今夏の甲子園で、もっとも衝撃的なパフォーマンスを見せた打者といえば浅野翔吾(高松商)だろう。広い甲子園球場の右中間最深部、左翼、バックスクリーンと3方向に放り込んでみせた。身長171センチ、体重86キロとずんぐりした体型ながら、パワーだけでなく50メートル走5秒9のスピードも兼ね備える。

 高松出身選手としては、中西太(元西鉄)以来の大物と目される「讃岐の怪童」。当然、今秋のドラフト会議でも上位指名候補に挙がるが、浅野を狙う球団はどこだろうか。各球団のチーム状況を整理しながら、有力な指名候補先を探ってみよう。


今夏の甲子園で3本塁打を放った高松商の浅野翔吾

浅野獲得は二の次の5球団

【Cランク】中日、ソフトバンク、楽天、ロッテ、日本ハム

 まず、浅野を獲得するイメージが湧きにくいのは、この5球団。中日は昨年のドラフト会議でブライト健太、鵜飼航丞ら3人の右打ち外野手を獲得している。いくら長打力不足が泣き所とはいえ、2年連続で潰しのきかない外野手を上位指名するとは考えにくい。京田陽太、土田龍空らと競える遊撃手獲得のほうが先決だろう。

 ソフトバンクはポテンシャル重視の球団だが、2年前に井上朋也をドラフト1位指名するなど、強打者タイプは体格のよさを優先しているように見える。また、今年のドラフト戦線は体格のいいアスリート型素材が多いだけに、ソフトバンクは浅野を回避するのではないか。

 楽天は昨年のドラフト会議で吉野創士、前田銀治など、育成選手を含めると4人の右打ち高校生外野手を獲得している。次世代の遊撃レギュラー候補など、優先すべき補強ポイントは他にありそうだ。

 日本ハムは伝統的に「その年のナンバーワンをドラフト1位指名する」という方針がある。とはいえ、今季はBIG BOSS・新庄剛志監督の方針で、投打とも戦力の見極めに重きを置いて不安定な戦いぶりに終始している。素材型選手を獲得するよりは、来年の新球場開場イヤーに花を添えるような即戦力獲得に走るとみる。

原監督が求める「強い選手」に合致

【Bランク】ヤクルト、DeNA、巨人、広島、オリックス

 ヤクルトの野手陣は、あと数年は安泰と言えるだろう。2020年オフに山田哲人と7年の長期契約を結び、「村神様」こと村上宗隆が覚醒したことで、何がなんでも強打者を押さえる必要はなくなった。

 裏を返せば、焦らず次世代の主役を育成できる環境とも言える。また、ヤクルトは名打撃コーチとしても名を馳せた中西太に薫陶を受けた打撃コーチが多く、強打者を次々と開花させてきた歴史がある。「令和の中西太」を育てるには、最適の環境かもしれない。

 DeNAは近年のドラフトで獲得した牧秀悟が球団の顔になり、森敬斗は故障に苦しみつつも近未来のリードオフマンに成長してくれるイメージが湧く。補強ポイントの優先順位は即戦力投手や捕手にありそうだが、和製大砲候補の細川成也が足踏みする悩ましい側面もある。若手外野陣の競争を促進する起爆剤として、浅野に白羽の矢が立っても不思議ではない。

 巨人は今季リーグワーストの防御率3.89(8月28日現在/データは以下同)、と、投手陣に課題が山積み。上位指名で投手を獲得するのは確実だろう。とはいえ、今季7人の投手がプロ初勝利を挙げたように、若い芽が育ってきているプラス材料もある。それゆえ、むしろ次世代の野手のスター候補を求めたほうがいいという考え方もあるだろう。25歳以下の右打ちの外野手は育成選手しかいないというチーム内バランスの問題もある。原辰徳監督が求める「強い選手」という選手像にも浅野は合致する。

 同様に広島もチーム内のバランスから「次代を担う右の強打者」は補強ポイント。ただし、現時点では秋山翔吾の加入もあって外野陣は飽和状態で、是が非でも浅野を欲する状況でもない。大砲候補に関しては体格を重視するスカウティングの傾向もあり、浅野が広島スカウトの「好み」から外れる可能性はある。

 杉本裕太郎の不振など今季は貧打に苦しむオリックスも、強打者はのどから手が出るほど欲しい。とはいえ、投手も野手も若いレギュラーや将来大化けしそうな逸材が多く、急速な弱体化はイメージできない。強いて言えば、次世代の中軸候補が手薄に見えるため、浅野の獲得に走る可能性はあるだろう。

西武には「生きた教材」が...

【Aランク】阪神、西武

 チーム事情にマッチし、かつ本人の資質に合いそうなのは阪神と西武だ。

 阪神はチーム防御率2.55とリーグナンバーワンの投手陣を擁する。岩崎優が代役を務めた守護神に不安が残るものの、この大事な役割を新人で補おうと考えるべきではないだろう。才木浩人、西純矢、森木大智ら次代を担う若手も順調に成長している。

 また、阪神という特殊な球団は激しい毀誉褒貶に耐えうるメンタリティーの持ち主でなければ、長期間にわたって活躍するのは難しい。その点からも精神的に図太く、大舞台で結果を残した浅野は頼もしい。やや停滞気味の高卒3年目の大砲候補・井上広大と刺激し合えれば、阪神の近未来は明るい。

 西武は二塁手の外崎修汰がFAとなり、流出に備えたいところだが、それ以上に外野に突き抜けた柱が必要だろう。数年後には外野レギュラーの一角を担える存在として、触手を伸ばす可能性は十分にある。

 また、浅野にとっては「生きた教材」を間近で見られるメリットもある。「ボールに対してバットをタテに入れて、バックスピンをかける」という浅野の打法は、中村剛也の動画を参考にしている。来季まで契約の残る中村から浅野へと技術を伝承できれば、強打者の系譜は生き続ける。

 浅野は甲子園大会終了後、侍ジャパンU−18代表に選出された。国際舞台でも「脅弾」を放ち、アピールに成功すればドラフト戦線はさらに揺れ動くだろう。浅野翔吾の運命はどこへ向かうのか。プロ野球ドラフト会議は10月20日に開かれる。