宇宙の仕事辞典 第8回 【CASE08】エンジニア(ソフトウェア系) × 超小型衛星の開発・製造・運用
「宇宙の仕事」と聞くと、一部の専門家たちだけを対象とした”特別な仕事”と思ってしまいがちですが、実態はその真逆。特別な経験や知識がなくとも携われる仕事がたくさんある業界なのです。
そんな宇宙産業のさまざまな仕事を紹介する『宇宙の仕事辞典』の第8回。超小型衛星の開発・製造・運用事業におけるソフトウェアエンジニアの仕事について、アクセルスペースの國母 隆一さんにお話を伺いました。
アクセルスペース 國母 隆一さん
【イントロダクション】アクセルスペースのビジネスとは?
最近、“宇宙ビジネス”という言葉を、あちこちで見聞きするようになってきました。宇宙への進出・活用を、NASA(アメリカ航空宇宙局)や日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)のような各国公的機関だけではなく、「宇宙ベンチャー・宇宙スタートアップ」と呼ばれる民間企業が積極的に行うようになってきているからです。今、そうした宇宙関連企業が世界中で急増しており、それぞれが人工衛星を作ったり、ロケットを打ち上げたり、地球観測データを分析して活用したりと、宇宙をフィールドにした多種多様なビジネスを展開しています。
そして、日本国内における宇宙スタートアップのパイオニア的存在とも言えるのが、2008年創業のアクセルスペース。同社は、重量200kg以下の小型衛星の開発・製造から打上げ、運用までをワンストップで行っており、なんと東京・日本橋の本社オフィス内には衛星組み立て用のクリーンルームまで備えられています。同社がこれまでに打ち上げた衛星の数は9機。確かな実績を持つ実力派企業です。
そんな同社が現在注力しているサービスは2つ。同社自らが運用している小型人工衛星群によって撮影された衛星画像の利活用を実現するWebプラットフォーム『AxelGlobe(アクセルグローブ)』と、これまでに培ってきた人工衛星プロジェクトの一連のプロセスをパッケージ化し、宇宙での観測、通信、実験など、宇宙空間でミッションを行いたい顧客企業を支援する『AxelLiner(アクセルライナー)』です。いずれのサービスも「SPACE WITHIN YOUR REACH=宇宙を普通の場所に」という同社の理念に沿ったもの。宇宙の利活用を容易にし、宇宙ビジネス全体の活性化を促す存在として、アクセルスペースの活躍は今後ますます注目を集めていくことになるでしょう。
どんな仕事なのか教えてください
小型人工衛星の運用とそこから得られる観測データの活用が、当社ビジネスの根幹。その衛星を運用するためのソフトウェアを開発することが、入社当初の私の仕事でした。もう少し具体的に言うと、当社が提供している地球観測Webプラットフォーム『AxelGlobe』は複数機の小型光学観測衛星『GRUS(グルース)』によって支えられているのですが、その地球観測ミッションの運用を管理するソフトウェアをつくるということです。
私が入社したのは2018年の『GRUS』初号機打上げの直前でした。近い将来には、複数の衛星による高頻度地球観測ミッションを安定運用できるようにしなくてはならなかったので、自動化の実現をテーマとしてシステム開発に取り組みました。これはクラウドベースの環境で、Python やC++言語を使っての開発でした。
ちなみに先ほど「入社当初の私の仕事」と言いましたが、現在は情報システム部門の責任者も務めています。入社後しばらくして衛星運用チームのリーダーを任され、運用業務の全てを見ることになったんですが、俯瞰した立場で社内を見渡したときに、開発環境の整備・強化と、各部署の業務のDXに取り組む必要性を感じました。そこで情報システム部門の立ち上げを提案したところ、私がそのまま任されることになって今に至っています。
この仕事のやりがい・面白さは
エンジニア的に言えば、まったく経験したことのない分野で仕事をする醍醐味を感じられるのではないでしょうか。知的好奇心が刺激される仕事と言ってもいいかもしれません。
と言うのも、これは入社してから気付いたことなんですが、人工衛星そのものをつくるわけではなくとも、宇宙というドメインに対する理解はかなり求められます。それは入社時点で宇宙を知らなければダメということではなく、入社後にきちんとキャッチアップした方が圧倒的にいい仕事ができるという意味です。たとえば、運用側から衛星にある指示を出したとき、どういう挙動を示すのかを理解して運用プログラムを作った方が的確なものになりますよね。
最初は分からないことだらけですが、社内に数多いる“宇宙のプロたち”から教わり、吸収した知識をもとに想像を膨らませ、コードを書き進めていくわけです。衛星運用の信頼性を担保しつつ、効率的な運用を実現するプログラムをどうやってつくっていくか。トライアンドエラーの繰り返しのなかで、多くの新しい発見や気付きがあります。
それから、「自分の書いたコードのおかげで、人工衛星が今日も無事に地球を周回しているんだな」と実感できる仕事はめったにないと思いますよ。
この仕事の難しさ・大変な部分は
『AxelGlobe』や『AxelLiner』といった既存サービスにしろ、そして今後立ち上がるだろう新サービスにしろ、当社のビジネスは進化の過程にあります。それを支えるシステム開発も、未知の領域でゼロベースから取り組んでいくことになります。
加えて当社の場合、人工衛星の開発・製造を手掛ける「メーカー」と、『AxelGlobe』を提供する「Webサービス事業者」という2つの顔を持っているため、ITエンジニアの活躍フィールドは一層幅広いものになります。私が手掛けていた衛星の運用管理ソフトウェア開発もあれば、人工衛星そのものの組込みソフトウェア開発もありますし、Webのフロントエンド開発やバックエンド開発もあります。
ただ、いずれの分野の仕事を取ってみても、世の中的にほとんど前例がありませんし、セオリーも確立されていません。宇宙というドメインへの理解を深めながら、どう正解を探っていくか。とても複雑であると同時に、ものすごく面白いことでもあると思います。
この仕事で求められる資質や、活かせる経験・スキル
私の場合、前職の大手通信キャリア系IT企業ではWeb会議ソフトウェアの開発に携わっていました。他には民生機器メーカーでFA(ファクトリーオートメーション)エンジニアリングを手掛けていたメンバーや、Webサービス企業でバックエンド開発を担当していたメンバーなど、当社にはさまざまな経歴のITエンジニアが集まっています。
このように、おそらくほとんどのITエンジニアが、入社して初めて宇宙に関わる仕事をすることになるはずです。なので、資質としては、知らないことを知ろうとする好奇心や学習意欲があったほうがいいでしょう。
さらに、宇宙というドメインをしっかりと理解したうえで、「こうあるべき」と自ら考え、コードに落とし込めるITエンジニアであれば言うことはありません。きちんとしたエンジニアリングができて、なおかつソフトウェアが書ける人というか。ただ、ものすごく高度なことを求めているわけではなく、数学や物理、工学などの分野について、大学の教養レベルの知見を持ち、それを思考のベースに置いたプログラミングができていれば充分だと思います。
【これから宇宙ビジネスにジョインする方へ】
●私が宇宙を仕事にした理由
前職ではキャリアを重ねるに従って、マーケティングやマネジメントなどの業務に軸足が移っていきました。多彩な経験が積めてよかった反面、エンジニアとして技術を追求することができなくなり、自分が今後どういう方向に進むべきか悩んでいました。そんなとき、たまたま当社のITエンジニア募集の求人に出会ったのです。エンジニアに立ち返るならこういう方向性もありかと試しに応募したら、内定をいただいたという経緯です。宇宙に対して人並みに興味は持っていましたが、「どうしてもこの業界で働きたい」と心に決めて応募したわけではないので、業界的にはレアな入社動機かもしれませんね。
●読者へのメッセージ
発展途上の業界なだけに、「こういう経験や知見がないとダメ」と言うより、自分の得意分野やバックボーンをなにかしらのかたちで活かせる余地があります。アプリ開発、基幹システム運用、IoT関連、FAエンジニアリング、Webサービスなど、どんな分野の経験でも強みになる可能性があります。
また、私が情報システム部門の立ち上げを具申して任せてもらえたように、自ら手を挙げる主体的な人材が歓迎される業界です。「こんな仕事がやりたい」という熱い思いを叶えるチャンスが多いのも、宇宙業界ならではの魅力ではないでしょうか。
そんな宇宙産業のさまざまな仕事を紹介する『宇宙の仕事辞典』の第8回。超小型衛星の開発・製造・運用事業におけるソフトウェアエンジニアの仕事について、アクセルスペースの國母 隆一さんにお話を伺いました。
アクセルスペース 國母 隆一さん
【イントロダクション】アクセルスペースのビジネスとは?
最近、“宇宙ビジネス”という言葉を、あちこちで見聞きするようになってきました。宇宙への進出・活用を、NASA(アメリカ航空宇宙局)や日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)のような各国公的機関だけではなく、「宇宙ベンチャー・宇宙スタートアップ」と呼ばれる民間企業が積極的に行うようになってきているからです。今、そうした宇宙関連企業が世界中で急増しており、それぞれが人工衛星を作ったり、ロケットを打ち上げたり、地球観測データを分析して活用したりと、宇宙をフィールドにした多種多様なビジネスを展開しています。
そして、日本国内における宇宙スタートアップのパイオニア的存在とも言えるのが、2008年創業のアクセルスペース。同社は、重量200kg以下の小型衛星の開発・製造から打上げ、運用までをワンストップで行っており、なんと東京・日本橋の本社オフィス内には衛星組み立て用のクリーンルームまで備えられています。同社がこれまでに打ち上げた衛星の数は9機。確かな実績を持つ実力派企業です。
そんな同社が現在注力しているサービスは2つ。同社自らが運用している小型人工衛星群によって撮影された衛星画像の利活用を実現するWebプラットフォーム『AxelGlobe(アクセルグローブ)』と、これまでに培ってきた人工衛星プロジェクトの一連のプロセスをパッケージ化し、宇宙での観測、通信、実験など、宇宙空間でミッションを行いたい顧客企業を支援する『AxelLiner(アクセルライナー)』です。いずれのサービスも「SPACE WITHIN YOUR REACH=宇宙を普通の場所に」という同社の理念に沿ったもの。宇宙の利活用を容易にし、宇宙ビジネス全体の活性化を促す存在として、アクセルスペースの活躍は今後ますます注目を集めていくことになるでしょう。
どんな仕事なのか教えてください
小型人工衛星の運用とそこから得られる観測データの活用が、当社ビジネスの根幹。その衛星を運用するためのソフトウェアを開発することが、入社当初の私の仕事でした。もう少し具体的に言うと、当社が提供している地球観測Webプラットフォーム『AxelGlobe』は複数機の小型光学観測衛星『GRUS(グルース)』によって支えられているのですが、その地球観測ミッションの運用を管理するソフトウェアをつくるということです。
私が入社したのは2018年の『GRUS』初号機打上げの直前でした。近い将来には、複数の衛星による高頻度地球観測ミッションを安定運用できるようにしなくてはならなかったので、自動化の実現をテーマとしてシステム開発に取り組みました。これはクラウドベースの環境で、Python やC++言語を使っての開発でした。
ちなみに先ほど「入社当初の私の仕事」と言いましたが、現在は情報システム部門の責任者も務めています。入社後しばらくして衛星運用チームのリーダーを任され、運用業務の全てを見ることになったんですが、俯瞰した立場で社内を見渡したときに、開発環境の整備・強化と、各部署の業務のDXに取り組む必要性を感じました。そこで情報システム部門の立ち上げを提案したところ、私がそのまま任されることになって今に至っています。
この仕事のやりがい・面白さは
エンジニア的に言えば、まったく経験したことのない分野で仕事をする醍醐味を感じられるのではないでしょうか。知的好奇心が刺激される仕事と言ってもいいかもしれません。
と言うのも、これは入社してから気付いたことなんですが、人工衛星そのものをつくるわけではなくとも、宇宙というドメインに対する理解はかなり求められます。それは入社時点で宇宙を知らなければダメということではなく、入社後にきちんとキャッチアップした方が圧倒的にいい仕事ができるという意味です。たとえば、運用側から衛星にある指示を出したとき、どういう挙動を示すのかを理解して運用プログラムを作った方が的確なものになりますよね。
最初は分からないことだらけですが、社内に数多いる“宇宙のプロたち”から教わり、吸収した知識をもとに想像を膨らませ、コードを書き進めていくわけです。衛星運用の信頼性を担保しつつ、効率的な運用を実現するプログラムをどうやってつくっていくか。トライアンドエラーの繰り返しのなかで、多くの新しい発見や気付きがあります。
それから、「自分の書いたコードのおかげで、人工衛星が今日も無事に地球を周回しているんだな」と実感できる仕事はめったにないと思いますよ。
この仕事の難しさ・大変な部分は
『AxelGlobe』や『AxelLiner』といった既存サービスにしろ、そして今後立ち上がるだろう新サービスにしろ、当社のビジネスは進化の過程にあります。それを支えるシステム開発も、未知の領域でゼロベースから取り組んでいくことになります。
加えて当社の場合、人工衛星の開発・製造を手掛ける「メーカー」と、『AxelGlobe』を提供する「Webサービス事業者」という2つの顔を持っているため、ITエンジニアの活躍フィールドは一層幅広いものになります。私が手掛けていた衛星の運用管理ソフトウェア開発もあれば、人工衛星そのものの組込みソフトウェア開発もありますし、Webのフロントエンド開発やバックエンド開発もあります。
ただ、いずれの分野の仕事を取ってみても、世の中的にほとんど前例がありませんし、セオリーも確立されていません。宇宙というドメインへの理解を深めながら、どう正解を探っていくか。とても複雑であると同時に、ものすごく面白いことでもあると思います。
この仕事で求められる資質や、活かせる経験・スキル
私の場合、前職の大手通信キャリア系IT企業ではWeb会議ソフトウェアの開発に携わっていました。他には民生機器メーカーでFA(ファクトリーオートメーション)エンジニアリングを手掛けていたメンバーや、Webサービス企業でバックエンド開発を担当していたメンバーなど、当社にはさまざまな経歴のITエンジニアが集まっています。
このように、おそらくほとんどのITエンジニアが、入社して初めて宇宙に関わる仕事をすることになるはずです。なので、資質としては、知らないことを知ろうとする好奇心や学習意欲があったほうがいいでしょう。
さらに、宇宙というドメインをしっかりと理解したうえで、「こうあるべき」と自ら考え、コードに落とし込めるITエンジニアであれば言うことはありません。きちんとしたエンジニアリングができて、なおかつソフトウェアが書ける人というか。ただ、ものすごく高度なことを求めているわけではなく、数学や物理、工学などの分野について、大学の教養レベルの知見を持ち、それを思考のベースに置いたプログラミングができていれば充分だと思います。
【これから宇宙ビジネスにジョインする方へ】
●私が宇宙を仕事にした理由
前職ではキャリアを重ねるに従って、マーケティングやマネジメントなどの業務に軸足が移っていきました。多彩な経験が積めてよかった反面、エンジニアとして技術を追求することができなくなり、自分が今後どういう方向に進むべきか悩んでいました。そんなとき、たまたま当社のITエンジニア募集の求人に出会ったのです。エンジニアに立ち返るならこういう方向性もありかと試しに応募したら、内定をいただいたという経緯です。宇宙に対して人並みに興味は持っていましたが、「どうしてもこの業界で働きたい」と心に決めて応募したわけではないので、業界的にはレアな入社動機かもしれませんね。
●読者へのメッセージ
発展途上の業界なだけに、「こういう経験や知見がないとダメ」と言うより、自分の得意分野やバックボーンをなにかしらのかたちで活かせる余地があります。アプリ開発、基幹システム運用、IoT関連、FAエンジニアリング、Webサービスなど、どんな分野の経験でも強みになる可能性があります。
また、私が情報システム部門の立ち上げを具申して任せてもらえたように、自ら手を挙げる主体的な人材が歓迎される業界です。「こんな仕事がやりたい」という熱い思いを叶えるチャンスが多いのも、宇宙業界ならではの魅力ではないでしょうか。