「私は今、毎週のようにレアル・ソシエダの久保建英のプレーを現地で目にしている。4−4−2のトップ、もしくはトップ下というポジションで、彼はピッチで楽しんでいるように映る。日本代表でも、コンビネーションでプレースピードを高め、1対1を挑み、ゴールにも絡んでいるが......」

 スペインの名伯楽、ミケル・エチャリはそこで言葉を濁している。レアル・ソシエダでは20年近くにわたって、強化部長や育成部長、セカンドチームの監督など、あらゆる役職を担ってきた。クラブのレジェンドが、久保の最近のプレーには称賛を送る。

 それだけに、今回の欧州遠征・アメリカ戦の森保ジャパンのプレーには不満を感じたのだろう。

「チームとして、全体的にプレーリズムが悪かった。攻撃は緩く、明らかにコンビネーションが足りていない」

 日本はアメリカに2−0と勝利を収めたが、エチャリは厳しい評価を下している。彼はこれまで、たとえ負けても、むしろポジティブなところを探し、建設的な視点で森保ジャパンのリポートを送ってきた。カタールW杯直前、どこに問題の核心はあったのか?


アメリカ戦で攻守に健闘していた久保建英だが......

「まず、両チームが難しい状況でテストマッチを行なっていることは明記すべきだろう。例年、9月のテストマッチというのは、どこか緩さが出るものだ。要因としては、欧州各国でリーグ戦が開幕したばかりで、選手はコンディション的にも一度ダウンする時期で、チームのなかでの立ち位置など、さまざまなストレスもある状況だからだ。

 加えて、今シーズンは11月にW杯が開幕することで、調整の難しさを抱えている。

 そのせいで、日本もアメリカも、テンポが上がらなかったのかもしれない。それほどに、目立ったプレーが少なかった。泥試合とは言わないが、W杯本大会に向けてはあまり参考にならない内容だ。

 日本は4−4−2、あるいは4−2−3−1というシステムでスタートしている。ディフェンス面は基準をクリアしていた。前線からしつこくプレスをかけ、ボランチのふたりがフィルターとなり、バックラインでは冨安健洋がソリッドに守っていた。もっとも、アメリカのプレー水準は低く、ビルドアップすらまともにできておらず、ほとんど圧力を受けていなかった。

「攻撃はカウンターばかり」

 目についたのが、右サイドバックの酒井宏樹のコンディションの悪さだろう。実力者である彼本来の出来にはほど遠かった。一度だけ、すばらしい攻め上がりはあったが、もしかすると肉体面の不安があって、セーブしてプレーしているのかもしれない。

 それぞれの選手のコンディションは気になるが、攻撃面の不振こそが懸念材料だ。

 鎌田大地、久保のふたりは、いくつかよいコンビネーションがあった。しかし、前田大然、伊東純也は、チャンスにはそれぞれ絡んでいたが、コンビネーションは単発。結果として、攻撃は相手のミスに助けられたカウンターばかりで、波状攻撃はほとんどなかった」

 前半25分、日本は相手のバックパスをカットした伊東が攻め上がり、前田、守田英正、そして鎌田とつなげ、鎌田が右足で流し込み、先制に成功している。相手のミスをゴールに結びつけた格好だ。

「後半、アメリカはバックラインの選手を入れ替えている。これでプレスを回避できるようになった。リードされたアメリカが押し返した形だが、脅かすような攻撃はほとんどできていない。

 一方、日本もテンポが上がらないままだった。むしろプレスがはまらず、カウンターが影を潜めたことで、攻め手もなくなる。カウンターで久保から鎌田につなげ、決定機を作る場面もあったが、やはり次が続かない。

 後半23分、三笘薫、堂安律を交代で入れたことで、わずかだが試合のテンションが高まった。三笘が左サイドから何度も仕掛け、堂安が狙った左足シュートはバーをかすめた。後半43分、三笘の単独ドリブルからの右足一閃は、彼の真骨頂だったと言える。

 そして最後、森保一監督は原口元気を投入し、5−4−1の布陣で2−0の試合を締めたわけだが......」

 エチャリは欧州のチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグで活躍する日本人選手を見ているだけに、物足りなさが残る様子だった。「いい守りがいい攻めを作る」という戦い方を支持するというが、この日のようにカウンター一辺倒だと、強敵相手には苦しくなる。

 最後に、彼はアメリカ戦をこう総括している。

「守田は最後までよく攻撃に絡んでいたし、鎌田、冨安は実力を感じさせた。魅力的な攻撃を仕掛けられる選手はいるだけに、もっとプレーリズムを高めるべきだろう。久保は左サイドに固定されていたが、真価を発揮していない。また、何より『9番』と言える選手のチョイスが気になる。私は誰かを推挙する立場ではないが、この人選こそが、W杯でひとつのカギになるかもしれない。

 27日のエクアドル戦はメンバー変更ありきのようだが、健闘を祈りたい」