森保ジャパンの序列に「大きな変化があるのではないか」。欧州サッカー日本人選手の出来に明暗で福田正博が指摘
■開幕数試合を終えた欧州各国リーグで、日本人選手たちのパフォーマンスに明暗が出ている。これで、カタールW杯を戦う日本代表の序列に変化が出てくるだろうか? 福田正博氏は活躍する選手が多くいる状況を歓迎しつつ、「森保一監督は大きな変化を取り入れるのではないか」と見ている。
センターバック陣に不安要素日本代表の主力を務める海外組が、欧州で開幕した2022−23シーズンで明暗分かれたパフォーマンスになっている。
プレミアリーグでは交代出場が続く冨安健洋。ここから状態を上げてくるか
不安なのは最終ラインだ。日本代表の不動のセンターバック(CB)でキャプテンの吉田麻也は、昨季まで在籍したセリエAのサンプドリアに別れを告げ、今季からブンデスリーガのシャルケに加入した。しかし、パフォーマンスが上がっていないように映る。
スタメンの座は手にしているが、8月27日のウニオン・ベルリン戦は6失点の大敗。無論、吉田ひとりの責任ではないのだが、失点シーン以外のところも含めて、開幕からの試合を追いかけていると吉田のプレーには心配になるシーンが見受けられるのだ。
とりわけ気になるのが、スピードへの対応力だ。もともとすごいスピードがあるわけではないので、これまで周りの味方を上手に使いながら対応してきた。だが、新加入チームでキャプテンを任されている今季は、そこが噛み合っていないだけに気になってしまう。
カタールW杯のグループリーグで対戦するドイツ、コスタリカ、スペインは、前線にスピード豊かなタイプが揃っているだけに、日本代表の森保監督は対応を考えなければいけないところだろう。
吉田が現状のままの状態なら、開幕から好調だった板倉滉が取って代わるのではと思われたが、ここにきてヒザのケガで戦列を離れてしまった。
板倉は今季目覚ましい成長を遂げていた。昨季はブンデスリーガ2部だったシャルケで奮闘して1部昇格の原動力になると、今シーズンからは同じブンデスリーガのボルシアMGにステップアップした。
チームのレベルが上がり、チームメイトのクオリティが高まっても、しっかりCBのレギュラーの座を獲得。スピードに対応でき、1対1に強く、パスは視野も広くて精度も高い。抜群のパフォーマンスを発揮していた。
それだけに、本人としては悔しいところだろう。日本代表にとっても痛いところだが、もちろん、経験豊富な吉田のコンディションが上がり、本来のパフォーマンスを発揮してくれるに優るものはない。直近のボーフム戦では今季リーグ戦初勝利。ここから状態が上向きになることを期待している。
躍動する東京五輪世代もうひとりのCB冨安健洋。昨夏はアーセナルに加入してすばらしい活躍をしたが、その代償というわけではないだろうが、度重なる足の故障に苦しんだ。
アーセナルが今季開幕から好調なこともあって、冨安も足の状態を見ながらプレータイムを限定して大事に使われるスタートだった。
9月8日のヨーロッパリーグではついにフル出場。ただ、負荷と疲労が蓄積されたなかで強度の高いプレーを続けることへの不安感はまだぬぐえない。
それだけに他の選手たちも含め、CB陣の各所属チームでの今後のパフォーマンスは、日本代表にとって大きなポイントになるだろう。
攻撃陣のところでは、森保監督は大きな変化を取り入れるのではないかと思う。というのも、東京五輪世代がそれぞれの所属クラブで新シーズンに躍動する姿がすばらしいからだ。
久保建英は、ボールを保持しながら戦うことに長けたレアル・ソシエダに移り、彼の持つテクニックやスキルが生かせるようになっている。堂安律もブンデスリーガのフライブルクに移り、持ち前のゴールに向かう迫力を発揮できている。
三笘薫(ブライトン)もプレミアリーグでドリブルからの切り崩しで存在感を示している。旗手怜央(セルティック)はチャンピオンズリーグでレアル・マドリードというレベルの高い相手に対しても通用するところを見せてくれた。
東京五輪は開催が1年延期になって、その間に急成長した三笘薫や旗手怜央が五輪代表のチーム構成に大きな変化をもたらして主力となった。ワールドカップでも同じことが起きる可能性は十分にある。
ワールドカップも例年なら6月開催だが、今回は11月下旬からの開催。この3カ月ほど生まれた時間によって、東京五輪の時と同じように急成長している選手の勢いを、森保監督はしっかり日本代表に取り込むのではないか。それくらい東京五輪世代がいい状態にあるのだ。
理由のもうひとつには、南野拓実の所属クラブでのパフォーマンスがある。新天地モナコ(フランス)で結果が出ないことで、出場機会が減りつつあるのだ。
ワールドカップに向けてコンディションを高めるためには出場機会は多いほうがいいだけに、南野もリバプールから出たのだと思う。だが、現状のパフォーマンスが続くようだと、コンディション面や試合勘のところを考慮され、日本代表でほかの選手を起用する決断を下されても仕方がないだろう。
なぜなら、今回のワールドカップはシーズンを中断して開催されるため、これまでなら取れた大会前1カ月ほどの準備期間がないからだ。シーズン中断前の試合が終わってから1週間ほどで開幕を迎えるだけに、所属チームで試合に出ながらコンディションを高いところで保つ重要度は無視できない。
伊東純也の1トップだってある同じくフランスのランスに移籍した伊東純也は、本来の右サイドアタッカーではなく、2トップの一角で起用されながら結果を出している。伊東が右サイドアタッカー以外のところでもプレーできるのを証明したことは、日本代表に大きな変化を加えやすくなったと言える。
さまざまな選手を試したが、結局のところ日本代表は大迫勇也(ヴィッセル神戸)のコンディション待ちの状態にある1トップの問題を解消できていない。そこで、伊東を1トップに据える手があってもいいだろう。
もうひとりの候補である古橋亨梧(セルティック)の場合、彼のスピードを生かした動き出しを生かすにはパサーが必要だ。だが、伊東はスピードのあるドリブルという、個で打開できる武器がある。
いずれにしろ、これまで主軸として日本代表を支えた南野や大迫の状態によるが、ここから本番までの限られた時間のなかで、選択肢が増えたのは日本代表にとっては歓迎すべきことだ。
過去のワールドカップを振り返れば、大会直前になってチームにメスを入れたケースはある。2010年南アフリカW杯での岡田武史監督は、中村俊輔を控えに回す決断を下して守備的に臨み、決勝トーナメント進出を手にした。
前回の2018年ロシアW杯でも、大会直前にヴァイッド・ハリルホジッチ監督を解任し、経験のあるベテラン選手たちが生きるチーム構成にしたことでベスト16まで勝ち進んでいる。
今回について言えば、日本代表を新たに突き上げている選手たちも、森保監督がこれまで招集を続けてきた選手たちだ。それだけに、誰がどんな布陣で使われても、ピッチ上の連携面の不安は小さいメリットがある。
ドイツやスペインという、一筋縄でいかない相手が待ち構えるグループリーグに臨むため、ここから森保監督がどんな決断を下すのか。まずはワールドカップ前に行なわれる最後の国際親善試合、9月23日のアメリカ戦、9月27日のエクアドル戦を注視したい。