ボストン・レッドソックスは9月11日(現地時間:以下同)、澤村拓一を自由契約にすると発表。地元紙『ボストン・ヘラルド』は「澤村は(球団から)退団が認められ、フリーエージェントになった」と報じた。


レッドソックスを自由契約となった澤村。獲得に動く球団はあるのか

 8月28日にDFA(メジャー出場の前提となる40人枠から外された)となった澤村は、ウェーバー公示で獲得を希望する球団がなかったため、31日にレッドソックス傘下3A級ウースターに「アウトライト」(マイナー降格)された。『MLB.com』の説明によれば、「サービスタイム(メジャー登録日数)が3年以上、または過去に『アウトライト』された選手は、マイナー降格を拒否してフリーエージェントになる資格を有す」とある。澤村はいずれにも該当しないため、マイナーでメジャー昇格機会を待つことになっていた。

 ところが、レッドソックスでのメジャー復帰、あるいはマイナーのまま今季を終えるかと考えられていた澤村は、マイナーでわずか1試合に登板しただけで自由契約となった。地元スポーツメディア『マス・ライブ』のクリス・コティーヨ記者によれば「澤村は他で(メジャー出場)機会を求めるため、レッドソックスに自分を自由契約にするように要求し、球団がそれを認めた」という。澤村側からの申し出を球団が認めるという異例の処置に驚き、地元スポーツメディア『NESN』は、「ボストン・レッドソックスは、日曜日(9月11日)にやや驚くべき動きをした」と報じている。

 澤村はレッドソックスでの2年間で104試合に登板し、6勝2敗13ホールドをマーク。チーム内で着実にリリーフ投手としての地位を築いていた。取材したレッドソックス専門メディア『ビヨンド・ザ・モンスター』のクリス・エンリケ記者は澤村について、「典型的なリリーフ投手で特に目立ったものはなかったが、澤村は三振が必要な場面で起用されるなど、大いに貢献していた」と振り返る。

澤村は「スケープゴートにされた」

 しかし、今季の澤村は安定性に欠けており、エンリケ記者も「澤村の9イニングあたりの奪三振数は、昨季の10.4から7.1に減少していた」と指摘。また、レッドソックス本拠地のフェンウェイ・パークでの防御率の悪さ(5点台)を挙げ、「彼は(昨季)いい仕事をしていたと思うが、今季はあまりに不安定な時期が多かった」という。実際、澤村はDFAを受けた当日の28日も、本拠地でのタンパベイ・レイズ戦に2番手として登板したが、1回を投げて4安打2四球3失点と乱調だった。

 澤村がDFAされたことについて「正しい動きだったと思う」とエンリケ記者は言うが、同時に「澤村は決して悪い投手ではない」とも強調する。

「澤村はレッドソックスが現在ロースターに抱える1、2人の投手よりはいいオプションだと思う。総合的に考えてみると、彼はいいピースだったと言えます。

 ただ、チームは澤村を『長期的に見て負債になる』と感じていたのだろう。また、レッドソックスは彼に依存しすぎていたのかもしれない。それは結局、レッドソックスがうまくブルペン陣を構築できなかったという話にも帰結します」

 今季、レッドソックスはブルペン陣が崩壊している。チーム防御率は9月13日現在、4.48でMLB全体24位だ。この"投壊"でレッドソックスはア・リーグ東地区5位に沈み、ワイルドカードまで10ゲーム差と、崖っぷち状態。このことから、澤村のDFAは球団にとって必要な変化で、「ブルペン全体の成績が悪かったことのスケープゴートにされたと私は思っています」とエンリケ記者は言う。
 
 シーズン終了まで20数試合というなかで、澤村に移籍のチャンスはあるのか。同記者は「澤村の存在価値はある」と述べ、今後もメジャーでプレーできる可能性を指摘。ボストンというビッグマーケットで2年プレーしていたことと、ポストシーズン(3試合)での登板経験を理由に挙げた。さらに同記者は、他球団で四球を減らすことができれば、復活の公算は大きいとも言う。前述の通りウェーバー公示では澤村の獲得を希望する球団はなかったが、これらの実績から、今後メジャー球団からのオファーを受ける可能性はありそうだ。

獲得候補はメッツ、ドジャース、エンゼルスも?

 実際、潜在的な移籍先候補はすでにいくつかある。例えば、ニューヨーク・メッツがそのうちのひとつだ。メッツ専門メディア『ライジング・アップル』は今夏のトレード期間中の獲得候補のひとりに澤村の名前を挙げ、「澤村は優れたスプリットを持ち、左打者は彼との対決を制するのが困難な選手だ」と述べている。トレード期間中での獲得は実現しなかったが、候補に挙げられるほどニューヨークでも高く評価されているようだ。

 また、澤村がDFAとなった直後の8月30日には、野球専門メディア『ファンサイデッド』で「ロサンゼルス・ドジャースは、最近放出されたレッドソックスのリリーフ投手にチャンスを与えることができるだろうか?」という記事が掲載され、ドジャースならばフィットすると予想も出ている。前出のエンリケ記者も「ドジャースは、ぴったりだと思う」とこの意見に賛同した。

 これら2チームは、ともにポストシーズン進出がほぼ確実となっている強豪。澤村は8月31日までに40人枠ロースター入りしていないため、いずれに移籍したとしてもポストシーズンで投げることはできない。それでも、昨季ポストシーズンでの登板経験があり、シーズン終盤のプレッシャーがかかる場面でも起用できると考えれば、澤村の獲得に動いても不思議ではない。

 他にもインターネット上では、大谷翔平が所属するロサンゼルス・エンゼルスへの移籍を希望する声も上がっている。エンゼルスといえば、ブルペン陣の弱さが長年の課題となっているのは有名な話。また、今夏は守護神のライセル・イグレシアスをアトランタ・ブレーブスにトレードで放出し、ジミー・ハーゲットやホセ・キハダをクローザーに起用するなど、今季もブルペンのやりくりに苦労している。

 澤村は7月と8月こそ月間防御率はそれぞれ4.60(7月)、4.66(8月)と悪化していたが、49試合の防御率は3.73で、エンゼルスのアーロン・ループ(55試合で防御率3.96)、ライアン・テペラ(50試合で防御率3.58)に近い数字だ。WHIP(投球回あたりの与四球・被安打数の合計で、1.40より数字が低いほうがいいとされる数値)は澤村が1.42で、ループの1.30やテペラの1.03に比べると見劣りはするが、エンゼルスに加入すればブルペン陣の層は確実に厚くなる。(いずれも9月13日現在の成績)

 さらにフィラデルフィア・フィリーズのSNS公式アカウントに「澤村の獲得を検討すべき。彼は現在FAでメジャーでもいい数字を残している」と勧める声が出るなど、メジャーでの需要はまだまだ高そうだ。

 前出のエンリケ記者は最後に、澤村に次のエールを送った。

「レッドソックス時代の彼は決して悪い選手ではありませんでした。今季は厳しい1年でしたが、メジャーリーグで投げることができることを証明しています。だから私は澤村がボストン以外で成功するのを見たいと思っています」

 金銭的理由や、ブルペン陣のテコ入れなどが理由でレッドソックスからDFAを受け、自ら退団(自由契約)を申し出た澤村。シーズン終盤というタイミングではあるが、果たして再びメジャーのマウンドで投球する姿が見られるだろうか。今後の動向に注目だ。