水冷になったハーレー「スポーツスター」系2車種のキャラクター差を探る
ハーレーダビッドソンといえば、空冷のV型2気筒エンジンがアイコン。ただ、そのエンジンも時代に合わせて水冷化が進んでいます。それは、スポーツ性を高めた「スポーツスター」シリーズでも同様。
現行モデルでは、「スポーツスターS」と「ナイトスター」がその系譜に当たりますが、新型水冷エンジンのフィーリングはどうなっているのか? 両車に試乗し、キャラクターの違いを含めて、体感してきました。
「スポーツスター」は、ハーレーダビッドソンの中では、軽量でワインディングなども楽しめるとして日本国内では人気の高かったシリーズ。若い頃はレーサーレプリカなどに乗っていたようなベテランライダーでも満足できる運動性能を持っていて、筆者のように「もう少し歳をとったら乗りたい」と思っていた人も少なくないのではないでしょうか。水冷になっても、その魅力は変わらないのか!? というところも、個人的に興味があるところです。
■モンスターマシンへとキャラ変した「スポーツスターS」
空冷の「スポーツスター」シリーズには1200ccと883ccの2種類の排気量が用意されていましたが、どちらも決してハイパワーなユニットではありませんでした。最高出力は1200ccでも66HPで、最大トルクは96Nm。それに対して、現行の「スポーツスターS」に搭載される水冷のRevolution Max 1250Tエンジンは121HPと125Nmなので、パフォーマンスの向上は明らかです。
外観も、空冷「スポーツスター」に比べると、かなりアグレッシブな印象に仕上がっています。薄型のLEDヘッドライトを基調にしたフェイスや2本出しのアップタイプマフラー、短く切り落とされたようなシートカウルのデザイン(同社のレーシングマシン「XR750」をモチーフにしたもの)も迫力があります。
ステップは前方に位置するフォワードコントロールで、ライディングポジションはハーレーダビッドソンらしい足を前に投げ出すような独特のもの。低く構えた車体と太めのタイヤもあって、ライダーがまたがった状態でも威圧感があります。
そして、最もアグレッシブなキャラクターを感じたのはエンジン特性。数値上のパワーアップも明らかですが、実際に乗車してアクセルを開けるとそれ以上のキャラ変ぶりに驚かされます。ライディングモードを3段階に切り替えられるのですが、最もパワフルな「スポーツ」を選ぶと、フォワードコントロールのステップから足が引き剥がされそうな暴力的な加速を味わえます。
少し穏やかな「ロード」や「レイン」モードでは、街乗りでの扱いやすさを両立していますが、「スポーツ」モードではアクセルを全開にするのは困難なほどのモンスターマシンに仕上がっています。空冷時代の「スポーツスター」よりも、ドゥカティやKTMなどのストリートファイター系マシンに近いようなキャラクター。
かつての「スポーツスター」はベテランライダーが最後のマシンとして選ぶ“上がりバイク”のイメージがありましたが、水冷の「スポーツスターS」は、結構イケイケのマシンとなっていました。
■シリーズの馴染みやすさを継承した「ナイトスター」
「スポーツスターS」に遅れて今年登場したのが「ナイトスター」。同じ水冷Vツインエンジンですが、こちらは排気量975ccのRevolution Max 975Tを搭載しています。最高出力は89HP、最大トルクは95Nm。車両重量は「スポーツスターS」より7kg軽い221kg。軽量で扱いやすい「スポーツスター」シリーズの特徴は「ナイトスター」にこそ受け継がれていると言えそうです。
シルエットも「スポーツスター」シリーズの血統を強く感じさせるもの。燃料タンクの形状は同シリーズのクラシックモデルを模したもので、円形のエアボックスカバーも、シリーズの系譜を受け継いでいます。リアショックはむき出しの2本タイプ。これもシリーズに継承されてきたものです。
ホイール径はフロント19インチ、リア16インチで、細めのタイヤを装着。フロントにも極太タイヤを履く「スポーツスターS」とは異なるスリムな印象に仕上がっています。
実際にまたがっても「スポーツスターS」に比べると、かなりスリムで軽量に感じます。エンジンの出力特性も少し穏やかで街中でも扱いやすい。3段階で切り替えられるライディングモードは搭載していますが、「スポーツスターS」ほど暴力的な加速感にはなりません。排気量や最高出力などの数値以上に、ライダーが感じる特性は異なります。
もちろん、大きめにアクセルを開ければ空冷エンジンとは明確に異なる加速感や、スムーズな吹け上がりを感じられます。乗り手にアクセルを開けることを要求してくるような「スポーツスターS」とは異なり、低回転域での鼓動感を味わいながら巡航するような走り方も気持ちいい。従来の「スポーツスター」的な乗り味を求めるのであれば、「ナイトスター」の方が向いています。
同系統の水冷エンジンを搭載しながら、スペック値以上にキャラクターが異なる「スポーツスターS」と「ナイトスター」。ハーレーダビッドソンの新時代を担うのにふさわしい走行性能と乗り味を実現していますが、選ぶ際にはそのキャラクターの違いを把握しておいたほうが良さそうです。
▼スポーツスターS
●全長:2270mm
●重量:228kg
●エンジン:1252cc 水冷V型2気筒
●最高出力:121HP/7500rpm
●最大トルク:125Nm/6000rpm
●価格:216万4800円〜
▼ナイトスター
●全長:2250mm
●重量:221kg
●エンジン:975cc 水冷V型2気筒
●最高出力:89HP/7500rpm
●最大トルク:95Nm/5750rpm
●価格:195万4700円〜
>> ハーレーダビッドソン
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
【関連記事】
◆輸入車なのにお手頃価格!走りも魅力のイタリアンブランド「ベネリ」って知ってる!?
◆RG500ガンマ、NS400R、RZV500…大排気量2ストモンスターマシンを憶えていますか?
◆出会いは『トップガン』!? カワサキ“ニンジャ”のルーツ「GPZ900R」は今も現役