風間八宏「久々に本当の天才が出てきた」。バルセロナ・ペドリのすごさは「眼の特殊能力にある」
第14回:ペドリ(バルセロナ/スペイン)
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、国内外のトップクラスの選手のテクニック、戦術を深く解説。今回は、カタールW杯で日本のやっかいな相手になるであろう、スペイン代表&バルセロナのペドリを取り上げる。まだ19歳ながら、観客を魅了するプレーで活躍している彼のすごい部分を分析してもらった。
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特殊な眼の能力を持った天然素材今シーズンから、かつてアンドレス・イニエスタが長年背負った背番号8番を受け継ぎ、シャビ・エルナンデス監督率いるバルセロナで抜群の存在感を示しているペドリ。彼がバルセロナに加入したのは、今から2年前の2020−21シーズンのことだった。
バルセロナで活躍する、19歳のペドリ
当時17歳だったにもかかわらず、即レギュラーの座を奪うと、4−3−3のインテリオールとしてリーグ戦37試合に出場し、シーズンフル稼働。ペドリの名は、あっという間にヨーロッパ全土に知れ渡った。
すると、翌2021年3月には18歳でスペイン代表デビューを飾り、ルイス・エンリケ監督率いるチームの主軸として同年夏に開催されたユーロ2020にレギュラーMFとして出場。さらにその直後には東京五輪にも出場し、準優勝の原動力になったことは記憶に新しい。
観る者をワクワクさせる数少ない選手。アスリート能力が以前よりも圧倒的に重要視されるようになった現代サッカーにおいて、決して体格に恵まれていないペドリは、ある意味で"アンチ現代サッカー"とも言える稀有な存在だ。
なぜペドリは観る者を魅了できるのか。独自の視点を持つ風間八宏氏が、その特長と魅力を語ってくれた。
「ペドリのプレーを見ていると、まず大前提として、目の前の相手に対して抜群の強さがあるのがよくわかります。技術の正確性という部分ではまだブレることがありますが、とにかく相手の動きを含めていろいろなものが見えているから、敵を弄んでいるかのようなプレーができる。
要するに、"技術"主導というよりも、"眼"主導でこのレベルに成長した選手ということです。普通の選手は、技術が備わってから眼が育っていきますが、ペドリはその逆。もし彼の眼の能力を科学的に分析したら、おそらく動体視力や映像記憶能力など、いろいろな特殊能力を持っていると判明するのではないでしょうか。
こういう選手は指導して育てられるものではありません。ストリートサッカーの匂いを感じさせる、まさに天然素材ですね」
まだ目の前の相手だけと勝負しているペドリが生まれたのは、アフリカ大陸の西にあるカナリア諸島のテネリフェ島。幼少期から特別な才能を誇っていたペドリは、後にグラン・カナリア島のラス・パルマスのカンテラ(育成組織)に入団。16歳でプロ契約をかわし、即トップチームに抜てきされた。
ペドリのプレーの原点は、やはりカナリア諸島で過ごした少年時代にあるのだろうか。
「たぶん、小さい頃から相手に参った、と言わせたい選手だったのでしょう(笑)。
ペドリのゴールシーンを見ても、次々と相手の逆を突き、最後まで揺さぶり倒して、さらに最後もGKの逆をとってネットを揺らします。普通の選手なら、ゴール前でチャンスがあれば、まずはシュートを狙ってみるものですが、ペドリはそうしません。
様々な情報が眼から入ってくるので、相手の動きを読みきって、シュートコースがなければ無理して狙わず、相手を揺さぶりながらシュートコースを作って確実に射止めることができる。本当のテクニシャンであり、天才だと思います」
そんな特別な才能の持ち主であるペドリはまだ19歳だ。果たして、これからどのような選手になっていくのか。風間氏がその無限の可能性を分析してくれた。
「たとえば、同じバルセロナにはガビという優秀な若手がいますが、わかりやすく言えば、ガビは育てられた選手。しかし、ペドリは持って生まれた才能がベースになっている選手なので、これからもっともっと成長していくはずです。
タイプは異なりますが、デビューしたばかりの頃のメッシもそうでした。当初は目の前の相手を次々とかわすドリブルと決定力が武器でしたが、20代になってからは技術の正確性が無比になり、それによって試合全体を動かせる選手に成長していきました。つまり、眼から技術の正確性というプロセスによって、誰も到達できないレベルの選手になった。
ペドリも同じ可能性を秘めていると思います。現在はまだ目の前の相手だけと勝負しているので、局地的に相手を動かすことにとどまっていますが、もっと技術が正確になって、見る範囲も広くなっていけば、当然のように、バルセロナでも代表でも試合全体を動かせる中心選手になっていくはずです。
しかも、バルセロナの監督はシャビですから楽しみです。シャビも同じように眼の能力が傑出した天才MFだったので、ペドリがどのようなタイプか十分に理解しているはず。最近はシャビやイニエスタのようなスペイン人選手がいなくなったと思っていましたが、久しぶりに指導しても育てられない選手が出てきたと感じます。
確かに現段階では未完成かもしれませんが、将来が約束された数少ない選手ですね。この時代に、見て楽しいと思わせてくれる選手は貴重です」
日本はペドリに振り回されても諦めるケガもなく順調にいけば、今年11月のカタールW杯で日本代表はペドリと対戦することになる。果たして、日本はペドリをどのようにして抑えればいいのか。
「先ほども言いましたが、ペドリは局地的に相手を動かすことはできますが、まだチームの中心として試合を動かす存在にはなっていません。
W杯のような大舞台でも、おそらくペドリは自分のスタイルを貫いて相手を弄ぶようなプレーをすると思います。そういう意味では、日本としては多少ペドリに振り回されても、ある程度そこは諦めて、あくまでも試合全体を考えるべきでしょう。
いちばん怖いのは、ペドリに遊ばれている間に、他の大事なポイントを見失ってしまうこと。スペイン代表には、他にも試合を決める選手がたくさんいますから、誰を止めるのが最も効果的かを見極めておく必要があります。
もちろん、もしW杯までにペドリが試合を動かせるレベルに進化していたら話は別です。現在のペドリの成長速度からすると、十分にその可能性もあると思います」
彗星の如く現れたスペインの至宝は、カタールの地でどのようなプレーを披露して世界中のサッカーファンを魅了してくれるのか。末恐ろしい天才が、また現れた。
ペドリ
Pedro Gonzalez Lopez/2002年11月25日生まれ。スペインのテネリフェ島テグエステ出身。地元のクラブから隣島のグラン・カナリア島のラス・パルマスの育成組織に入り、1年後に16歳でプロ契約しトップチームデビュー。さらにその1年後にはバルセロナに引き抜かれると、すぐにレギュラーに定着し、2021年3月にはスペイン代表デビューも果たし、東京五輪にも出場した。2021−22シーズンは前シーズンのフル稼働の影響かケガによる離脱が多くなってしまったが、今シーズンはカタールW杯も含め活躍が期待されている。
風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。