“世界四大文明”はもう古い!? これまでの文明観を覆すマヤ文明のすごさ〜注目の新書紹介〜
こんにちは、書評家の卯月 鮎です。最近は「ChatGPT」に聞けば何でもわかる時代ですが(実はそうでもないという話も……笑)、私が子どものころは地球はもっと謎やオカルトに満ちていて、徳川埋蔵金やヒランヤ、UMAやオーパーツにも興味津々でした。
マヤ文明も、オーパーツの「水晶ドクロ」や世界の終末を予言しているという「マヤ暦」などオカルト方面が有名で、よく考えてみると、実際のマヤ文明がどのような文明だったのかはぼんやり。「マヤ文明、名前は知っているけど……」という人は、この本がピッタリでしょう。
古代メソアメリカ文明がわかりやすく一冊に
今回紹介する新書は『カラー版 マヤと古代メキシコ文明のすべて』(青山和夫・監修/宝島社新書)。監修の青山和夫さんは考古学者で茨城大学人文社会科学部教授。専門はマヤ文明学。古代アメリカ学会会長。『マヤ文明 密林に栄えた石器文化』(岩波新書)、『マヤ文明の戦争 神聖な争いから大虐殺へ』(京都大学学術出版会)など、マヤ文明に関する著書も多数です。
マヤ文明から文明の本質とは何かを考える
本書はマヤ文明を筆頭にアステカ文明など、メキシコを中心にした中央アメリカで栄えた「メソアメリカ文明」を紹介していきます。最近の教科書では、世界四大文明(メソポタミア文明・エジプト文明・インダス文明・黄河文明)とはあまり言わなくなったそうです。それはメソアメリカ文明とアンデス文明(インカ文明)が加わって世界六大文明という考え方が出てきたからだとか。
メソアメリカ文明は私たちの文明観を大きく揺り動かす新たな発見に満ちている、と「はじめに」に書かれているように、メソアメリカ文明とアンデス文明は、大河と鉄器がなくとも大文明になったというから驚き。昔、私たちが学校で教わった、文明は“大河の治水”により誕生したという常識を覆し、“豊富な食料”が重要というのは確かに納得です。
第2章は「マヤ文明」。メキシコ南東部とユカタン半島、グアテマラやホンジュラスにまたがるマヤ地域で栄えた文明です。
2020年にメキシコ・タバスコ州で発見された「アグアダ・フェニックス」遺跡は、マヤ文明最大かつ最古の公共建造物(南北約1400m、東西約400m)です。神殿ピラミッドや舗装道路、貯水池まで備えていたとか! 建造が始まったのは紀元前1100年ごろで、日本でいえば弥生時代ですから、これだけの施設が揃っているのはとんでもないことです。
「戦士の女王もいたマヤ」「空から神が舞い降りる劇場国家だったマヤ王朝」「日本語に近いマヤ文字」など、知らなかったトピックも盛りだくさん。
第3章は「サポテカ文明とティオティワカン文明」、第4章は「アステカ文明」と続き、これらをまとめてメソアメリカ文明が1冊でわかる仕組みです。
なんといっても本書のいいところは、アグアダ・フェニックス遺跡の3D画像や、サン・バルトロ遺跡(グアテマラ)のカラフルな壁画、チチェン・イツァ(メキシコ)のククルカン・ピラミッドなどが、各項目にカラー図版で掲載されている点。文字だけでは伝わりにくい遺跡や遺物の様子がよくわかります。
各見出しには読者の興味を引くようなキャッチーな文句がつけられていますが、下世話にならず、文章はプレーンで読みやすいのも好感が持てます。私もそうでしたが、マヤ文明とアステカ文明の違いがはっきりわかる人はほとんどいないでしょう。各文明を網羅的に把握できるのも本書の長所です。
鉄器が使われずとも、トウモロコシと黒曜石製の石器で栄華を誇ったメソアメリカ文明。文明の本質とは何かが見えてきます。
【書籍紹介】
カラー版 マヤと古代メキシコ文明のすべて
監修:青山和夫
発行:宝島社
6月16日から東京国立博物館で『古代メキシコ展』が開かれます。内容は「マヤ」「アステカ」「テオティワカン」の古代文明展です。本書は、本展開催に合わせ、メキシコ文明の全貌を明らかにする新書です。展覧会では、マヤの赤の女王の遺構や、アステカの大神殿、テオティワカンの三大ピラミッドが紹介されます。しかし、多くの日本人は、各文明の名前は知っているけれども、どんな文明だったのか、どんな歴史だったのかを知りません。そこで本書では、マヤとメキシコ文明をわかりやすく、ビジュアルもたっぷりに紹介します。歴史にもスポットをあてた一からわかるカラー新書です。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。