなイベントを実施予定。2023年度の国交省予算においても、都市空間情報デジタル基盤構築調査に10.5億円、都市空間情報デジタル基盤支援事業に10.5億円を計上しています。
「建築でビル設計の際に制作するBIM(※Building Information Modelingの略で、詳細な属性データがプラスされた3D図面)という概念がありまして、ビルのメンテナンスに活用するのですが、これを連携させてデジタルツインにしようと国が動いています。予算もかなり投入されているようです」(橋本さん)
「デジタルツイン」の概念自体は、30年以上前、イェール大学のデイヴィッド・ガランター(David Gelernter)氏が著した『Mirror Worlds』で提唱されていますが、日本で浸透し始めたのは国交省が打ち出した「PLATEAU(プラトー)」の影響が大きい、と橋本さん。
「弊社は20年以上前から、国内の政令指定都市を中心に3D都市データの整備事業に携わっており、それを活用したシミュレータや映像作品などを作っていました。ですので、ある意味デジタルツインのような技術は昔から持っていたんです。ただ、デジタルツインという言葉が日本で浸透したのはこの2〜3年。やはり『PLATEAU(プラトー)』の発足が大きなきっかけです」(橋本さん)
3D都市データやデジタルツインを防災に役立てる
それでは、実際に3D都市データやデジタルツインはどのように活用されているのでしょうか。まず先行しているのが、防災避難啓発VRなどの防災分野です。
「『PLATEAU(プラトー)』のデータを活用して開発した事例では、自治体による取り組みでは全国で初めて、熊本県玉名市の防災VRを今年3月に公開しました。玉名市の近くに流れる川が決壊した際、水害被害がどのように発生するのか。実際の街並みを再現したリアルな3D都市を作り、シミュレーション上でそこに大雨を降らせて浸水の様子などを疑似体験できるようにしました」(岡本さん)
実際にVRゴーグルをかけて体験しましたが、水しぶきが上がり、道路が水没する様子は臨場感たっぷり。静かな街がこうも変わるのかと驚かされます。
「災害VRの良さはやはり “自分ごと” にできるところ。あらかじめ体験しておくと、いざというときに心の余裕が違います」(中村さん)
もうひとつ、東京都港区の複合施設「東京ポートシティ竹芝」周辺でも、興味深い取り組みが行われています。それが、東急不動産とソフトバンクが共同で推進する実証実験プロジェクトのひとつとして、国土交通省ユースケースに採択された「エリアマネジメントのデジタルツイン化ver2」です。自治体や施設管理者、帰宅困難者などがリアルタイムに情報を把握し、共通認識を持つことで、円滑な避難行動を実施できるデジタルツインで、キャドセンターは同施設のBIMデータと周辺の「PLATEAU(プラトー)」データを使った「バーチャル竹芝」(3D都市モデル)を構築。3D都市モデルの高精細化と、ビューワアプリの開発を担いました。
「『バーチャル竹芝』では、高精細なCGが簡単にスマホや施設管理者のビューワ上で見られるようになっています。そこに人流情報を乗せるなど、さまざまな状況での竹芝を把握できるようにしました」(赤石さん)
大規模災害発生時における滞留者支援として、避難誘導時のソフト面での対応に大いに役立つ、と語ってくれたのは岡本さん。
「たとえば実際に災害が起きたときに、東京ポートシティ竹芝やそのほかのビル、学校に、帰宅困難者が何人まで受け入れ可能かをウェブですぐ表示できる仕組みになっています。また、ユーザーも画像登録できるため、危険な箇所の情報も共有できます。この竹芝エリアについてはかなりリアルに作り込みをしましたので、人間の目線まで降り立っても街並みがリアルに見えるようになっています」(岡本さん)
教育から観光まで、生活に欠かせないデジタルツインの可能性
「当社の例ではないですが、『PLATEAU(プラトー)』のデータを市販の都市開発ゲームに読み込み、それを都市づくりの教材に活用するという試みもありました。どうしたら住んでいる街が良くなるのかを具体的に考えられる。アイデアしだいでさまざまな使い方ができる、というのがデジタルツインの面白いところです」(中村さん)
具体的に想定しにくい災害時の「まさか!」を減らし、一方でエンタメとして驚きの「まさか!」を提供するデジタルツイン。無限の可能性を秘めていますが、それを実現するには精密なデータ収集と見る者を納得させるビジュアルに仕上げる技術力が必要というのは間違いありません。
3D都市データを視覚に訴えかけるよう再現する技術
キャドセンターは6月中旬に「REAL 3DMAP TOKYO for XR」をリリースしました。これは、東京23区をフォトリアリスティックに再現した3D都市データ「REAL 3DMAP TOKYO」を、2大ゲームエンジンの一角「Unity」に対応させ、リアルタイムコンテンツでの利用を想定したもの。
「当社が2017年にリリースした『REAL 3DMAP TOKYO for VR』のアップデート版になります。この5〜6年の間で、『Unity』などのゲームエンジンを用いたリアルタイム3Dコンテンツがゲーム分野以外でも広く用いられるようになりました。エンタメ領域以外で、防災シミュレーションや都市開発・マンション建設のシミュレーション、さらに映像制作でもリアルタイム3Dを活用しCGレンダリングにかかるコストを圧縮することも珍しくなくなっています。技術の進歩によってグラフィックそのものの表現力も上がっているので、現状のリアルタイム3Dのコンテンツ制作におけるニーズへ対応できるデータとして開発しました」(橋本さん)
「REAL 3DMAP TOKYO for XR」で表現された東京の風景は現実と見間違えるほど。
「昼の景色に関しては『PLATEAU(プラトー)』のサイトや他社サービスでもありますが、当社のデータは夜景のリアルな表現も特徴のひとつです」と語ってくれたのは橋本さん。実際に見たグラフィックでは、確かにビルの窓ガラスから漏れる照明や60秒ごとに点滅する航空障害灯など、夜空に宝石をちりばめたような美しい夜景が広がっていました。
「REAL 3DMAP TOKYO for XR」の美しいグラフィックは、6月28日〜30日に東京ビッグサイトで開催される「メタバース総合展」でも展示される予定。そのほかにも、3D都市データを活用したデジタルツイン系コンテンツを展開するそうです。
6月28日(水)〜30日(金)の3日間、東京ビッグサイトで開催される「第1回 メタバース総合展 夏」にキャドセンターが出展。ブースでは、フォトリアリスティックな3D都市データ「REAL 3DMAP」シリーズや、「PLATEAU(プラトー)」などの都市データを活用した、メタバース・デジタルツイン・スマートシティなどの最新制作実績を展示しています。リアルに再現された3Dの都市を体感したい人はぜひ参加してみてください。
■開催日
2023年6月28日(水)〜6月30日(金)
10:00〜17:00
■開催場所
東京ビッグサイト(東展示棟)
※キャドセンターブースの小間番号「26-34」
■料金
無料 ※事前予約制。申し込みはこちらから。
■主催
RX Japan株式会社
今後の課題は、コストとデジタルツインの構築自体が目的にならないこと
最後に、今後のデジタルツインの課題を伺いました。
「構築にはまだまだコストがかかるので、もう少し自動化が必要です。データは更新しなければ意味がないのですが、現状は1回作ってそのままになってしまうことが多い点が課題のひとつです。これを継続的に普及させるためには、価格や手間がかからないようにしないといけない。また、プラットフォームは外国製のものが多く、外国のソフト会社のさじ加減ひとつで開発が止まるということもありえるので、国内製ソフトを選択肢に入れるなど柔軟な対応ができるよう、体制の強化を進めています」(橋本さん)
さらに、「デジタルツインの構築」だけが目的にならないことも重要だと橋本さんはいいます。
「現実にある建物をそのままコピーして作った空間を『デジタルツイン』と呼ぶ人もいますが少し違います。現実世界で起こったことをバーチャル世界でも更新・反映させて、その結果をまた現実世界に役立てるというループがないと『デジタルツイン』とは呼べない。デジタルを介して時間を短縮したり、コストを下げたりするからこそ、双子空間を作っている意味があるのです」(橋本さん)
防災、観光だけでなく、都市開発や商業施設の人流シミュレーション、自動運転のインフラ整備など幅広い分野でのソリューションにつながるデジタルツイン。現実とそっくりの都市があればあらゆることが検証できる、それはとてつもない可能性を秘めています。
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