代表ウィーク前の9月18日に行なわれたリーグ・アン第8節。今シーズンからともにリーグ・アンのクラブに新天地を求めた、ふたりの日本代表FWの直接対決が実現した。スタッド・ランスの伊東純也と、モナコの南野拓実による"日本人ダービー"だ。

 試合は、前半22分に退場者を出してしまったホームのスタッド・ランスが苦しい展開を強いられ、後半に3失点。最終的にモナコが3−0で勝利する結果となったが、日本代表ふたりにとってはポジティブな要素が多い試合でもあった。


モナコ移籍後初ゴールを決めた南野拓実

 まず、第3節から6試合連続のスタメン出場を飾った伊東は、これまで3−4−1−2の2トップの一角を務めてきたが、この試合では3−4−2−1の右シャドーでプレー。守備時には5−4−1に可変するため、2列目「4」の右MFとして守備でも大事な役割を担った。

 もっとも、過去5試合で2トップの右を担当してきた伊東は、攻撃時はピッチ右半分である程度の自由を与えられていたため、この試合でも違和感なくプレーできていた。ただ、右WBのブラッドレー・ロッコが早い時間帯でレッドカードを受けたことで10人での戦いを強いられ、その後は4−4−1の右MFとして自陣での守備に追われたことは誤算だった。

 それでも、この試合の後半開始から左MFイェンス・カユステが投入された53分までは初めて左サイドを担当。その後は再び右サイドに戻ってプレーするなど、あらためて伊東がチームに不可欠な戦力であることを証明した。

 退場者を出した過去4試合では、いずれも後半途中でピッチをあとにしていたが、この試合ではフル出場を果たしている。オスカル・ガルシア監督からの信頼がさらに高まっていることも見てとれた。

 最大の見せ場は後半75分。敵陣右サイドでボールを持った伊東がモナコのカイオ・エンリケとブノア・バディアシルを立て続けにドリブルで剥がしてマイナスのクロスを供給し、そのボールをアンドリュー・グラヴィロンがシュートしたシーンだ。

 惜しくもシュートは枠を外れたが、10人で劣勢を強いられたなか、得意のドリブル突破で決定機を生み出したプレーは圧巻だった。

南野がモナコで苦戦した理由

 ここまでリーグ戦8試合を終えた段階で、伊東の出場時間は499分。開幕直前に軽い負傷で出遅れながら、あっという間にチーム内での地位を築くことに成功している。

 若手中心で構成されるスタッド・ランスにおいて、伊東は精神的支柱でもある34歳の闘将ユニス・アブデルハミドに次ぐ2番目の年長者となる29歳。モナコ戦前の会見で本人が口にしていたように、チームを引っ張っていく役割も担っている。

 プレー面でも、ここまで5得点を量産するフォラリン・バログンと絶妙な関係性を確立している。伊東がボールを受けたらバログンがDFの背後を狙って動き出し、それを見逃さずにパスを供給することで多くの好機を演出してきた。

 相手と接近した状態でボールを受ける場合は、1タッチか2タッチで味方にボールを預けてから受け直しの動きをする。それによって、なるべく前を向いた状態でプレーしようとする狙いがうかがえる。

 リーグ・アン独特の対人バトルに慣れるまでは、そのプレースタイルが奏功している印象だ。最大の武器であるスピードを生かす局面との使い分けもよく整理されている。残念ながら、計5試合で退場者を出していることも影響してチームは成績不振に陥っているが、伊東個人としては新天地で最高の滑り出しを見せていると言っていい。

 一方、ここまで苦戦しているのがモナコの南野だ。この試合ではヨーロッパリーグ(EL)第2節のフェレンツヴァロシュ(ハンガリー)戦を含め、3戦連続のベンチスタート。直近2試合は出場機会もなく、開幕当初と比べても明らかにパフォーマンスが下降気味だった。

 今シーズンのモナコは、チャンピオンズリーグ(CL)の予選から戦いをスタートしたため、これまで公式戦計12試合を消化している。その過密日程を考慮し、フロントは前線の選手層に厚みを持たせるため、ユーティリティ性の高い南野を獲得。リバプールには、1500万ユーロ(約21億円)の移籍金を支払った。

 しかし、当初はレギュラー組の一員としてCL予選のPSV戦で先発出場していた南野だったが、なかなかフィットできずに大苦戦。その後も低調なパフォーマンスが続くと、周囲からの期待が大きかった分、メディアから厳しい批判に晒された。そんなプレッシャーのかかる状況のなか、南野のプレーにも焦りが見え始め、とくにデュエルでボールを失うシーンが目立つようになった。

フランス代表DFも南野を絶賛

 スピードという明確な武器を持つ伊東と違い、南野は周囲の選手と連係しながら自分の強みを相手ペナルティエリア内で発揮するタイプのアタッカーだ。従って、リーグ・アンのデュエルに慣れ、同時に周囲との関係性を高めるまでにはそれなりの時間を要することは、ある意味で想定内とも言えるだろう。そんななかで迎えたのが、今回の試合だった。

 後半開始早々の47分にアレクサンドル・ゴロビンのヘディングシュートで先制したモナコのフィリップ・クレマン監督は、65分に南野とジェルソン・マルティンスをピッチに送り出した。この試合のモナコは第4節パリ・サンジェルマン戦から採用してきた3バックシステムではなく、7試合ぶりに4−4−2に布陣を変更。南野はマゲネス・アクリウシュに代わって右MFでプレーした。

 すると試合終了間際の87分、同点に追いつくために前がかりになったスタッド・ランスの守備に大きな穴が生まれ、ブレール・エンボロからのパスをフリーで受けた南野がGKと1対1のシーンを迎えると、その決定機で冷静にフィニッシュ。待望の移籍後初ゴールが生まれた。

 さらにその3分後には、南野のパスを受けたウィサム・ベン・イェデルが加点。これまで不振が続いていたチームの大エースの今シーズン初ゴールを南野がアシストしたことは、今後を考えると、自身のゴールよりも大きな価値を持つかもしれない。

「タキ(南野)のゴールには、みんな喜んでいるよ。これで解き放たれると思うし、次の試合ではベストな状態の彼を見られると思う。彼はチームとリーグに慣れる必要があったけど、今日の試合で彼がチームを助けるために必要なすべてのクオリティを持っていることを証明してくれた。賢くて、テクニックもあって、ボールも持てる。彼は僕たちにとって、とても重要な選手になるはずだ」

 試合後、フランス代表に初招集されたばかりのバディアシルはこの試合で活躍した南野についてそうコメントしたが、この試合をきっかけに、南野のチームメイトからの信頼が高まったことは間違いないだろう。

伊東と南野が笑顔で挨拶

 とはいえ、相手がひとり少なかったこと、試合終了間際で1点を追うホームチームがリスク覚悟で前がかりになっていたことを考えれば、まだ南野の今後の活躍が保証されたわけではない。あくまでも現段階では、新天地モナコでの第一歩をようやく踏み出すことができたと捉えるべきだろう。

 いずれにしても、今シーズン最初の日本代表アタッカー直接対決は、ふたり揃ってポジティブな試合になったことだけは間違いなさそうだ。

 試合後、お互いの労をねぎらう南野と伊東のところに割って入ったのは、モナコのクレマン監督だった。かつてベルギーのゲンクを率いた時代に伊東を指導したこともあり、3人はしばらく笑顔で会話する場面が見られた。

 その時のクレマン監督の明るい表情が、この試合の勝利の意味を物語っているようだった。