堂安律に11億円の価値は大いにある。監督から「攻撃は自由にしてくれ」と言われるほど絶大な信頼感
2022−23シーズンのブンデスリーガ1部が開幕して早くも第4節。金曜夜の1試合は、堂安律のフライブルクが浅野拓磨所属のボーフムを本拠地に迎えての一戦だった。
公の発表はなされていないが、移籍情報サイト『トランスファーマルクト』の見立てによれば、今夏の堂安獲得のためフライブルクがPSVに支払った額は850万ユーロ(約11億7000万円)ほど。これはフライブルク史上2位の高さだ。
首脳陣の期待どおり、今季初公式戦のドイツカップDFBポカール1回戦以降、堂安はすべての試合で先発に名を連ねている。第4節ボーフム戦もこれまでと変わらず、スターティングメンバーの中に「Doan」の文字はあった。
フライブルクの攻撃を任されている堂安律
前半は1本のパスで裏を狙うボーフムに決定機を与える場面が散見され、12分と34分には浅野がペナルティーエリア内から惜しいシュートを放った。一方、堂安は前線から相手に激しく寄せて守備での奮闘は見せたものの、ハーフタイムに入るまで攻撃面での目立った働きは少なかった。
エンドが替わって後半、立ち上がりの時間帯に試合が動いた。VARで獲得したPKをフライブルクが先制点に結びつける。これで攻撃陣の動きはより軽やかになり、ボーフム陣内に攻め込む時間が増加した。
56分にゴール前の密集地帯をすり抜けるシュートを打った堂安は、その6分後にもトリッキーな仕掛けで縦に抜け、大柄なDFドミニク・ハインツを腕で抑えながらペナルティーエリア内に進入。その突破力に、ホームの観衆も感嘆のため息を漏らした。
「攻撃に関しては『自由にしてくれ』と言われてるんで。今日みたいにアクションを起こしたのなんかは監督が求めていますし。ウチのオフェンス陣は、なかなか個人で打開できる選手が少ないので。走れる選手とかパスがうまい選手はいますけど、1対1で打開できる選手がいないので、それをやってくれっていうのは言われています」
2度目のドイツ挑戦は上々72分にも正面の位置からゴールを狙った堂安は、その直後の74分に交代。今季初のフル出場こそお預けとなったが、今季3勝目(1−0)に貢献した。チームとしても個人としても、シーズンの滑り出しとしては及第点以上だ。
「(前半途中から雷雨になった)天候もあって、完璧な試合運びができたかはわからないですけど、後半はよくなったと思いますし、持ち味を後半は少しは出せていけた。まだまだ改善点はありますけど、(開幕して4試合で)勝ち点9。(4試合で唯一負けた)ドルトムント戦もいい試合をしてたんで、すごいいい出だしかなと思います」
内部を知悉する堂安が「本当にしぶといチーム」と自画自賛するように、フライブルクの強みは数メートルのズレもおろそかにしない緻密で組織的な守備に加え、フィフティ・フィフティのボールに全力で向かい、そこで奪いきってしまうところにある。
「一人ひとりが球際で戦って、やれてるチーム。足もとのクオリティだと、ほかのチームのほうがいい時はもちろんある。そうじゃなく、1対1のところやメンタル的なところが強い。ひとつになっているチームだなと思います」と、自クラブの長所を分析する。
期限付きでビーレフェルトに在籍した2020−21シーズン以来、2度目のドイツ挑戦の堂安は、DFBポカール1回戦カイザースラウテルン戦に始まり、開幕節アウグスブルク戦もネットを揺らした。先述のように全公式戦で先発を果たすなど、すでにれっきとした主力のひとりである。しかし、チームにフィットするまでもうしばらく時間を要すると、本人は見ているようだ。
「まだまだですね。ほしい時にボールが出てきてないですし。特に前半なんかはボールに関与する時間は少なくて。後半はよかったですけど。もっと自分のよさを理解してもらわないといけない。まだまだ程遠いですけど、監督が信頼して使ってくれてるのはすごく感じてるんで、しっかり応えられるように頑張りたいです。
勝ってるっていうのが気持ち的にやっぱでかい。それで自信も大きくなります。これで完璧じゃないなと思いながらチームが負けてると、気持ち的にしんどい。そこで勝ちきれてるのは大きいなと」
堂安はカタールW杯も視野試合当日の日中には、ヨーロッパリーグのグループ組み分け抽選も行なわれた。堂安はPSVに所属していた昨季に続き2シーズン連続での同大会参戦だが、フライブルクにとっては2013−14シーズン以来の欧州カップ戦復帰となる。
フライブルクは、オリンピアコス(ギリシャ)、カラバフ(アゼルバイジャン)、ナント(フランス)らと同じグループGに入った。無論、楽観視など禁物だが、グループリーグ突破は十分に射程圏内だ。
「(飛び抜けて強い相手がいないことについて)ポジティブに取れば(突破しやすいという意味で)いいのと、悪く取れば『楽しくないな』っていうのと、どちらも言えるなって(笑)。ただ、チームとして上に行きたいので(その観点で言えば)クジ運がよかった。
まあ、ワールドカップのクジと逆ですね。(W杯は)難易度は上がるけど、相手が強くてうれしいし、楽しみだなっていう気持ち。ヨーロッパリーグはウチも勝てそうな雰囲気がある。サッカー選手としては、気持ちは半々ですね」
フライブルクは9月以降、ワールドカップ本番前の11月中旬まで、ほぼ毎週2試合をこなす過密日程が続く。したがって、疲労という避けられないであろう問題とうまく付き合っていくことも要諦だ。
ケガなく万全の状態でカタールへ向かうため、今季前半戦の堂安にとって「コンディション調整」はこれまで以上に重要なテーマとなりそうだ。