お笑いトリオ「インスタントジョンソン」のじゃいさん (C)競馬のおはなし

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「むかついているとか、不満を持っているとかじゃないんです。いまの法律が正義と言えますかね……。法律を変えてほしい。そう思って、命をかけて行動を起こしました」

お笑いトリオ「インスタントジョンソン」のじゃいさんはそう語る。

じゃいさんは2022年6月、競馬の払戻金について東京国税局から追徴課税されたことを受け、東京国税不服審判所に審査請求(不服申し立て)をした。

じゃいさんは、YouTubeチャンネル「じゃいちゅ〜ぶ」などで今回の経緯を話しているが、競馬のおはなしは今回、直接、じゃいさんに話を聞いた。

知人のアドバイス受け「雑所得」で申告

じゃいさんが競馬ファンであることは、皆さんご存じの通り。YouTubeチャンネルのほか、多くのメディアで報じられたが、じゃいさんの話をもとに、まず事実経過を振り返っておく。

昨年秋、男性2人がじゃいさんの自宅に来た。2人は「税務署の職員」と名乗ったあと、当たり馬券の払戻金が適正に申告されていない疑いがあると告げ、経理書類や通帳の写しなどを持っていった。

20歳から馬券を買い始めたじゃいさんは、「一時所得」として当たり馬券の払戻金を申告してきた。2015年ごろ、知人から「本を書くなど競馬の仕事をたくさんしているから、申告方法を変えても大丈夫ではないか」とアドバイスされたため、以降は「雑所得」として申告するようになった。

株は売買益なのに競馬は勝ち分が課税対象

では、一時所得と雑所得でどのような違いがあるのか。

一時所得は「偶発的な所得」で突発的な収入のことで、代表的なものは、生命保険の満期返戻金などだ。今回のケースでは、当たった馬券の払戻金を申告することになる(50万円は控除されるので申告するのは50万円超から50万円を差し引いた金額)。一方、雑所得は「偶発的ではない所得」のことで、株やFX取引があてはまり、株なら株売却による収益から株取得費を差し引いた「売買益」を申告する。

知人のアドバイスというのは、お笑い芸人の仕事のかたわら競馬による仕事の収入も多額なじゃいさんにとって、「当たり馬券の払戻金は『偶発的ではない所得=雑所得』といえるはず」というわけだ。

じゃいさんは知人のアドバイス通り、年間を通じて、当たり馬券の払戻金(利益)から馬券購入費を差し引いた額を「雑所得」として申告してきた。

追徴金は「マンション買える額」

しかし、税務署の男性は「適正な申告ではない疑いがある」と話し、資料を持ち帰った。年末までに、申告が適正だったか判断結果が伝えられる予定だったが、実際に税務署の判断が届いたのは、2022年3月。

結果は「2016年〜2020年の申告は適正ではなかった」として、追徴課税を課された。追徴課税の額は「マンションが買える金額。数千万円でした」(じゃいさん)だった。

株やFX、為替取引の場合なら当たり前の「売買益を申告する」という考え方は、「競馬にはあてはまらない」というのが東京国税局の判断だった。

税務署職員も思わず「理不尽だと思います…」

判断結果を知らせに来た税務署職員は、じゃいさんに対し、「僕も理不尽だと思いますが…」「正直、個々に思うところはあるんですが、決まりなので……」などと話していたという。

じゃいさんは国税局の判断に従うことにした。追徴額があまりに巨額だったので一時は分割払いを考えたが、「利息だけでもサラリーマンの年収数年分になってしまう」という理由で、家族や親族に借金して、一括で支払った。

ただ、じゃいさんは腑に落ちなかった。一競馬ファンとして、「この法律は正義なのか……」。一時は裁判闘争も考えたが、裁判になると弁護士費用などで数千万円かかるうえ、判決が出るまで「6〜7年かかる」と言われたため、今回は、不服申し立てをすることに決めた。

馬券購入費を経費と認めた最高裁判決

競馬の払戻金について、実は、最高裁が2017年、馬券購入費を経費として認めたケースがある。

年間十数億円分の馬券を買い、約2億円の利益を得ていたケースについて、「営利目的の継続的な行為で、利益を得るには外れ馬券の購入は避けられない」と認定したのだ。

この判決を受け、国税庁は翌2018年の通達で、経費に当たるかどうかの判断基準について「馬券購入の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して区分される」と従来の方針を変えた。しかし、書かれている基準は極めてあいまいだ。

【後編】じゃい、追徴金問題の批判・疑問に答える「払戻金は無税にすべき」

不公平な税制/当たり馬券、8割が未申告
お笑いトリオ「インスタントジョンソン」のじゃいさん (C)競馬のおはなし

じゃいさんは「不公平な制度だと思いませんか」と話す。

確かにそのとおり。馬券を買う場所は、昔は競馬場だけでなく、場外馬券場に広がり、現在はインターネットでも買える。ネットで購入する際は購入者情報が必要だが、競馬場や場外馬券場の売り場では、馬券購入者の身元を申告する必要はないので、購入後に購入者の個人情報が特定されることはない。

こんな数字がある。2015年、会計検査院の調査結果だ。1050万円以上の馬券払戻金は530件で合計127億円あった。1050万円以上の払戻金は、控除額(50万円)を上回るので、税務申告する必要がある。しかし、そのうち申告されていたのは約20億円。つまり税務申告されたのは2割に満たなかったというのだ。

それも仕方ないことだと思う。払戻金を受け取った人のうち、競馬場や場外馬券場で買った人は「自分が競馬に勝ったことは知られるはずがない」と考えて税務申告しないのも理解できる。

ネットと窓口で大きな差

しかし、じゃいさんは2021年3月、自身のYouTubeチャンネルで、トリプル馬単で6000万円以上の払い戻しを受けたことを放送していた。国税当局もこの放送を見て、税金を取ろうと狙いを定めたのだろう。

さらに、じゃいさんは馬券をインターネットで買っていたので、ネットのログと通帳を突き合わせれば、いくら払戻金があったのかは追跡可能なのだ。

場外馬券場などで買った人とネットで買った人でこれほど扱いが異なる。この事態を昭和23年制定の競馬法や、所得税法が想定しているはずがない。きわめて不公平な法律だと言えるだろう。

「馬券で儲かる人は3%ぐらい」

じゃいさんは今回の不服申し立てにあたって、何を訴えているのか、聞いた。

「僕は、払った金を取り戻したくて戦っているわけではありません。競馬ファンがもっと増えてほしいと願っているだけです」

「馬券の払戻金で儲けている人は競馬ファンの中でも3%ぐらいしかいないと思います。勝っても税金を取られることになってしまえば、競馬ファンは減ってしまう。競馬ファンにとっていい方向に法律を改正してほしい。そう思って、立ち上がりました」

そう指摘した上で、こう話した。

「仮に追徴金が戻ってくるようなことになったら、日本中央競馬会(JRA)に寄付するつもりです」

賛同者は12000人超

じゃいさんの不服申し立ては、追徴金を取り戻すのが目的ではないというわけだ。

こうした、じゃいさんの行動に対し、賛同の輪は広がっている。不服申し立てにかかる弁護士費用などについて寄付を募ったところ、賛同者は1万2000人(寄付額550万円)を超えた(7月19日時点)。

じゃいさんは競馬ファンを思って立ち上がった。しかし、じゃいさんの行動に対する批判も相次いだ。次の原稿では、じゃいさんのもとに届いた多くの批判に答える形で、じゃいさんの思いに迫っていく。