中村憲剛×佐藤寿人
第12回「日本サッカー向上委員会」@中編

 1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。気の置けない関係だから、彼らが交わすトークは本音ばかりだ。ならば、ふたりに日本サッカーについて語り合ってもらえれば、もっといい未来が見えてくるのではないか。飾らない言葉が飛び交う「日本サッカー向上委員会」、第12回はふたりがピッチの外からどのようにサッカーを観ているのか、プロならではの視点について語ってもらった。

◆第12回@前編はこちら>>「プロはどのような視点でサッカーの試合を観ているのか?」

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佐藤寿人氏が解説者になって感じたこととは?

---- 現在はおふたりとも解説者としても活躍されていますが、現役時代とサッカーの観方は変わってきましたか?

佐藤 僕は変わりましたね。現役の時はストライカーばかり観ていましたから。解説者になって思うのは、守備のところの観方が難しいな、ということ。全体を観ていなかった分、今はいろんなものが学べているのかなと思います。

中村 僕の場合は、根本的には変わってないです。ただ、自分がピッチに立っていないので、中の肌感覚が少しずつわからなくなっています。正確なチーム状態を計りかねてしまうところが難しいです、当たり前なんですけど。

 ただ、そこがわからないからこそ、解説をやる時にスターティングメンバー発表から開始5分のところまでを観て、このゲームにおいてその週に何を準備してきたかを読み解くのが楽しいですね。いつもどおりのスタンスなのか、今までとやることを変えてきたのか。相手のストロングを消すために守備の枚数を変えてきたのか。

 スタメンを見るとだいたいわかるんですけど、最近はメンバー表のポジションをあえて変えてくるチームもあるので、実際に試合が始まって並んでみないとわからないことも多いです。でも、だいたい5分くらい観ると、こういう準備をしてきたんだなとなんとなく読み取ることができるので、毎回それは楽しいです。

佐藤 前半戦の鹿島と広島の試合を解説したんですけど、広島のスターティングメンバーを見たら、最終ラインが4枚か3枚か、どっちなのかわからなかったんですよ。でも、ウォーミングアップを観ていたら、塩谷司がボランチの位置でポゼッションの練習をしていたので、これは4バックだなと。

 でも、フタを開けてみたら、塩谷が最終ラインに入って3バックだったんです。解説側としてもだまされたなと思いましたし、鹿島のベンチでも、その時はコーチだった岩政(大樹)が慌てて「3枚、3枚」って指示を出していたんです。ミヒャエル・スキッベ監督がウォーミングアップから駆け引きしていたんですね。

 解説者としてだまされた形となりましたが、鹿島も立ち上がりからバタつきましたから。広島が3−0で勝ったんですけど、試合前から勝つための策を打ってきたスキッベ監督の戦略にはうならされましたよ。

中村 俺は現役の時、相手のウォーミングアップを観て、システムや選手の並びを確認してたよ(笑)?

佐藤 マジですか。そんな人いないですよ(笑)。

中村 いないかな? チームによってはシュート練習の時に左右に分かれるので、その選手がサイドバックか、サイドハーフかという見当がつくじゃないですか。

 ハーフウェーライン付近からロングボールを蹴る選手がセンターバック。その人数が2人なのか、3人なのか。2人だったら4バックだし、3人だったら3バックだなって。つまり、スキッベ監督は相手に観察する人がいるかもしれないから、ウォーミングアップでだましたわけね。やるなぁ。

佐藤 やりますけど、普通、相手のウォーミングアップを観る選手なんていないですよ。

中村 いないの?

佐藤 絶対いないです。そこまで懐疑的になれないですよ。

中村 フロンターレに対してやることを変えてくるチームが多かったから、どうしても懐疑的になっちゃうよね。だから現役の時から、最初の5分は相手のやり方を推し量っていましたよ。

佐藤 配置がちょっとわかりづらいなという時は、ベンチからの指示を待ちますよ。

中村 その指示が遅れて失点するのが嫌だから、自分でも把握したかったのよ。

---- 試合を観るうえで、システムを理解することは重要ですか?

中村 観やすくなるし、面白くなりますよね。

佐藤 憲剛くんも言っていましたけど、どこにスペースが生まれやすいとか、どういう狙いを持ってゲームに入っているのか、ということをイメージできると思います。

 そのイメージを持ちながらゲームを見てもらって、そのとおりになれば面白いし、可変で人を動かしてくるチームもいるので、その狙いを紐解こうと思って見るうえでも、システムはわかりやすいポイント。頭を使いながら試合を観戦すると、さらにサッカーが面白くなると思います。

中村 システムには必ず強みと弱みがあって、その強みをどこまで出そうとしているのか。それに対して、もう一方のチームも強みを出そうとするのか。逆に弱みを突こうとしているのか。人の配置や数によってチームの狙いは変わってくるので、システムは大事だと思います。

 風間(八宏/2012年〜2016年@川崎フロンターレ監督、2017年〜2019年@名古屋グランパス監督)さんはシステムだけでモノを見るな、という方でした。正確な技術と状況をしっかり観られる目があれば、相手のシステムは関係なくなる。むしろ相手がこちらに合わせてくると。

 だから、1番大事なことは、相手のシステムが3バックでも4バックでも、それを受けて自分たちがどう勝ちに持っていくかを考えてプレーすることだと思います。

佐藤 ピッチ上で起きていることを選手が正しく判断して、正しい技術でしっかりとやれたら主導権を握れるという考え方でしたからね。

中村 個を成長させて、選手の成長がチームの総和になるという発想だね。組織が先ではないという考え方だったし、僕自身もその影響は受けています。ただ、4枚なのか3枚なのかで、間違いなく戦い方は変わってきますよ。

佐藤 埋められるエリアも変われば、出ていく空間も変わってきますからね。

中村 それだけで主導権争いに差が出ますね。

佐藤 僕はシステムもそうだけど、前線にどういう選手を置くかにも注目しています。攻撃の終着点をどういうふうに作るんだろうというのは、いつも気になるポイントですね。

 スターティングメンバーを見て、前線が2枚なのか、1トップ2シャドーなのか、それとも3トップなのか。そこにどういうタイプの選手を配置するのかというところを一番観ています。やっぱり点を取るのが一番の目的ですし、その目的がわかりやすいチームもあれば、そこがぼけているチームもある。そのポイントは現役時代から気にしていましたし、解説者になってからもそこは意識して観ていますね。

中村 どうやって勝つのかが見えることが大事ですよ。コンセプトだったり、4局面(攻撃、攻撃→守備、守備、守備→攻撃)とよく言いますけど、そういうところの色がはっきりしているチームは、やっぱり勝つ確率が高くなるかなと。逆にそれが見えにくいチームは、何をやりたいかがなかなか伝わってこないですし、自ずと勝つ可能性は低くなると思います。

佐藤 選手交代でもありますよね。この交代にどういう意図があるかを紐解くことができると言語化しやすいですけど、そこにクエスチョンマークがつくと、コメントしづらいですね。

中村 黙って考える時間を作る(苦笑)。

佐藤 でも、黙る時にかぎって振られる(笑)。

中村 実況の方も知りたいから聞くしね。

佐藤 「どういう狙いですか?」と聞かれても、こっちもわからない(笑)。

---- 代えられた選手に対する印象を聞かれると困りませんか?

佐藤 いいプレーをした選手ならいいですけどね。さすがにダメだったとは言えないですから(笑)。

中村 選手自身もダメだったことはわかっているでしょうから。さらにそこでそういう言い方をすることは、自分も選手だったのでできるだけ控えるようにはしています。解説する時は基本的にはほめてあげたい、いいところを拾いたいという想いは、常に持って臨んでいます。

佐藤 さすがに気持ちが見えなかったり、緩慢な部分があったりすると言及しないといけないですけど、技術的なミスはしょうがない。選手もミスをしようとして、ミスしているわけではないので。

中村 そういう時は、意図や狙いを解説することでフォローできればいいのかなと。現役をやっていた分、どういう解説をしてほしいかはわかっています。

◆第12回@後編につづく>>「無観客の試合を経験したら、感謝の想いはより強くなった」


【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに入団。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグ最優秀選手賞を受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。

佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。