平時ならかなり前向きにとらえられる試合だろう。

 J1第30節、ジュビロ磐田はホームにセレッソ大阪を迎え、2−2で引き分けた。

 立ち上がりからC大阪にボールを握られる展開が続くなか、磐田は前半25分に先制点を許し、後半52分にも2点目を献上。抵抗らしい抵抗もできずに0−2とされたが、ここからが強かった。

「相手の重心が前にきたパワーに後手を踏んだ」

 C大阪の小菊昭雄監督がそう振り返ったように、相手ゴールへ向かう推進力が生まれた磐田は、ボールを失ってもすぐに奪回。連続攻撃でC大阪を自陣に閉じ込めた。

 次第に圧力を強めるなか、57分にMF金子翔太が1点を返すと、70分には右サイドからMF吉長真優が送った低く速いクロスが、相手DFに当たってゴールに転がり込んだ。

 電光石火の同点劇。

 それでも、磐田の勢いは止まらない。選手交代で流れを変えようと試みるC大阪を尻目に、猛攻をかけ続けた。

 88分には、途中出場のMF古川陽介がドリブルで左サイドを突破。古川のクロスを金子が落とし、同じく途中出場のDF松原后が右足シュートを放つと、ボールはクロスバーを叩いた。

 あわや逆転のひと振り。だが、磐田は勝ち越しゴールが奪えないまま、結局、試合終了の笛を聞くこととなった。


セレッソ大阪戦を2−2で引き分けたジュビロ磐田

 この試合、磐田には2点のビハインドを追いついたという結果だけでなく、内容的にも見るべきものがあったことは間違いない。常に相手ゴール方向へ向かって人とボールが動く攻守は力強く、迫力があった。

 とはいえ、磐田は現在、J1最下位の18位。これが次の試合につながるなどと悠長なことを言っていられない現状が、その一方にはある。

 勝ち点3をとらなければいけない試合で、勝ち点1しかとれなかった。その現実はあまりに重い。

 反撃のゴールを決めた金子が語る。

「勝ち点3以外はないという状況。追いついたドローだが、満足した選手は誰ひとりいない。首の皮一枚でギリギリつながっている状況での勝ち点1は悔しい」

 今季の磐田は伊藤彰監督を迎え、新たなスタイルの確立にとり組むも下位に低迷。シーズン終盤、ついに伊藤監督を解任し、渋谷洋樹コーチを監督に昇格させたが、この荒療治も起爆剤とはなり得ていない。渋谷監督が指揮を執って以降の4試合も、2敗2分けの未勝利という状態が続いている。

 特に気になるのは、失点が多いことに加え、その時間が早いことだ。

 この日のC大阪戦も含めた直近のリーグ戦6試合は、そのすべてで前半に失点をし、うち5試合は前半なかばまでの時間帯に失点している。

「守備において(前から行かずに)相手を受け入れて、(C大阪を)少し楽にプレーさせてしまった。それが2失点につながった」(渋谷監督)

「心理的にも『失点しないように』となってしまう。『立ち上がりからアグレッシブに』という気持ちはあるが、試合が始まると、ズルズル下がってしまって耐える時間が続いてしまう」(金子)

 C大阪戦後のコメントからも、早い時間の失点が続いていることで悪循環を引き起こしている様子がうかがえる。

 結局、相手に2発殴られてから目を覚ますのだが、時すでに遅し。後半の反撃にしても、「0−2というスコアのなかでは割りきるしかない。自分たちの内容がよかったとか、アグレッシブにいけたとかじゃなく、スコアがそうさせた」と、金子は振り返る。

 同じような試合展開は、J1第28節柏レイソル戦でも見られた。

 前半のうちに0−2とされ、後半に2点を返して引き分けたが、「そのパワーを立ち上がりから使いたいと思っている」とは、金子の弁だ。

 ケガから復帰し、久しぶりの出場となったMF山田大記も、「松原の惜しいシュートがあったが、あれが入っていればの"タラレバ"ではなく、あの回数を増やしていかないと勝ち点3をとれない」と、歯がゆさを口にする。

 これで磐田に残された試合は、あと5試合となった。

 J1残留圏内となる15位とは勝ち点差7。J1参入プレーオフに回る16位とでさえ、勝ち点差6と開いている。逆転残留のためには、「残りの試合数を考えても、3勝、4勝は必ず必要」(金子)というのが現状だ。数字上の可能性はともかく、現実的に考えれば、それは非常に困難なタスクであると言わざるを得ない。

 これから先、磐田の選手たちは、相当な精神的重圧のなかでの戦いを強いられることになるはずだ。

 しかしながら、プレッシャーをはね返す気持ちは大事だが、おそらくそれだけでは目の前の問題は解決されない。「精神論だけではなく、練習で戦術的な課題を解消して、チーム力を積み上げる」(山田)ことが何より必要なのだろう。山田が続ける。

「一番大切なのは、やるべきことをはっきりすること。頭の整理をすることが精神的にも安定することにつながる。今日はこれをやるとはっきりすれば、試合で不安なくプレーできる」

 この日、磐田が見せた怒涛の反撃は、これから起こる奇跡の予兆なのだろうか。

 崖っぷちに立つ磐田に残された猶予はあとわずか。無情のカウントダウンが進んでいる。