久保建英のアメリカ戦のプレーに違和感。日本代表に波状攻撃がないのはなぜか
9月23日、ドイツ・デュッセルドルフ。カタールW杯に向けた欧州遠征で、日本代表はアメリカ代表に2−0と幸先のいい勝利を収めている。
今シーズン、レアル・ソシエダで輝きを放つ久保建英(21歳)は、4−2−3−1の左アタッカーで先発、後半23分までプレーした。彼自身の出来は悪くなかった。堅実に守り、カウンターで脅かし、勝利に貢献したと言える。
しかし、どこか音程が外れたような、パズルのピースを失くしたような、違和感を拭いきれなかった。
アメリカ戦の久保は左サイドで攻守を支え、いくつかチャンスを作っている。
前半10分、冨安健洋が縦パスを鎌田大地につけると、守田英正につながり、左で受けた久保がカットインし、右足でシュートするが、ブロックに遭う。前半12分、前線で久保がパスカットに成功し、すかさずゴール前に入った鎌田につなげ、ショートカウンターを発動。後半19分、敵陣右サイドで相手を挟んでボールを奪い取り、ドリブルで運ぶと左足で鎌田にラストパス。シュートはGKのビッグセーブで防がれた。
日本代表のアメリカ戦に先発、後半23分までプレーした久保建英
ダイジェスト版にしたら悪くないが、攻撃全体のリズムは間延びしたものだった。
本来の久保は、リズムの変化で攻撃を仕掛けることを得意としている。周りの選手と近距離のパス交換でテンポを作り、相手を動かしてスペースを作り、さらにコンビネーションを生み出して致命傷を与える。高速プレーのなかでの連係、そこでのアイデアや技術精度が突出しているのだ。
有力クラブであるレアル・ソシエダに移籍して即適応できたのも、その異能のおかげだろう。クラブのプレーコンセプトが「ボールありきの能動型」で、左利きのスキルの高い選手を多く配置し、めくるめくコンビネーションを使うスタイルで、久保は4−3−1−2の2トップの一角、もしくはトップ下で、居場所を見つけたように八面六臂の活躍を見せている。
しかし、森保ジャパンではその残滓しか見えないのだ。そこには明白な問題がふたつある。
攻撃の枚数が足りないひとつは、各選手の距離感が悪いこと。単純に距離が二歩か三歩は遠いため、パスの精度が低くなり、お互いに逡巡も見られる。序盤、久保が単独ドリブルで切り込んだシーンなど象徴的だろう。寄ってくる選手がいたら、攻撃の可能性は際限なく広がったはずだが、周りの反応が薄い。チームの土台が「守備ありきの受動型」で、プレッシングやカウンターでの献身や速さを捨てられず、攻撃連係向上に限界があるのだ。
もうひとつは、明快に攻撃枚数が足りないこと。1トップ、トップ下、左右のアタッカーの4人が攻撃の主力で、他は守田が加わる程度。アメリカ戦に関しては、サイドバックの攻め上がりも限定的だった。
レアル・ソシエダはふたりのFW、トップ下、ふたりのインサイドハーフが攻撃に関与、常に5人がそのためのポジションをとる。特筆すべきは、5人とも左利きで、テクニックと戦術に優れることだ。プラスアルファで、サイドバック、もしくはアンカーがポジションを捨て、攻撃をサポート。5+1と枚数をかけることで、得点の確率を高め、波状攻撃も可能にしている。
森保ジャパンの攻撃が単発で、リズムが上がらないのは必然だった。
久保は鎌田、守田との連係のよさは感じさせた。だが、左サイドバックの中山雄太とは、合いそうなシーンはあったが不発で、他の選手とは回線がほとんどつながっていない。前田大然、伊東純也、町野修斗はプレー強度の高さがあり、能力こそ高いが、高い位置でボールを握って仕掛け、変幻のプレーで波状攻撃を仕掛けるタイプではないだろう。
久保は所属クラブで、これまであまり得意としていなかった左サイドでも、クラシックなウィングプレーで活躍を見せている。クロスのタイミングがよく、同じタイプのダビド・シルバの波長を吸収したか、確実にプレーの幅を広げた。ただ、森保ジャパンのように左で固定された状況では、動きは狭められ、選択肢も少なく、窮屈そうだった。
繰り返すが、久保は無数のコンビネーションの選択肢があるなかで、最大限の力を発揮する。それも、ゴールが近い位置で際立って異彩を放つ。その点では、レアル・ソシエダのようにトップの一角、トップ下でプレーするのが論理的だ。
レアル・ソシエダではなく、鎌田のフランクフルトであっても論点は同じだろう。3−4−2−1で攻撃に関与できる選手が多く、プレーキャラクターも適合し、各選手が躍動する。日本代表も、たとえばトップにFW上田綺世、シャドーに久保、鎌田、左右に三笘、堂安という布陣をとれば、リスクが高いかもしれないが、ボールプレーができる選手たちに守備でも力を抜かせないことで、初めてドイツやスペインに太刀打ちできるはずだ。
今のままでは中途半端で、本大会ではどの選手もよさを出しきれぬままに終わる公算が高い。FIFAランキング14位のアメリカに勝利したが、エースのクリスチャン・プリシッチが不在で、若手主体の1軍半の陣容だった。勝利に酔うのは禁物だ。
次のエクアドル戦は大幅なメンバー変更が予想される。久保は交代出場か。いずれにせよ彼の真価はこんなものではない。