昨年、東京オリンピックで銀メダルを獲得してから注目度が一気に高まったバスケの日本女子代表チームが、9月22日からオーストラリアで開幕するFIBA女子ワールドカップに臨む。

 9月8日に発表された12名のロスターは新顔も加わり、偉業を成し遂げたチームとはまた違う趣を見せる。そのなかでも注目のひとつは、日本の至宝・渡嘉敷来夢(C/31歳/ENEOS サンフラワーズ)が2016年リオオリンピック以来の世界大会に臨むことだ。


太陽のような明るさは変わらぬ渡嘉敷来夢

 身長193cmのサイズは、国内では圧倒的。高さとスピードを生かしたインサイドでのプレーが、従前は彼女の「仕事」だった。

 しかし、アジリティ(機敏さ)を重視し、選手がコートを動き回るなかから得点機をうかがう現在の日本女子代表・恩塚亨ヘッドコーチ指揮下のチームでは、渡嘉敷に求められるプレーや立ち位置も少なからず変わっている。

 もっと言えば、今の代表での渡嘉敷は、以前のような圧倒的な存在感を示す必要がなくなっている、とすら言えるのだ。

「日本にない高さ、というところでチームに少し貢献できると思うので、リバウンドだったり、大きい選手相手にはディフェンスで体を張って、地味なんですけど、頑張りたいなと思います」

 ワールドカップに挑む選手の発表後の取材対応で、渡嘉敷はそのように話した。「地味なんですけど」という言葉は、以前の抜きん出た存在だった頃の彼女であれば、おそらく言わなかったものではないか。

 もっとも、その言葉を口にした時の渡嘉敷の表情は、必ずしも自身を卑下するようなものではなく、どこかうれしそうにすら感じられた。

 リオでは平均36分超の出場時間で同17得点、6.3リバウンドで記録し、日本の準々決勝進出に中心的役割を果たした。しかし、現在の日本代表は多くの選手を代わる代わる使うスタイルだということもあって、渡嘉敷がそこまで「背負う」必要がない。

センターらしくない動きを模索

 2月に大阪で行なわれたワールドカップ予選トーナメントで、渡嘉敷は平均27分弱の出場時間で同6得点、5.5リバウンドを挙げた。8月中旬の仙台でのラトビアとの強化試合2試合では、平均33分強出場して10.5得点、4.5リバウンド。こうした数字を見比べても、そこは明確だ。

 今の日本代表は、東京オリンピックで活躍した郄田真希(PF/33歳/デンソーアイリス)や赤穂ひまわり(SG-SF/24歳/デンソーアイリス)、馬瓜ステファニー(PF/23歳/トヨタ自動車アンテロープス)、若手の東藤なな子(SG-SF/21歳/トヨタ紡織サンシャインラビッツ)や平下愛佳(SG/20歳/トヨタ自動車アンテロープス)など、幅広い年齢層が攻守で多彩なオプションを駆使しながら全員でプレーするスタイルだ。換言すれば、限られたスター選手に頼らない戦い方をしているのである。

 8月中旬に仙台で行なわれたラトビアとの強化試合。「世界一のアジリティ」を追い求め、センターも「センターらしくない動き」をする現代表のスタイルに適応するため、ずっと模索してきた。その難しさについて、渡嘉敷はこのように話す。

「はっきりと『役割はこれ』みたいなのが正直、まだわからなくて......。自分自身で描いているものが高すぎるからなのか、もうちょっとできてもいいのかなって思っている部分はあります」

 それでも、渡嘉敷が「選ばれし者」であることに変わりはない。それは、体躯と秀でた技量のことだけを指しているのではない。底抜けの明るさを持つ太陽のような存在の彼女だが、キャリアを重ねてきたことでバスケットボールの理解度が深まり、卓越したリーダーシップが備わってきたからだ。

 渡嘉敷とは長年コートをともにしてきた日本代表キャプテンの郄田は、渡嘉敷が「もっとこうしてほしい」といった厳しい指摘などを「みんなに対して言える」心強い選手であると評している。

渡嘉敷加入の化学反応は?

 国際経験も日本代表だけでなく、2015年からWNBAのシアトル・ストームで3シーズン、日本でのようなナンバー1選手ではない扱いのなかで揉まれてきた。今でもアメリカやヨーロッパの試合を頻繁に見るという。ワールドカップで対戦する国々のことも、よくわかっているはずだ。

 ワールドカップ予選トーナメント前、渡嘉敷は「自分の考えていることがすべて正解だとは思わないし、年下の選手たちに考えを聞くこともある」と前置きしつつ、それでも「若い頃から日本代表やアメリカを経験していたので、その時から自信は持っていました」と、自身が辿ってきた道のりについての矜持も示している。

 冒頭で記したように、渡嘉敷にとって今回のワールドカップはリオオリンピック以来、6年ぶりの世界大会出場となる。本来ならば昨夏の東京オリンピック代表メンバーとなっているはずだったが、2020年末に右ひざ前十字じん帯を断裂する大ケガを負い、出場は叶わなかった。

「自分もその舞台に立ちたいし、負けたくない」

 渡嘉敷はパリオリンピックへの思いを口にする。

 東京オリンピックから1年が過ぎ、「出場できなかった悔しさはもう過去のものか」と問われた。それに対し、渡嘉敷は首を振った。

「オリンピックに出るまでこの気持ちは消化できないと思っています。ただ、メダル(獲得)は簡単じゃないし、31歳でベテラン枠に入っちゃっていますけど、やっぱりオリンピックが終わらないといろんな気持ちが残っちゃうと思うので、そこに向けて一日一日を全力で過ごしていきたいなと思います」

 いろんな気持ち、とは、おそらく「悔い」という意味であるはずだ。国内外で多くを成し遂げ、戦い続ける動機づけを求めるのも、若い頃ほど容易ではないだろう。

 だが、パリへ行き、そこで表彰台に上がるという目標は、今の渡嘉敷の背中を押すものであるに違いない。

 オリンピックで銀メダルを獲ったチームの次の一歩を、渡嘉敷という稀代の選手が融合することで、日本代表がいかに踏むのか。今回のワールドカップの興味深い見どころのひとつとなる。