あの"暴走娘"が驚くほどの変身ぶりだ。

 メイケイエール(牝4歳)の前走、GIIセントウルS(9月11日/中京・芝1200m)の走りである。

 道中、引っかかるのがお約束だった馬がスタート後、行きたい馬には先に行かせて、その直後の5番手あたりでピタリと折り合う。あとはスムーズに追走し、直線半ば過ぎあたりで鞍上のゴーサインが出ると、即座に前の馬を捕まえにかかって一気に先頭へ。以降、後続を引き離し、2着に2馬身半差をつける完勝劇を披露した。走破タイムはコースレコードというおまけつきである。

「今日はラクでした」

 レース後、主戦の池添謙一騎手も納得のコメントを残した。


前哨戦のセントウルSを完勝したメイケイエール

 もとは「お転婆」「じゃじゃ馬」という表現でも足りないほどの"暴走娘"である。そのことを最も印象づけたのは、昨年のGI桜花賞(阪神・芝1600m)だった。ゲートで暴れて出遅れて、それでもムキになってハナに立ち、直線を迎えると早々に失速して18頭立ての18着に沈んだ。

 その"暴走娘"がこのところ、かなり常識にかかってきているのだ。前走のセントウルSだけでなく、2走前のGII京王杯スプリングC(5月14日/東京・芝1400m)でもセントウルSと同様のレース内容で勝っている。

 つまり、ゴールするまで何をするのかわからなかった"暴走娘"が「ひと皮むけた」、あるいは「大人になった」と感じされるレースぶりで、ここ2戦は立て続けに勝利を飾っているのだ。

 これは、メイケイエールの競走馬としての覚醒を物語るものだろうか。

 その問いに、関西の競馬専門紙記者は「成長しているのは確かだが......」と、奥歯に物が挟まったような言い方をした。

「セントウルSでは馬体重が14kgも増加していたのに、まったく太め感がなかった。馬体全体が大きくなって、大人びてきました。馬自体、すごくよくなっているという印象で、『成長している』とも感じました。

 実際にレースでは、文句をつけようがない、強い勝ち方を見せてくれました。ただ、それでもまだ、以前のようにかかることが絶対にないか? と聞かれれば、『ない』と言いきることはできないと思っています」

 そして同記者は、セントウルSの結果、内容ともに「評価しすぎではないか」と見ている。理由はこうだ。

 第一に、「セントウルSはGIIながら、メンバーレベルがさほど高いレースではなかった」と言う。

 まさしく、先行して2着に粘ったファストフォース(牡6歳)はこの夏、小倉の芝短距離重賞(GIII)を2戦こなして、いずれもふた桁着順に沈んでいる。さらに他の馬も、同馬と似たような実績の馬ばかりで、格はGIIでも、とてもレベルの高いレースとは言えなかった。

 GI安田記念の覇者ソングラインも参戦していたが、同馬にとっては初のスプリント戦。しかも、セントウルSはあくまでの叩き台で、先を見据えての仕上げだった。

 続いて、専門紙記者は「レースの流れ、展開にも恵まれた」と指摘する。

 メンバーレベルが低い重賞では、出走馬のスピードに差があるため、馬群がバラけがちになる。事実、セントウルSでは逃げ・先行勢の馬群に隙間ができて、メイケイエールは他馬に気を遣うことなく、前の馬を追走できた。こうしてレース前半をラクに乗りきれたことが、快勝への一因となった。

 要するに、セントウルSのメイケイエールは、メンバーにも、レースの流れにも恵まれた。勝って当然のレースだった、というわけだ。

 勝ち時計がコースレコードとなったことも、開幕週の時計が出やすい馬場だったことを考えれば、さほど驚くことではない。ゆえに専門紙記者は、秋初戦を快勝しただけで「過大評価はできない」と語る。

 また、専門紙記者は、本番となるGIスプリンターズS(10月2日/中山・芝1200m)に向けて、前哨戦で上手くいきすぎたことが「メイケイエールにとっては、かえって不安」だと言う。

「もしもセントウルSにおいて、先行馬群が固まってメイケイエールが身動きできない状況に押し込まれ、それでも我慢して、最後に抜け出して勝ったというなら、『次のGIも大丈夫』と太鼓判を押せたかもしれません。でもそうではなく、(本番への課題が見えない)ラクなレースをしてしまった。

 GIとなれば、セントウルSのようなことはなく、スタートから先行馬群はタイトになると予想されます。その時、外枠を引けばまだしも、もし内枠を引いて包まれたら......と考えると、やはり不安は残ります」

 改めて振り返ってみれば、前走も、前々走も、ひと皮むけた勝ち方に見えて、実際のところは専門紙記者が言うとおり、内で馬群に包まれて――といった不利な状況を跳ね返して勝ったわけではない。もし本番でそういう状況に追い込まれたら......、不安は募る。

 加えて、ここ2戦はともに左回りの広々としたコースだった。それが、右回りで小回りの中山に替わってどうか、という懸念もある。

 こうしてみると、GIスプリンターズSで最有力の一頭であるが、絶対視するのは禁物なのかもしれない。

 だが、メイケイエールにはこうした不安や心配を吹き飛ばすだけのポテンシャルがあるのも確かだ。父ミッキーアイルから受け継いだスピード能力は、現役屈指。ここまで気性難を抱えながら、重賞6勝という実績を残していることがそれを実証している。

 これまでスプリントGIにおいては、昨年のスプリンターズSが4着。今春の高松宮記念(3月27日/中京・芝1200m)が5着。これを、「能力自体がその程度」と見るか、「成長途上のなかでよく奮闘した」と見るか、意見が分かれるところだろうが、その答えが出るのが今回、という見方もできる。

 断然の人気が予想されるスプリンターズS。"暴走娘"というレッテルを完全に払拭するだけの、折り合い、走り、強さを見せることができるのか。メイケイエールの大一番での立ち回りに注目である。