「黒い歯石」の正体とは…

写真拡大

 自分の歯に、歯磨きをしても取れない「黒い何か」がついているのを見つけたら、「虫歯だ…」と思う人はきっと多いことでしょう。実際に虫歯になっているケースもあると思いますが、実はその正体が「黒い歯石」であることも考えられるようです。

 本来、歯石は黒くないはずですが、なぜ「黒い歯石」になってしまうのでしょうか。その正体について、高谷秀雄歯科クリニック(宇都宮市)院長で歯科医師の高谷秀雄さんに聞きました。

炎症と出血によって黒くなる

Q.そもそも、「歯石」とは何ですか。

高谷さん「不十分な歯磨きによって歯の表面に付着した、ヌルヌルとした白いカスを『プラーク』と呼びます。このプラークが長期間、歯の表面についていると、唾液に含まれるカルシウムやリン酸がプラークに付着し、石のように硬くなって石灰化します。これが『歯石』と呼ばれるものです。プラークはおよそ2週間で歯石になってしまいます。

歯石の成分の約80%はリン酸カルシウムですが、その他にタンパク質や炭水化物、細菌の死骸なども含まれます。歯石そのものに毒素はありませんが、歯石の表面がザラザラしているため細菌が付着しやすく、増殖して歯周病を引き起こす原因となります。

歯石ができやすいのは、唾液が出てくる『唾液腺』付近です。上顎は、両頬の内側の『耳下腺乳頭部』より唾液が出るため、奥から6番目(第一大臼歯)の頬側に歯石がつきやすいです。下顎は、舌の付け根の『舌下小丘』より唾液が出るので、下の前歯の裏側につきやすいといえます」

Q.「黒い歯石」の正体は何でしょうか。

高谷さん「歯石は、歯茎の上につく『歯肉縁上歯石』と、歯茎の中(歯周ポケット内)につく『歯肉縁下歯石』の2つに分類されます。黒い歯石の正体は、後者の『歯肉縁下歯石』と呼ばれるものです。

歯肉縁上歯石は、唾液成分を中心に石灰化するため、白〜淡黄色をしていますが、歯肉縁下歯石は炎症と出血を伴うため、黒く石灰化します。また、血液成分を含んでおり、歯に強固にこびりつくため、除去が困難です。

なお、虫歯と見分けるには歯科医師による診断・施術が望ましいので、黒い歯石を見つけて『虫歯かな』と思ったら迷わず受診しましょう。歯肉縁下歯石を放置していると、常に小さな出血が口の中で継続する状態となってしまうためです」

Q.「黒い歯石」ができやすい人の特徴はありますか。

高谷さん「黒い歯石のできやすさは、体質、そして口の中の清掃状態と関係します」

【体質】

遺伝的に唾液の分泌量が多い人、唾液がアルカリ性に傾いている人は、体質的に歯石ができやすいと考えられます。唾液の性質は、歯科医院で検査することが可能です。

なお、特に注意するべき生活習慣病として、糖尿病が挙げられます。糖尿病に罹患(りかん)していると、免疫力の要である白血球の活動が制限されてしまい、歯周病が進行するためです。糖尿病の人は特に、歯科医院での定期的なクリーニングが望ましいです。

【口の中の清掃状態】

歯磨きの回数が少ない▽歯磨きの時間が短い▽口に合わない歯ブラシを選択してしまっている▽喫煙習慣がある▽デンタルフロスや歯間ブラシといった補助的清掃用具を使用していない―などが当てはまる人は要注意です。

また、既に虫歯ができていれば、表面がザラザラしている部分には当然、歯周病の原因菌が付着しやすくなりますし、既に歯周病が進行している人は、さらに黒い歯石が増えていくことになります。

Q.「黒い歯石」ができてしまったら、どうすればよいですか。

高谷さん「自力で黒い歯石の除去を試みるのはお勧めしません。歯茎を傷つけてしまうと出血が止まらなくなったり、その傷口から感染したりするリスクがあるためです。黒い歯石を見つけた場合は迷わず、歯科医院を受診しましょう。

歯科医院で黒い歯石を除去する際は、歯周ポケットの深さに応じて処置を選択します。歯肉縁下歯石は、先端が鎌状になった専用器具を用いて除去する『SRP』という処置を行います。歯周ポケットが深くなればなるほど痛みを伴うため、歯茎に局所麻酔をした上で行うことが多いです。また、歯周ポケットが深くなるほど歯の根の形態が複雑になるため、歯肉縁下歯石を取り残したり、取り切れなかったりすることもあります。

4ミリ以上の深いポケットの場合や、SRPで除去しきれない場合は、歯茎を外科的に切開し、縁下歯石を直接見える状態にして取り除く『フラップ手術』という方法を選択することがあります。局所麻酔を使用して切開するため、傷口は縫合が必要となり、痛みも伴う処置です。

フラップ手術を選択しなければならない状態までひどくならないよう、痛みが出てから受診するのではなく、定期的に歯科医院を受診することが本当に大切です」