スカイマーク、「天下り人事」に隠された真の狙い
国内3番手のスカイマーク。6月27日には上場後、初の定時株主総会を迎える(撮影:尾形文繫)
中堅航空会社のスカイマークで天下り人事が連発している。今年度に入ってから国土交通省OBが3人、同社に再就職しようとしているのだ。
具体的には、1982年に運輸省へ入省し、2015年に航空局長を務めた経験を持つ佐藤善信氏が、6月27日の定時株主総会を経て、社外取締役に就任する見通しだ。ほかにも、航空局安全部長などを歴任した高橋和弘氏が非常勤顧問に就任し、ノンキャリアで航空局の技官が長いA氏がシニアアドバイザーとなる予定である。
スカイマークによれば、佐藤氏と高橋氏を推薦したのは、同社の洞駿(ほら・はやお)社長であるという。
2020年から社長を務める洞氏も、1971年に運輸省へ入省、2002年からは佐藤氏と同じく、航空局長を務めた。現在、ANAホールディングスや日本航空(JAL)に国交省OBの取締役は在籍していない。洞社長と佐藤氏が名を連ねるスカイマークの経営体制は異例といえる。
国交省OBの人事介入が問題になったばかり
業界からは、「まさかこのタイミングで」と驚きの声が噴出している。というのも、2023年3月に羽田空港周辺のビルなどを賃貸する空港施設で国交省OBが、人事に介入をしたことが問題になったばかりだからだ。
なぜスカイマークがこのタイミングで、国交省OBを招き入れたのか。同社がおかれた状況を読み解くと、空港施設とは違った事情が見えてくる。
1つ目が、安全対策だ。スカイマークは近年、安全運航に支障をきたす、不適切事案を起こしている。その対策として、高橋氏とA氏を据えることで、安全対策を打ち出す狙いがある。
同社は、2022年4月には、客室乗務員(CA)からアルコールが検出され、再発防止策の施策を進めていた。そんな中、同年12月に整備士が酒気帯び状態で整備を実施し、不適切な整備記録を作成した。2023年6月19日には整備士がアルコール検査を忘れたため、飛行機が1時間以上遅延する事態が発生。スカイマークは、2023年2月に国土交通省から行政指導を受けている。
安全運航に関わる不適切事案の発生は、羽田空港国内線の発着枠減少につながりかねない大問題だ。羽田の国内線は、キャパシティに対して、航空各社からのニーズが多いドル箱路線。飛ばしたくても飛べない状況となっており、国交省が5年に1度、航空各社へ再配分している。
発着枠の再配分に当たっては、地方路線の振興に寄与したかなどいくつかの要素があるが、重要視される事項の1つに、「安全の確保」というものがある。飲酒事案などを起こしているスカイマークは、競合からこの項目で劣後する可能性がある。とはいえ、挽回すべく、再発防止策を国交省にアピールする必要がある。
航空局安全部長を務めた高橋氏は、2014年にスーパーで万引きをしたとして、窃盗容疑で書類送検(その後、不起訴)されている。一方で、業界関係者からの評価は高い。「面倒見がよく、いろいろな人に好かれる」、「航空業界の安全運航に関する知識が非常に深い」など同氏と面識のある航空会社元幹部は称賛する。
洞社長の権力基盤強化の狙いも
2つ目の狙いは、洞氏の権力基盤強化だ。佐藤氏は、洞社長と同じく航空局長を務めた経験があり、洞社長から見ると佐藤氏は国交省の後輩に当たる。佐藤氏について、業界関係者からは、「穏やかな物腰で、ANAやJALどちらかに肩入れすることのないバランス感覚のある優秀な役人」と高い評価が聞こえてくる。
スカイマークの取締役体制は、非常に複雑だ。社内の取締役が6名、社外取締役が4名という構成。計10名のうち6名の取締役は、同社の大株主で経営再建を担ってきたインテグラル、ANAホールディングス、日本政策投資銀行(DBJ)出身者で占められている。
洞社長自身も国交省を退職して以降は長年、ANAグループに在籍していた。だが、スカイマーク社長就任に当たっては、ANA以外にも、インテグラルの後押しがあったとみられる。
業績不振から2015年に経営破綻したスカイマークは、ANA、インテグラルなどの支援を受け、2022年12月に再上場をはたした。そこから180日が経ち、大株主の株式売却などに制限をかけるロックアップはこの6月にすでに解除されている。
株式売却などのイグジットを模索するインテグラルやDBJ、航空事業者としてさらに連携を強化したいANA、さまざまな思惑が交錯する中で、洞社長は板挟みとなっている。
ファンドが去った後は国交省OBに主導権?
2020年に社長に就任した洞駿氏。国交省を経て、全日本空輸の副社長、ANAホールディングスの常勤顧問などを歴任した(撮影:尾形文繁)
自身と同じく航空局長を務めた国交省の後輩を社外取締役に据えれば、取締役会などで洞社長の発言力が増すことが予想される。国交省OBという新たな勢力が誕生する可能性もあるだろう。
「インテグラルが株式売却などでイグジットした後、国交省OBが経営の主導権を握る布石ではないか」。そんな声も業界関係者からは聞こえてくる。今回の人事は、スカイマークの今後に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。
(星出 遼平 : 東洋経済 記者)