宇宙服や人工血管にも活用される「GORE-TEX(ゴアテックス)」。衣料は自宅で気軽に洗うべし
気づけば身近なアウターやシューズなどに使われる素材「GORE-TEX(ゴアテックス)ファブリクス」。しかし、いざ「GORE-TEXって何?」と問われると、「高機能」以上のことが出てこない人もいるのでは。実はあまり知られていないそのマテリアルやクリーニング方法などについて、日本の事業拠点である日本ゴア合同会社に話を聞いた。
「宇宙」「医療」までをカバー
そもそも「GORE-TEX」とは、W.L. Gore & Associates(以下、ゴア)社が開発した「生地」のブランド名だ。GORE-TEXブランドを理解するために、手短にその歴史を紐解いてみよう。
ゴア社は世界的化学メーカー・デュポン(Du Pont)社を退職したビル・ゴアとヴィーヴ・ゴア夫妻が、蛍石を原料とする化合物「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)」を独自に研究するために、アメリカ・デラウェア州で起ち上げた企業。
PTFEは耐熱性や疎水性、絶縁性に優れており、現在ではフライパンの表面の加工や、ケーブルの被膜などに使用されている。1969年、夫妻の息子のボブ・ゴアがこれを「薄く延ばす」実験に成功したことが、GORE-TEXファブリクス開発のきっかけになる。
薄く延びたPTFEは、「ePTFE」としてゴア社が特許を取得。これまで塊状の高分子ポリマーだったものが膜状になり加工しやすくなりつつも、もともとの防水性は維持され、かつ微細な孔が無数に空いているため透湿性がもたらされた。
その後も研究は続き、ePTFEは1981年に米航空宇宙局(NASA)のスペースシャトル第1号機「コロンビア」に搭乗した宇宙飛行士の宇宙服に利用され、また1975年からはアメリカ国内で人工血管にも利用される、まさに「高機能」素材となった。
このePTFEを使い、三層構造に仕立てたものがよく知られたGORE-TEXファブリクス(生地)だ。GORE-TEXファブリクスは基本的に「表地」「GORE-TEX メンブレン(ePTFE)」「裏地」の要素によって成り立ち、「防水」「透湿」「防風」を三大機能とする。
つまり、水と風は通さないが、湿気は放出できるのだ。
ビル・ゴアの息子であるボブ・ゴアによって開発された「GORE-TEXメンブレン」
「GORE-TEX メンブレン」を表地と裏地で挟み込むことによって形成されるGORE-TEXファブリクス
日本ゴア合同会社マーケティング担当の伊藤由里子さんは、GORE-TEXブランドにおけるモノづくりの基盤を「防護性と快適性」と説明する。
「GORE-TEXファブリクスは南極探検や、エベレストのような高山の登山など、命のかかったアクティビティで身を守るためのプロダクトに使われています。特にそうした状況下では、体を濡らすことが命取りになる。内側からの汗でも、外側からの雨でも、絶対に体を濡らさないことが、GORE-TEXプロダクトの誇りです」
アパレルメーカーと「一緒に開発」
そんなGORE-TEXプロダクトがユニークなのは、たとえばアパレルメーカーがこの生地を使うプロダクトを企画したとき、その段階から「一緒に開発をする」という点だ。
一般的な生地メーカーは、いわば「卸して終わり」。しかし、ゴア社は開発段階でアパレルメーカーのチームに加わり、プロダクトに最適な生地の提案や、つくりのチェック、そしてプロダクトの試作品ができればその機能のテストまでを行う。
今、あの特徴的なGORE-TEXブランドのマークがついたアパレルやシューズは、こうしたフローを経て、世に出たものなのだ。
「『体を濡らさないことが誇り』と申し上げたように、せっかくGORE-TEXファブリクスを使っても、たとえばそもそものデザインが、中に水が入ってしまうようなものになっていたら、意味がありません」(伊藤さん)
実際、新規のファッションブランドとの取り組みは、デザイン面と機能面が折り合わず、話がなかなか進まないこともあるらしい。一方、コラボを重ねてきた老舗アウトドアブランドなどとのプロダクトは、そのデザインと機能への信頼感ゆえに、常に人気を博している。
「GORE-TEX=高機能」というイメージは、これほどに徹底したブランドマネジメントにより浸透していったと言える。また、GORE-TEXファブリクスを使ったプロダクトの価格帯がやや高めであることも、こうした事情を聞けば頷ける。
GORE-TEXプロダクトは、開発段階からゴア社がメーカーと共同で取り組み、徹底した品質管理のもと世に送り出されている
そして2018年からは、必ずしも防水ではない「GORE-TEX INFINIUM」シリーズも開発。これにより、使うアパレルメーカーのデザインの自由度が高まっているという。
「たとえば、天気がいいときに軽く羽織るアウターなどは、優れた防水性よりも、防風性、透湿性と、ある程度の耐水性があれば、軽量で取り扱いが簡単なほうがいいということもあり得ます。消費者のさまざまなニーズに応えるため、弊社としても、生地の選択肢を増やしているところです」
一方で、伊藤さんは「GORE-TEXプロダクトは難しくない」とも言う。GORE-TEXプロダクトテクノロジーには、それぞれ豊富な情報量があるものの、消費者側はあくまで「自分のニーズや目的に合った商品を試してもらえればいい」からだ。
防水性よりも快適性とパフォーマンスを優先する「GORE-TEX INFINIUM」。通常のGORE-TEXプロダクトシリーズと異なり、白いブランドタグが特徴(写真右)
メンテナンスは「洗濯機」で
さて、ここで気になるのが、手持ちのGORE-TEXウェアのメンテナンス方法。伊藤さんはGORE-TEXウェアについて「適切なメンテナンスをして10年使っている方もいる」一方、「メンテナンスをしないと1~2シーズンでダメになってしまうこともある」と指摘する。
そもそも、ePTFEは人工血管に利用されるほどで、ほぼ劣化しないそうだ。それでもGORE-TEXウェアがダメになってしまう原因の一つは、縫い目を覆う「シームテープ」と呼ばれるパーツにある。
アパレルを着用していると、当然、汗をかくシーンがある。汗は皮脂などで汚れており、それが内部で生地の上に残り続けると、このシームテープに悪影響を及ぼすという。テープが剥がれやすくなり、その部分から常に内部に水が入るようになると、防水性がなくなってしまう。
「首やわきなど、汗が溜まりやすい部分からボロボロになりやすいのは、こうした理由です」と伊藤さん。
では、どうすればいいのか。多くのGORE-TEXプロダクトにおいて、もっとも簡単でかつ効果があるのは、意外にも「洗濯機に放り込んでしまうこと」だという(※製品によっては洗濯機が使用できないものもあるため、使用している製品の洗濯表示は必ず確認すること)。
GORE-TEXプロダクトは洗って機能が落ちるものではなく、むしろ機能を保ち製品を長持ちさせることにつながるので、「ぜひこまめに洗ってほしい」ということは、ゴア社としても力を入れて周知を広めていることなのだそう。
「普通の洗濯機で大丈夫です。洗い方については、まず、アパレルの洗濯表示をよく確認しそれに従ってください。重要なのは、生地の表面に汚れも洗剤を残さず、しっかり流すこと。これが残ると表面の撥水機能が落ち、汚れが水をキープしてしまい、透湿性が下がり、冷たく重い着心地になってしまいます」
ちなみに、GORE-TEXウェアの場合、たとえば「洗剤は、衣料用液体洗剤を少なめに使用すること」「粉末洗剤、漂白剤、柔軟剤、しみ抜き剤の使用は避けること」「洗濯機に入れて、40℃以下のぬるま湯で洗濯すること」「すすぎは2回以上しっかりと、脱水は短時間で軽く行うこと」など適切なお手入れのポイントがいくつかある。
詳細はゴア社の公式サイトで解説されているので、ユーザーはぜひ一度チェックしておこう(https://www.gore-tex.com/jp/support/care/outerwear)。
GORE-TEXプロダクトの性能を長く最大限発揮するには、お手入れが欠かせない。アウターウェアは洗濯することで、撥水性を長く保たせることができる
また、撥水機能については、「熱を加えると回復する」ことを公式サイトなどでも発信している。水を弾かなくなったと感じたら、同様に洗濯表示に基づき、低温の乾燥機にかけたり、当て布でアイロンをかけたりするなどして、熱を加えるといいそうだ。
生地の名前でありながら、それ自体がステータスとなった、稀有なブランドであるGORE-TEX。適切なメンテナンスをしながら、長く身を守ってもらいたいものだ。
撥水加工は、摩耗や汚れにより性能が落ちてしまう(写真左)。ただし、汚れを落とし熱を加えるなどで撥水性は回復させることが可能だ(https://www.gore-tex.com/jp/support/care/dwr)
文/あまのなお
写真提供/日本ゴア合同会社
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