空力の職人技、シビック・タイプRがどう変わる? ホンダアクセスのリアウイングに付け替えて走る!
すでに「タイプR」 カスタムの余地は?
ホンダアクセス(HAC)はホンダ車の純正アクセサリーの開発と販売を行う本田技研工業の直系企業。
【画像】新型シビック・タイプR ホンダアクセス用品装着車【デザイン/内装を見る】 全90枚
“純メーカー純正アクセサリー”と言えばフロアマットなどの用品を想像するだろうが、HACは走行性能に寄与するカスタマイズパーツの開発にも熱心であり、コンプリートカーとしてモデューロXを展開している。
新型シビック・タイプR発表時から話題となっているホンダアクセスのリアウイング(正式名:テールゲートスポイラー)。まったく同じ車両で、ノーマル版とホンダアクセス版の比較テストを行った。 前田惠介
内外装やスポーツサスなど多くのカスタマイズパーツを開発しているが、中でも注目すべきは空力パーツである。
空力チューニングと言えばダウンフォース主体に高速域でのコーナリング限界の向上や操安性の改善のイメージがあるが、HACはサーキットレベルの限界性能ではなく、山岳路・高速道路などの一般路走行で実感できる効果を狙っているのが特徴である。
そんな空力へのこだわりが生み出したのが、このシビック・タイプR用リアウイングだ。
ーーFF最速を求めて開発された。超高速域まで見越した空力設計も盛り込まれているーー
性能至上主義で開発されれば、上げ代があるわけもない。いわば完成型のはずのタイプRにHACウイングの効能があるのか。あるいは速さ以外の付加性能があるのか。大変興味深い試乗となった。
群サイで走る新型シビック・タイプR
試乗コースに選定されたのは、群馬CSC(サイクルスポーツセンター)。
全日本ラリー選手権のスペシャルステージにも使われるなど、モータースポーツとも馴染みのあるコースだ。
標準装備のリアウイング(写真)でコースを周回。その後に、同じコースをホンダアクセスのリアウイングに付け替えて検証する。 前田惠介
とはいえ基本的にはスポーツサイクル用のコース。幅員は狭く、コーナーはほとんどブラインド。舗装面の状況も荒れ気味。しかも雨である。試乗前からプレッシャーが半端ではない。
まずは標準装備のウイング。
どこからでもトルクフルなエンジン。深い舵角を与えてもトラクションが利いたハンドリング。ちょっとした直線で一気呵成に加速。
ブラインドコーナー分だけ早めにブレーキングして、制動を残しながらアペックスを踏む。
路面からの突き上げは細かく車体を揺すり、加減速や横Gの激しいG変化が加わり「揉まれている」感じ。タイプRのポテンシャルからすればまだまだ余裕なのだろうが、肉体的にも精神的にけっこう疲れる。
HACウイングに交換して再び試走路へ。
リアウイングが違うだけ どんな感じ?
揉まれるような揺れが収まっている。車体挙動の収束性がいい。サスチューンが変わったのか。
空力チェックということで標準ウイングでもコンフォートモード主体。HACウイングでも同様の走行モードを選択していたのだが、まるでサスチューンが変わったような感じで、不思議な感覚である。
ホンダアクセスのリアウイング。なめらかな空力特性を追求した開発陣は、鋸歯形状のデバイス(下面に連なっている三角形)に辿り着く。 前田惠介
収束性を高めるため高減衰にすれば路面当たりは強くなるし、短時間ではストローク量も減るが、HACウイング装着時でもストローク量やロール量は変わっていない。
揺すられ揉まれるような挙動が減った分だけ乗り心地がしなやかになった印象を受けた。コーナリングやトラクションの限界も変わらず、操縦性も同じ。
つまり限界性能は標準ウイングと変わらない。車両挙動の落ち着きと滑らかさ、収束感がよくなっただけである。
しかし、クルマや状況から受けるプレッシャーが減少したのは、肉体的精神的には大分楽になる。
タイプRで「楽」をキーワードにするのも少々違和感があるが、精神的な余裕は精度の高いドライビングの持続には重要であり、一発勝負の速さ狙いではなくアベレージの向上を求めるなら「楽」は高性能の構成要素の1つ。HACウイングがもたらした効果はそういう類のものである。
ならばどこがHACウイングと標準ウイングの走りの差異となったか。その違いはウイング下面形状に秘密があった。
サメの歯?鋸の歯? 実効空力デバイス
HACウイングの翼型はNASAの前身となったNACAが開発した非対称厚翼型のNACA4412をベースにインディカーなどでお馴染みのガーニーフラップを組み合わせている。
標準ウイングに比べると見た目にはダウンフォース強化型の形状だが、HACの空力開発のこだわりの1つが空力バランスなので、フロント周りに変更を加えていないことからダウンフォースは標準型同等となる。
ウイングのセンター部は、断面が非対称の厚翼型で、後端にガーニーフラップを組み合わせた。サイドプレートは、Aピラーの角度と合うように緻密に配置を決め、サイドを流れる乱流を遠ざける。 前田惠介
HACウイングの下面には、シャークティースとでも呼びたくなる“三角形が連続した渦流発生器”が一体成型されている。
ここで生まれた沢山の小さな渦流がウイング下面付近の空気流を剥離させ、車体後方に大きな渦流が発生するのを予防。車体後方の空気流を整流することで車体挙動収束性が向上するらしい。
「らしい」としか言えないのは、車体後方の負圧分布や、あるいは負圧によるドラッグシュート的安定向上効果のような気もするのだが、明快な理由は聞けなかった。
ちなみに、開発は手作業によるウイング形状の細かな変更と試走を繰り返したカット&トライとトライ&エラーによるとのこと。
HACでは実効空力と呼んでいるが、走りが変わったものを選択しているのだから「実効」は当然だろうし、個人的には空力職人と呼びたい。
ならば、Nボックスに「歯」だけ付けてみよう
シャークティースの効果を体感すべく、試乗会場にはマグネットシートで造られたシャークティースをルーフ後端に貼ったNボックスも用意されていた。
マグネットシートなのは、剥がしたり貼ったりで効果の確認を行うため。
鋸歯形状デバイスの効果を確認するために、サイズ・形が同じ「歯」をマグネットシートで造り、Nボックスの後端に貼ってみる。 前田惠介
頑張って60km/h出るかどうかのコースで本当に違いが出るのか半信半疑だったが、果たして効果は……あった。
上下動もロールも車体挙動の収束がよく、同じ路面・同じ速度で走って挙動が落ち着いている。見えない空気の流れに困惑してしまう。
シビック・タイプR用HACウイング(正式にはテールゲートスポイラー)はドライカーボン製。赤いポリエステルを織り込んでいるのがオシャレ。織り柄も綺麗に整っていて品質も相当なもの。
価格は27万5000円だが、見た目の価値と走りの質感向上の点からかなり魅力的。新型になってシビック・タイプRそのものがマニアックなスポーツモデル特有のストレスを減らしているが、HACウイング装着では“走りの質”がさらに高まっている。
付け加えるなら、乗り味の改善はドライバーだけでなく同乗者にとっても有意義。カスタマイズとしては費用対効果も上々だ。
シビック・タイプR 純正アクセサリーリスト
ホンダアクセスが販売している新型シビック・タイプR用の純正アクセサリーは、下記のリストのとおりとなっている。
「テールゲートスポイラー(カーボン)」が、今回検証したものだ。
エクステリア
ソニックグレー・パールのシビック・タイプRに装着すると、このような姿に。内外装にホンダアクセスの純正アクセサリーを取り付けた車両だ。 前田惠介
テールゲートスポイラー(カーボン):27万5000円
ドアミラーカバー:1万5400円
ユーティリティ
ユーロホーン:8800円
パドルライト:2万2000円
LEDテールゲートライト:1万1000円
LEDルームランプ:3850円
サイドシルプロテクションフィルム:3850円
リアバンパープロテクションフィルム:3850円
プロテクションフィルムセット:7150円
ボディカバー:1万8700円
静電気除去プレート:2750円
ワイヤレス充電器:2万2000円
ワイヤレス充電器取付アタッチメント:8800円
インテリア
パターンプロジェクター:3万8500円
センターコンソールパネル(カーボン):4万7300円
ドアパネル(カーボン):5万6100円
フロアカーペットマット・プレミアム:6万6000円
サイドステップガーニッシュ:3万800円
センターコンソールボックス&ドリンクホルダーイルミネーション(赤):2万2000円
センターコンソールボックス&ドリンクホルダーイルミネーション(白):2万2000円
インナードアハンドル&ドアポケットイルミネーション(赤):1万4300円
インナードアハンドル&ドアポケットイルミネーション(白):1万4300円
フットライト&シートアンダーライト(赤):1万7600円
フットライト&シートアンダーライト(白):1万7600円
シフトノブ:2万350円
オールシーズンマット(前):1万3200円
オールシーズンマット(後):1万3200円
ラゲッジトレイ:1万4300円