「ブラジル料理よりも日本食が好き」というガンバ大阪のパトリック。日本で絶対に成功したいと頑張ってきた10年間
ガンバ大阪 パトリック インタビュー 後編
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2013年に初来日し、今季10年目を過ごしているガンバ大阪のFWパトリック。インタビュー後編では、来日のきっかけや日本、そして日本サッカーの印象を聞いた。
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「日本に長く住むことになるな」と予感した「日本について、もともとよい印象を持っていたけど、初めて来た時に『すばらしい、ぜひともここで長く生活したい』と思いました」
パトリックはそう言って、およそ10年前に初来日した時のことを振り返った。ブラジルでふいに舞い込んできたチャンスを、彼は両手でしっかりと掴み、人生を好転させたのだ。
来日10年目のガンバ大阪のパトリックが、日本の生活やサッカーについて語った
「(2012年に川崎)フロンターレがブラジルでフォワードを探していたんです。最初はフラメンゴの選手に興味を持っていたらしいのですが、交渉がうまくいかなかったみたいで、そのあとにサントス戦を観に来て、その試合に出場していた僕を気に入ってくれたようです。
実際にオファーをもらった時、迷うことは一切なかったです。日本に興味があったし、海外でプレーしたかったので」
話はスムーズにまとまり、長旅を経て日本に降り立った時、冒頭のような第一印象を抱いた。いや実際は、「自分は日本に長く住むことになるな」と予感したという。
「誰もが温かく歓迎してくれました。皆がリスペクトしてくれ、言葉が通じなくても、どうにかして自分を理解してくれようとしました。またサラリーをきちんと支払ってもらえるのも大きかった。ブラジルではそれが普通ではないので。そしてこの環境ならば、自分はピッチで戦うことに完全に集中できると確信しました」
日本とブラジルは、世界でもっとも離れた場所に位置する。地球の裏側にある遠い異国ながら、パトリックが日本で受けたカルチャーショックはすべてポジティブなものだったという。
「街にはゴミがほとんど落ちていなくて、なんて綺麗なところなんだろうと思いました。日本食もすぐに大好きになりました。よくチームメイトから、日本食とブラジルの食事のどちらが好きかと訊かれることがありますが、日本食と答えています」
「家で自分で焼きそばを作ったりする」具体的に何が好物かと訊くと、パトリックは即座に日本語で回答した。
「とてもいっぱいよ。カツ丼、お好み焼き、たこ焼き、焼肉、牛丼、ラーメン、とんかつ、あとは寿司とか、だいたい全部大好き。家で自分で焼きそばを作ったりもするね。納豆だけはまだチャレンジできていないけど、それ以外はだいたいなんでも好き」
初年度の2013年シーズンは、前半戦は川崎、後半戦はヴァンフォーレ甲府に、どちらも期限付きで在籍。シーズンを通じて、全公式戦で9得点を記録したが、契約の関係でシーズン後に一度帰国しなければならなくなった。
「本当は、その時もブラジルに帰りたくなかったんです」とパトリックは明かす。
「甲府と契約を延長する可能性もあったのですが、契約交渉がもつれてしまって。ブラジルでは4カ月間、家で過ごしたり、下部リーグの試合に出たりしていましたが、ガンバからオファーが来た時にはすぐに飛びつきました」
そこから、パトリックの活躍が始まった。夏に途中加入すると、宇佐美貴史と2トップを組み、初先発から3試合連続で計4得点の荒稼ぎ。加入当初は16位に沈んでいたチームを前線から牽引し、リーグ戦の順位はみるみる上がっていき、最後はシャーレを掲げ、ふたつのカップ戦の決勝では重要なゴールを決めた。つまり、国内3冠の立役者のひとりになったわけだ。
「その前の年の経験が生きたと思います」とパトリックは回想する。
「Jリーグのディフェンダーの特徴がある程度わかっていましたし、自分に求められることも理解していました。ここではアタッカーも攻撃だけでなく、守備にも精を出さなければいけません。それまではボックスの中だけで仕事をしていましたが、相手の裏を突いたり、プレスに走ったりと、プレーの幅を広げられたのも大きかったと思います。
それから、自分の意欲にも並々ならぬものがありました。日本で絶対に成功したい、成功しなければならない、と強く誓っていました。入ったばかりの頃はチームが難しい状況にありましたが、仲間たちと互いに理解し合い、歯車が噛み合うようになっていきました」
「年を重ねるごとに、仕事に集中できるようになっている」以降、2015年シーズンは天皇杯決勝で2ゴールを決め、タイトル獲得に貢献。サンフレッチェ広島での2018年シーズンはリーグ戦20得点を挙げて、チームの2位に貢献するなど、存在感を示してきた。
そして約10年間の日本サッカーの推移も目の当たりにし、「レベルがどんどん上がっていき、その結果として多くの選手が欧州でも活躍するようになっている」と感じている。また日本人の守備者のクオリティにも驚かされ、なかでも「鹿島(アントラーズ)にいた頃の昌子源や、元(横浜F・)マリノスの中澤佑二選手には、とくに手を焼いた」という。今では昌子とガンバでチームメイトになり、「すごく頼もしい」と笑う。
そんなパトリックも10月で35歳になる。自身はあとどれくらい、このレベルでプレーを続けられると考えているのだろうか。
「自分の感触としては、コンディションは年々上がっています。年を重ねるごとに、仕事に集中できるようになっているし、質のよい食事や睡眠、休養をとれるようになっている。
世界的にベテランと呼ばれる選手が長く活躍できるようになっている要因には、テクノロジーや栄養学などの進歩もあると思いますが、やはり選手がそれぞれにプラスアルファの努力をしているからだと思います。自分もオフの日には、クラブハウスで過ごしていることが多いです」
つまり、まだまだ引退は考えていない?
「もちろん、もっともっと(プレーを)続けたいです。がんばりましょう(日本語で)」
(おわり)
パトリック
Anderson Patric Aguiar Oliveira/1987年10月26日生まれ。ブラジル・アマパー州マカパ出身。ガンバ大阪のFW。2007年にパイサンドゥでプロデビューし、複数のクラブでプレー。2013年にアトレチコ・ゴイアニエンセから川崎フロンターレに移籍し初来日すると、その後ヴァンフォーレ甲府でもプレー。ブラジルに一時帰国後、2014年の途中にG大阪へ入ると、このシーズンのチーム3冠に貢献した。2017年途中にサンフレッチェ広島へ移籍し、2018年は得点ランキング2位の活躍。2019年途中にG大阪へ復帰し、今年は来日10年目を迎えた。