ヤクルト劇的勝利で連覇達成。レジェンドOBが語る「2022年のスワローズ」「高津采配の妙」「村上宗隆の存在感」
ヤクルトがルーキー・丸山和郁のサヨナラ安打でDeNAを下し、1992、93年以来となるリーグ連覇を達成した。今シーズン、7月2日にプロ野球史上最速でマジックを点灯させたヤクルトだったが、新型コロナウイルス感染により主力が大量離脱するという非常事態に見舞われ、チームは失速。それでも最後まで1位の座を明け渡すことなく、ゴールテープを切った。今季の戦いをヤクルトOBたちはどう見たのか。90年代の黄金期を支えた川崎憲次郎氏、飯田哲也氏、広澤克実氏の3人に語ってもらった。
DeNAをサヨナラで下し、リーグ連覇を達成したヤクルト
◎川崎憲次郎氏
昨年は規定投球回に到達した投手がおらず、チーム最多勝は小川泰弘、奥川恭伸の9勝。それに続くのは"7回の男"今野龍太の7勝だった。
そして今季は、さらなる飛躍が期待された奥川が3月29日の巨人戦で投げたきり、上半身のコンディション不良で戦線離脱。しかし、その大きな穴をまったく感じさせないくらい、先発陣が頑張った。
ここまで(9月25日現在/以下同)サイスニード9勝(昨年6勝)、小川8勝、高橋奎二8勝(同4勝)、高梨裕稔7勝(同4勝)、原樹理7勝(同3勝)と、昨年の倍近い勝利数を挙げた。日本シリーズの登板でつけた自信が、先発陣の底上げにつながったのだろう。
また昨年同様、今年もリリーフ陣の奮闘が光った。2年目の木澤尚文が8勝8ホールドと飛躍。慶応大時代と比べて、腕の振りが大きくなったことがブレイクの要因だろう。
田口麗斗も1勝18ホールド、防御率1.32と貢献。なかでもセ・パ交流戦の初戦、日本ハム戦の延長10回表、無死満塁から完璧なリリーフをした「田口の20球」は圧巻だった。試合は11回に村上宗隆のサヨナラ2ランで勝利し、ここからチームは勢いに乗り交流戦優勝。独走態勢のきっかけをつくった。
振り返れば1993年9月、ゲーム差0で迎えた中日との天王山。"ギャオス"こと内藤尚行が延長15回無死満塁でリリーフして、アロンゾ・パウエル、落合(博満)さん、彦野(利勝)さんを3者三振。試合は引き分けたが、その後チームは勢いに乗ってリーグ2連覇を達成。田口の快投を見て、このシーンを思い出した。
今の野球はリリーフ投手にかかる負担が大きい。オリックス・山本由伸のような絶対的エースを擁するチームは多くない。ヤクルトも先述した木澤、田口のほか、清水昇、梅野雄吾、石山泰稚、そしてクローザーのスコット・マクガフがブルペンで控えている。チーム防御率3.59はリーグ5位だが、これは勝てる試合を確実にモノにしたということで、先発が試合をつくり、リリーフ陣がしっかり守りきったなによりもの証である。
厚みを増した控え選手層◎飯田哲也氏
今シーズンに関しては、村上宗隆の打撃に尽きる。今年はやってくれるだろうと思っていたが、50本塁打以上打つとは予想以上だった。「村上の前に走者を出して一発」が最大の得点源だった。
1番の塩見泰隆がリーグ2位の24盗塁を記録し、リードオフマンとして見事に機能した。一方で、過去3度の"トリプルスリー"を達成している山田哲人は、リーグ最多の139三振を喫し、打率も2割4分台と苦しんだ。それでも23本塁打、65打点と要所でいい働きをしたのはさすがだった。また二塁の守備も安定していた。
ほかにもベテラン・青木宣親に代わり、山崎晃大朗が攻守にわたり渋い働きを見て、ホセ・オスナも派手さはなかったがシーズンを通して安定した打撃を披露した。
チーム本塁打はリーグトップで、チーム打率と盗塁数はリーグ2位。全体的に次の塁を狙う姿勢が、リーグトップの得点に結びついたのだろう。
ディフェンス面では、中村悠平の存在感が大きかった。ケガにより開幕は出遅れたが、5月3日に戦列に復帰。前日までの27試合で15勝12敗だったが、それ以降、マジック53が点灯した7月2日までの48試合で36勝12敗。5月14日の広島戦から7月3日のDeNA戦まで14カード連続勝ち越し、交流戦も優勝。中村だけの力ではないが、それでも投手陣は安心したのではないか。中村が復帰して、チームに落ち着いた感じがした。
もうひとり、忘れてならないのが高卒3年目の長岡秀樹だ。長年、ヤクルトの課題だったショートのレギュラーの座をつかんだ。規定打席に到達し、本塁打は8本。バッティングに関してはまだまだ非力なイメージはあるが、それでもショートのポジションを1年間守り続けたのは見事だ。
ポジション奪取には「自分でチャンスをつかむ選手」と「チームとしてつくり上げる選手」の2つある。長岡は後者に近いが、高津臣吾監督が我慢して使って、長岡もその期待に応えた。来年以降は期待しかない。
タイトルを争う選手は村上しかいないが、それでも優勝できたのは「チーム力の勝利」にほかならない。今シーズンに関してはレギュラーと控えの差がほとんどなく、選手それぞれが与えられた役割を確実にこなし、結果を出した。ベテラン、中堅、若手の力がうまく噛み合ったからこその連覇だった。
連覇を実現した3つの要因◎広澤克実氏
優勝した理由は1つではなく、複合的な3つの要因があったと思っている。
まず1つ目は村上宗隆の影響だ。かつてオリックスが、イチローという選手が出現したことによって1995年に優勝し、翌年連覇を果たしたが、その時の状況に似ている。突出した選手がひとりいることで、周りのレベルも上がることがある。まさに今年は、村上の存在感の大きさを強く感じたシーズンだった。
2つ目は高津臣吾監督の采配。現役時代、高津監督はNPBのあと独立リーグで選手兼監督を務めるなど苦労した。その後、ヤクルトの二軍監督を務め、一軍監督の1年目(2020年)は最下位を味わった。これらを経験したことで、どんなことが起きても動じない強さがある。今季はコロナにより大量離脱者が出るなどチームは非常事態に陥ったが、今できることを最優先して勝利につなげた。采配により磨きがかかった印象を受けた。
3つ目はリリーフ陣。とくに「勝利の方程式」を確立できたことが大きかった。今季は梅野雄吾(16ホールド)、清水昇(24ホールド)、マクガフ(37セーブ)の3人が終盤の大事な局面を担った。2015年に優勝した時も秋吉亮(現・ソフトバンク)、ローガン・オンドルセク、トニー・バーネットの3人が盤石だった。終盤に計算できる投手がいると、試合運びがスムーズにいく。今シーズンは先発完投型の投手が少ないなか、この3人を筆頭にリリーフ陣の頑張りが大きかった。
高津監督自身、90年代のヤクルト黄金期の名クローザーである。そのあたり、終盤の投手の使い方を熟知し、投手の調子の見極めはさすがだ。
ヤクルトの本拠地・神宮球場は決して広いとは言えず、ホームランも出やすい。それゆえ、攻撃的なチームづくりになりがちなのだが、高津監督は打撃陣に頼ることなく、投手陣の整備を最優先に考えた。そういった意味で、自分たちのやるべき野球に徹した高津采配の勝利だと言えよう。
この先、クライマックス・シリーズ(CS)、そして日本シリーズが待っている。セ・リーグの覇者の2年連続日本一は、1979、80年の広島以来、じつに42年ぶりとなる。次はそこを目指してほしい。