【スポーツメンタル】試合前、緊張している選手に対してどんな言葉がけが必要か?

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 選手を支える指導者にとって、試合直前の選手の雰囲気を気にされている方も多いのではないのでしょうか。普段のパフォーマンスを発揮してくれれば結果を出せるような選手が緊張からメンタルを崩し結果を残せない選手を何人も見てきたと思います。今回は選手のパフォーマンスを阻害する緊張のメカニズムをお伝えしつつ、指導者として試合前にどんな声かをしたらいいかをお伝えしたいと思います。

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なぜ人は緊張するのか?

そもそもなぜ人は緊張するのでしょうか?まずは緊張を脳と心、さらには生理学で分けてお伝えしていきます。まず心理学的に緊張は3つの側面があると言われています。

1つ目は行動に関する心理学の専門家であるハルらが提唱した行動理論に関するもの。行動理論では、緊張は行動への動機づけられた準備状態のこととされています。緊張により、何らかの行動のきっかけとなり、行動が終了することで緊張が解かれることになります。

2つ目は、心理学者のレヴィンが提唱した「場の理論」では、緊張とは、一種の“システム”として捉えられており、緊張状態になることで個人(個体)と周囲の環境の相互作用から、個人(個体)の行動が引き起こされると考えられています。

3つ目は、一般的な感覚に近い感情としての緊張です。心理学者のヴントは感情を3つの次元で捉える理論を提唱しました。1つ目の次元は「快-不快」、2つ目は「興奮-鎮静」、そして3つ目が「緊張-弛緩」となっています。

心理学だけでも緊張の解釈が3つに分類されています。いずれも意識的に感じる緊張や、無意識に沸き起こってくる緊張があるようです。ただ、生活している中でいきなり緊張状態になるのではなく、何かしらの刺激が入ることで緊張という現象が起こるものだと理解してくれたらいいと思います。

では脳内では緊張したときに何が起こっているのでしょうか?そこでポイントとなるのが扁桃体と呼ばれる感情を司る脳になります。私たちの脳の部位を一般的に3つに分類することが出来ます。大脳新皮質、大脳辺縁系、脳幹です。

脳内で何が起きているのか?

人間が進化できたのはこの大脳新皮質と呼ばれる脳を覆って要る箇所が他の動物よりも発達している言われています。この脳のお陰で高度なコミュニケーションや知的な行動を生み出すキッカケが生まれています。理性の脳といってもいいでしょう。しかし、この脳領域はバグが起こりやすいと言われています。いくら論理的に導き出されたしても間違うことがあるのです。

そこで大事になるのが大脳辺縁系と呼ばれる感情を司る部位の存在です。この大脳辺縁系には自律神経に影響を与える間脳(視床下部など)や、記憶を司る海馬、体内時計に影響を与える松果体、そして感情に影響を与える扁桃体が存在しています。

そして、生命維持に影響をあたえる意識、呼吸、循環を調整するのが脳幹の役割となります。後頭部に位置するのでここがダメージを受けると生命に深刻な影響を与えます。なので、後頭部は守れと言われています。

緊張(ストレス)を感じると、脳内ではあるホルモンが分泌されます。それがノルアドレナリンとドーパミンです。これらの濃度が前頭前野で高まると、神経細胞間の活動が弱まり、やがて知的行動が止まってしまいます。

脳内ネットワークの活動が弱まると、行動を調節する能力も低下します。視床下部から下垂体に指令が届き、副腎がストレスホルモンであるコルチゾールを血液中に放出して、これが脳に届くと事態はさらに悪化します。こうして、自制心はバランスを崩していくのです。

では、どうしてこのような現象が起きるのか?その理由の一つとして生命を維持するためのスイッチであると言われています。今、私たちはカフェにいて突然ライオンに襲われることがないくらい幸せな日々を送ることができます。しかし、熊が出てくるかもしれない山奥で夜中キャンプをしていたらとても怖くて眠れないでしょう。

つまり、私たちが緊張状態になるのは生きていくために必要だからです。しかし、私たちが現代を生き抜く中で必ずしも必要な能力ではありません。しかし、車の運転や包丁を使うときにちょっとした緊張状態になります。こうやって緊張状態を感じることで咄嗟の判断が容易となります。

スポーツの世界ではなぜ緊張状態が起きるのでしょうか?命を取られる心配がないにも関わらずなぜ緊張のスイッチが押されるのでしょうか?その秘密を紐解く上でポイントとなるのが過去の経験になります。

緊張に対する捉え方を変える

緊張感が高い選手ほど、過去にあった出来事が深く影響しています。例えば野球の試合。最終回、一打逆転サヨナラの場面。緊張感が高い人の心を覗いてみましょう。

「打てなかったらどうしよう…」と感じることがあると思います。試合を決定づける場面でありながら、自分の心を追い込んでしまう人がいる一方で、「ここで決めたらヒーローだ!」と思える人もいます。

同じ出来ごとでも捉え方が違うのです。それと同じように、緊張する場面を思い出してもらい、緊張する場面の捉え方を変える必要があります。そのときにやって欲しくないのが、『無理しない』ということです。無理してポジティブに思うのではなく、「〇〇という捉え方もありだよね」くらいの気持ちで向き合って欲しいのです。

そして何よりも大事になるのが、「緊張をなくす」と思い込まないことです。それ以上に「緊張をコントロール」と思えることがポイントになるのです。

緊張することで得られるメリットとは?

緊張でらえられるメリットの代表格はパフォーマンスの向上です。緊張しすぎてパフォーマンスが発揮できないと思う方は多いとおもいますが、実は緊張してるからパフォーマンスが上がるのです。逆に、緊張しないとパフォーマンスが高まりません。ダメなのは過緊張になります。ちょうどいいバランスがあるのです。これを逆U字理論と言います。

このバランスを整えていくことでベストパフォーマンスを出すことができます。そしてこのバランスを整えていくとゾーンに入っていくことが出来ると考えられています。ある意味で、緊張感とはゾーンに入るための入り口と捉えてもいいのかもしれません。

試合直前にしたい3つの質問

1、今日の試合では何が良かった?
2、今日の試合で改善点があるとしたら何か?
3、次の試合に向けてどんな準備が必要か?

試合前に具体的に質問したいのはこの3つだけです。私が選手との試合前のメンタルコーチングをする際に行うことはこれだけシンプルに留めるようにしています。試合前、あれもこれも意識することが多いと体は余計緊張するものです。

出来る限り整理された状態で試合に挑ませてあげるためにも私が話すことはこれだけです。あとは勝手に選手が話して頭の中を整理します。これくらいやってあげることで緊張感も緩和されます。ぜひ参考にしてみてください。

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。