近藤一樹×近藤壱来 師弟対談(後編)

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 四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズの近藤壱来は、昨シーズン、元ヤクルトの近藤一樹選手兼コーチと出会ったことで大きく成長し、NPBへの意識も強くなっていた。ドラフト前には数球団から調査書も届き、指名を待ったが、名前が呼ばれることはなかった。


今シーズン、リーグトップの奪三振をマークした香川オリーブガイナーズの近藤壱来

ドラフト指名漏れを経験

壱来 シーズン中にスカウトの方が見にきて下さったり、NPB球団からの調査書が届いたり、そういう話は聞いていました。最終的にドラフト指名から漏れて、その時は本当に落ち込んでへこみました。

一樹 僕としては、まず二軍のローテーションを回れるレベルにはあると思っていたんです。ただ、去年感じたことは「指名が左投手と右打者に偏っているな」ということでした。チームにはほかにも指名の可能性があった選手はいましたが、左打者だったりで......。そういったタイミングもドラフトでは重要なので、去年のイチはそこに当てはまらなかったのだなと。あとは、調子の波がありすぎるところもNPB球団としては物足りないところだったのかもしれません。これは結果論ですが。

── 昨年のドラフトで四国アイランドリーグから3人の選手が育成1位で指名され、投手では高知ファイティングドッグスの宮森智志選手が楽天のユニフォームに袖を通すことになりました。

壱来 宮森はすごいと思います。投げ合った試合で負けましたし、ああいうボールを投げられるピッチャーがNPBに呼ばれて、すぐに支配下選手となって、一軍でもバンバン投げられるんだなと。ものすごく刺激になっています。

一樹 宮森選手のピッチングは、見るのが楽しみでしたし、スケールを感じました。シーズン中の登板は少なかったのですが、伸びしろでチョイスされたのかなと。

壱来 ドラフトが終わったあと、コーチに言われたんです。「プロ注目というのは、12球団から注目されて、やっと注目だから」と。自分は3、4球団が見にきてくれただけで、勝手にNPBが近くなったと思い込んでいただけだったんだと。でも、その言葉で今年に向けての切り替えができたんです。

一樹 去年オフ、チームに残ることが決まっていたのでずっと香川にいたんです。なので、11月から選手たちとずっとキャンプをしていたような感じでした(笑)。このリーグはオフに指導者が教えてもOKなので。そのなかで、今年はイチに限らず、2年目の選手たちには「まず自分で動きなさい」という形で始めました。

壱来 いざ自分でやるとなった時に、自分の弱さを痛感しました。去年まではコーチにべったりで、「どうですか」「こうですか」と言われたことだけをやっているだけだったんだと。今年もほぼ1年投げてきましたけど、よかったと思ったら、また悪くなったりの繰り返しで......。 1年目は教えてもらっていたからできていただけなんだと。

一樹 今年は1年目の選手に重点を置いているけど、別にイチやほかの選手たちを放り投げたとかじゃないんだよ。去年一緒に過ごした選手は、僕のやろうとしている流れを知っているし、何をすればいいのかを提供した。本当に困っている時は手を差し伸べるけど、みんなプロフェッショナルなわけだから。ひとりマウンドで戦う時に、強いメンタルであったり、視野を広げることがその先につながっていく。そのために放置しているというか(笑)。

弱点を見せないこともピッチング

 取材前日の試合で負け投手となった壱来だが、試合中、思うようにいかない自分に向かって、たびたび吠えていた。

一樹 ことわざにも「弱い犬ほどよく......」とありますからね。

壱来 結局、5回までイライラしてしまって、6回に入る前にコーチに助けを求めて......。「あー、やっぱり自分はまだまだ弱いピッチャーなんだ」と。

一樹 そこはわかっているんだ(笑)。

壱来 今年は焦っていることもあって、とくにそれを感じています。

一樹 どの選手にも話しているのですが、まずは自分の性格を早く知りなさいと。イチの場合、イライラしない方法を見つけて、試合前から余裕を持てるくらいに準備をしておきなさいと。

壱来 それは理解しているのですが、むちゃくちゃせっかちなんで。

一樹 イチは攻略するのが簡単なピッチャーなんだよ。イライラさせたら早いイニングで潰れてくれる。対戦相手に弱点を見せないことも"ピッチング"のひとつだからね。負けん気があるというのも伸びしろのひとつだけど、それを野球に生かせるかは自分次第。

壱来 ドラフトが迫っていることもあって焦りはありますが、とにかく練習するしかありません。

一樹 とことん練習するしかないね。NPBに入る選手って、昔からプロなんだよ。中学、高校からプロに入るという意識のなかでやっている子たちが、だいたい上に行く。独立リーグは、ようやく上を目指しますという子ばかりで、NPBに対しての準備に時間のロスがある。そのなかで上を目指すのであれば、もっと意識を高く、もっと濃い時間を過ごさないと追いつけない。だから、常に練習しなさいと言っています。

壱来 話は全然違うかもしれませんが、昨日の試合で降板してから相手投手のピッチングをずっと見ていたのですが、すごく楽しんでいるように見えたんです。逆に言うと、去年の僕はあんな感じで投げていたのかなと。

一樹 去年のイチは、周りからそういうふうに思われていたんだよ。

壱来 昨日の自分は、ただ腕を振って速い球を投げてやろうって。それで当てられたらイライラして......。

一樹 冷静に自分がわかっているんだから、その考えで投げればいいんだよ。

壱来 それがわかったのは交代してからなんで......。

一樹 でも試合で悪かったところをひとつでも潰していけば、スカウトも「この前とは違うな」となるかもしれない。

壱来 去年は投げていてむちゃくちゃ楽しかったんですよ。でも今年はキャッチボールでもドキドキなんです。どんな球が投げられるんやろうって。

負け投手になるとみんな敵になる

── 以前、スワローズのブルペンを支える清水昇投手に、NPBとはどんな世界なのかを聞いたところ、こんなふうに言っていました。

「夢をかなえる場所であり、厳しい世界です。プロに入ってもずっと二軍にいたら味わえない世界ですし、一軍にずっといたからといってすごく幸せになれるかといえば、自分とチームの成績が伴わなければ難しい。幸せになるにはチームプレーであり、個人プレーのふたつで結果を出すことが大事です」

壱来 近藤コーチからNPBの話はいろいろ聞いているんですけど、自分の目で見たことがないので。それは入らないと見られないじゃないですか。近藤コーチからは石川雅規さんのことも聞きましたし、金子千尋さんのすごいボールの話も聞きました。なにより、僕は高校時代に甲子園に行けなかったので、満員の球場で投げたことがない。

一樹 オレはそのことを言いたかったんだよ(笑)。

壱来 満員の球場は本当に揺れて、野手からの声も聞こえないとか。最高でも3千人のお客さんの前で投げたくらいなので、何万人の歓声というのはどんなんだろうって。選手の技術も、石川さんは何十年もNPBの世界でやられて、どんなキャッチボールをするのだろうとか......一度は見てみたいですし、受けてみたいです。

一樹 脅しじゃないけど、昨日の試合の状態では、NPBではとても厳しい(笑)。たとえば超満員の球場で、ホームとビジターに分かれるけど、負け投手になるとみんな敵になるからね。

壱来 球場のみんなが敵になるんですか?

一樹 全国にはほかにもファンがいるから。放送で見ています、ネットで見ていますと。オレは常に試合でやらかしていたから、球場では「金返せ!」とヤジられたし。今のイチはイライラどころか、NPBでやっていけないかもしれない。でもその分、活躍すると本当にいい生活ができる。そのひと握りのところをみんなが目指すわけで、そこに行きつくまでに苦労しておけば、上に行けた時に少しはラクになる。

壱来 そこに近づけるように、これからもとことん練習します。

一樹 勝つというのは難しいことで、苦労して苦労して勝ったほうが喜びは大きい。今年、こうして苦労していることが、最後に結果として出る。ドラフトにかかるかもしれないし、今年も指名されないかもしれない。でも、こうして今も苦労しているからこそ、また次のタイミングで入りやすくなるかもしれない。NPBは本当に大きな世界なんだよ。

おわり