――どうすればJリーグで、今日(9月18日)のような面白い(攻め合うスリルがある)試合が増えるのでしょう?

「私は日本人指導者が勤勉ですばらしいと思っているし、リスペクトしていますが......」

 北海道コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、そう前置きしてから答えている。この日の札幌は、強力な得点力で首位を走る横浜F・マリノスの本拠地に乗り込みながら、主体的なサッカーで攻め合い、0−0と引き分けていた。

「勝つか負けるかのプレッシャーのなか、『相手のよさを消して』という手堅い戦いをする傾向があるかもしれません。負ければクビになるかもしれず、無理もないでしょう。ただ、それでも強気に勝負に挑む姿勢は伝わります。マリノス、川崎(フロンターレ)は個の力も強く、パスワークも洗練されていますが、彼らを相手にした時も、『よさを消し、どうにか点をとる』のではなく、『攻めてトライする』というスタイルを押し通す必要があります。今日のように前からマンツーマンでつけば、やりづらさも感じるはずで、相手のよさを、自分たちのよさで上回れるか。そうすることで、Jリーグにもっと面白いゲームが増えるはずです」

 ペトロヴィッチ監督の何気ない言葉は、日本サッカーのさらなる発展に向け、ひとつのヒントだった。


北海道コンサドーレ札幌を率いて5シーズン目となるミハイロ・ペトロヴィッチ監督

<相手のよさを消す>

 それは戦術が突き詰められる現代、戦いの定石となっている。受け身で守備陣形を作り、相手が動かすボールを狙い、高い位置でパス回しを分断すれば、ゴールに直結する。効率を極めた戦法だ。

 一方でボールをつなげるほうは、危険と隣り合わせになる。攻めに出た格好でボールを失うと、受け身が取れない。カウンターの餌食になるのだ。

 論理的なだけに、Jリーグでもひとつの潮流になっている。しかし、「浪漫」は乏しい。

 札幌は横浜FMを相手にしても、攻めに出た。彼らのような規模のクラブが、攻撃重視で挑むことは、騎士道的と言える。サッカーに対し、武勇と気概を感じさせると言ったらいいだろうか。マンツーマンでアグレッシブに守り、ボールを奪い返した地点を攻めの出発点とし、長いボールをむやみに蹴り込まず、ボールを大事に攻め、守りのリスクを負う。果敢な戦い方だ。

「皆さんには鳥栖の試合をお勧めする」

 アウェーで川崎に5−2で敗れた試合も、最後は力尽きたものの、散り際の艶やかさがあった。

「マリノスはおそらくチャンピオンになるが、皆さんには(サガン)鳥栖の試合をお勧めする。とてもすばらしい戦いをしている。彼らはフェノメノ(驚異的なもの、非凡なもの)。ぜひ、鳥栖の戦いに注目してほしい」

 ペトロヴィッチ監督はそう言って笑みを洩らした。札幌と同じく、能動的な戦いを見せる鳥栖の姿勢にシンパシーを感じるのだろう。

 今シーズンから川井健太監督が率いる鳥栖は、上位を窺うほどの結果も収めている。予算規模を考えた場合、J2の上位クラブよりも劣るにもかかわらず、攻撃的スタイルを信奉し、選手も成長、進化を遂げつつある。どこを相手にしても堂々と撃ち合い、その苛烈さで「今シーズンのJ1最高殊勲賞」に値する。大げさに言えば、日本サッカーの希望だ。

 森保一監督が率いる日本代表が、なぜ人気低迷に喘いでいるのか。あらためて考えるべきだろう。日本サッカーに、人材がいないわけではない。

 たとえばスポルティング・リスボンのルーベン・アモリム監督は、攻撃的編成を組み、守田英正のフィジカル的な非力さよりも、ボールプレー能力を高く買い、ボランチで先発を与え、チャンピオンズリーグ(CL)で成果を出しつつある。セルティックのアンジェ・ポステコグルー監督も、同じくCLで、古橋亨梧、旗手怜央、前田大然の攻撃的才能を十全に引き出している。

 指揮官の決断によって、日本サッカーはまだまだ強くなるはずなのだ。

 横浜FMとのスコアレスドローで、札幌は11位と残留圏内にいる。しかし少しでも気を抜けば、降格圏に足を踏み入れる。結果を出さなければ、スペクタクルが成立しないのも、円熟の指揮官は承知しているだろう。

「(横浜FM戦は)お互いのスタイルを出す、攻め合う展開でした。決めきれませんでしたが、どちらも多くのチャンスを作りました。残留を考えれば、アウェーでマリノス相手に勝ち点1は満足できます」

 ペトロヴィッチ監督は抜け目がない。中央に絞って守備をする横浜FMを攻略するため、担当するサイドと違う利き足のウィングバックを配置し、カットインからのシュートなど絞り上げるように攻めた。戦術的に老獪だった。

「攻撃的に戦え!」

 そんな号令だけでは、スペクタクルは生まれない。ペトロヴィッチ監督の言葉と実践には、黄金の価値がある。