ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 秋競馬開幕とともに注目のトライアルが次々に行なわれ、近づくGIシーズンへの高ぶりを感じています。

 今週は3歳牡馬、牝馬の、最後の一冠に向けた重要なトライアルが東西で行なわれます。春のクラシックで好走した馬が秋初戦でどんな走りを見せるのか。一方で、夏の上がり馬がそれらを相手にどこまで食い込めるのか。そういった争いを見るのがとても楽しみでなりません。

 関東では牡馬三冠の最終戦、GI菊花賞(10月23日/阪神・芝3000m)の前哨戦となるGIIセントライト記念(9月19日/中山・芝2200m)が行なわれます。

 僕が現役だった頃、セントライト記念では2004年にトゥルーリーズンという上がり馬に騎乗して、3着に入ったのが最高でした。1勝クラス(当時は500万下)を勝っただけの実績しかなくて、9番人気と低評価でしたが、夏場に使ってきた強みを生かして、ダービー組を相手にクビ差、クビ差の接戦に持ち込むことができました。

 その際、期待以上の好走ができたことで、上がり馬でも通用可能なレースであることを実感したのを覚えています。

 その時の経験から、僕はこのレースでは毎回、夏を境に力をつけてきたであろう馬(春にはまだ完成度が低かった馬)に注目して見るようにしています。ダービー上位組が出走してくれば、それとの比較でおおよその勢力図も把握することができますからね。

 さて、今年はGI日本ダービー(5月29日/東京・芝2400m)3着のアスクビクターモア(牡3歳)が出走します。同レースの1、2着馬がそれぞれ凱旋門賞、天皇賞・秋へと向かうため、実績的には暫定的にこの馬が世代最上位と言えます。

 実際、そのダービーでも残り1ハロン時点では先頭を走っており、GI皐月賞(5着。4月17日/中山・芝2000m)で先着を許したダノンベルーガ(皐月賞4着、ダービー4着)、ジオグリフ(皐月賞1着、ダービー7着)を封じたことは評価に値します。

 もともと中山向きの機動力を備えていて、距離も守備範囲。ならば、軸馬としては最適な存在と言えるでしょう。

 脚質的にも、ここまでの戦績的にも、昨年の菊花賞を制したタイトルホルダーによく似ています。同馬はセントライト記念こそ苦杯をなめましたが、その後は一気に現役トップクラスへと飛躍。アスクビクターモアもタイトルホルダーのように、この秋には大きな飛躍を遂げる可能性があると見ています。

 手綱をとるのは、ベテランの域に入ってきている田辺裕信騎手。この馬がブレイクするかどうかが、今後の彼の騎手人生におけるターニングポイントにもなってきそうな気がしています。その分、田辺騎手自身、士気は高まっているはずです。

 大局的には、このアスクビクターモアを巡る争いという見立てです。ただ、相手の絞り込みに関しては、初顔合わせの馬が多く、能力比較は容易ではありません。

 ですが、そういう意味では、馬券的な妙味は増しそうです。

 そこで、まずは展開面を見ていきましょう。先行馬がそろっていますが、絶対にハナじゃなきゃダメという馬はいません。

 アスクビクターモアも次の菊花賞のことを考えたら、好位で折り合いを重視して運びたいはず。上がり馬として注目を集めるガイアフォース(牡3歳)にしても、ローシャムパーク(牡3歳)にしても、そこまで出脚が速い馬ではなく、どちらも好位でジワッと運んで、勝負どころで押し上げてくる馬です。

 前走で逃げきり勝ちを決めたマテンロウスカイ(牡3歳)も、最初から逃げたかったというよりは、他に誰もこないので、1枠1番という好枠を生かしてそのまま逃げた、というレースに見えました。それまでは差す競馬をしていますし、前走はたまたま逃げきったと考えたほうがいいでしょう。


セントライト記念でハナを主張しそうなショウナンマグマ

 そうしたなか、ハナを主張するとしたら、ショウナンマグマ(牡3歳)ではないでしょうか。1勝クラスを勝った時が逃げきり。前走のGIIIラジオNIKKEI賞でも逃げて2着と好走しました。

 現状、ハナをきることが好結果につながっており、今回は積極的な騎乗が売りの横山武史騎手が手綱をとることからも、同馬が逃げる可能性が大きいと思います。つまり、展開的にはショウナンマグマを先頭に、先に触れた有力な先行勢がそれに続く形と見ています。

 それだけ前に行く馬が多い組み合わせだと、「ハイペースになりそう」と思われるかもしれませんが、前述したとおり、今年のメンバーはテンに速い馬がそろっているわけではありません。誰かが行けば、番手につけたいという馬が多いので、実はそこまでペースは上がらないと考えています。

 先週のGIII紫苑Sでは、結果としてスローペースのまま、逃げ馬と番手の馬によるワンツー決着となりました。馬場が良好であることを踏まえても、今週も逃げ馬、前に行く馬が有利な状況は続くでしょう。

 セントライト記念では、おそらく多くの馬が2〜3番手で流れに乗るアスクビクターモアをマークする形になると思われます。そうなると、アスクビクターモアが慎重に運べば運ぶほど、その前を行くショウナンマグマに粘り込みのチャンスが巡ってきそう。

 ということで、今回は逃げ粘りが見込めるショウナンマグマを「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。