井岡一翔(2012年)

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 7月13日、東京・大田区総合体育館で行われたWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチで見事、5度目の防衛を果たした井岡一翔(33)選手。その試合後、勝ちっぷり以上にネットニュースとして取り上げられたのが、試合の際に井岡の左胸から脇腹、そして左腕に塗られた“タトゥー隠し”だった。

【写真】井岡の身体に“ネームタトゥー”が入る、長男・磨永翔くんとのほのぼのショット

 試合を管轄する『JBC』(日本ボクシングコミッション)が定めたルールとして、「入れ墨など観客に不快の念を与える風体の者」は試合に出場できない。それに従って、井岡は自身の身体に入れたタトゥーを隠したわけだが、そのルールに「矛盾があるのです」とはボクシング専門誌編集者。

 というのも、フィリピン出身の挑戦者ドニー・ニエテス(40)選手の左胸から腕にかけて「蛇」、右胸には「牛」のタトゥー、いや和彫りの入れ墨が入っていたからだ。リング上で対面した井岡とは対照的な、なんとも違和感を覚える構図に。

 この試合を見ていた視聴者も然りで、ネット上では《なんで井岡だけ隠さなきゃいけないの》などと声が上がり、中には《そもそも入れることが問題》とルールを把握しているのにタトゥーを入れ続けた井岡の行動を疑問視するユーザーも。

 2017年に1度は現役引退を表明するも、翌2018年9月にアメリカにて現役復帰。その頃から身体のタトゥーが増えていった井岡。そして2019年に国内ライセンスを再取得して再び日本のリングに立ったのだが、ボクシングファン、並びに関係者の度肝を抜いたのが2020年の大晦日に行われた田中恒成選手とのタイトルマッチ。

むしろタトゥーが増えていった

「髪の毛をコーンロウスタイルに編み込んだ井岡選手の左肩に、大きなライオンのタトゥーが加わっていたのです。近年、ボクシングの健全化を目指して、特に試合中のタトゥーの露出に注視するJBCに反発するかのように、計量時には“むしろ増えてないか”と。まるで井岡選手の意思表示にも見えました」(前出・専門誌編集者)

 この大一番がTBS系の全国ネットで放送されると、当然というべきか、井岡の勝利よりもタトゥーに批判が集中。JBCはルールを守らなかったとして、井岡と所属ジムに厳重注意処分を下すことに。

「以後は、井岡選手の試合前にはJBC担当者がタトゥーを隠すようにと、陣営に念入りに要請をしています。井岡選手も素直に“ルールには従います”と、そこは反省しているようですが、まだ納得していない部分もあるようですね。特に同じリングに立つボクサー同士なのになぜ“外国人はOKで日本人はダメ”なのか、その部分にはこだわっているみたいです」(同・専門誌編集者)

 問題視された大晦日の試合前、2020年8月に更新したYouTube『井岡一翔 Diet Academy』にて、自身のタトゥーに込めた真意を明かす彼がいた。

【復帰する時に、本当に本気でやるきっかけというか、こっから(また現役を)やるって半端じゃないなって思ったし。何か理由作りというか、これをしたら逃げられないと言う決意表明と、(タトゥーを)入れてからは家族の思いというか、入れても後悔しないだろうなという思いで入れましたね】

 再び厳しい世界に飛び込む己への覚悟の証として、また家族の“ネームタトゥー”もあるように“家族のために闘う”決意として入れたのだろう。

世界王者としてタトゥーの印象変えたい

 続けて、海外のプロスポーツ選手の多くがタトゥーを入れているにもかかわらず批判されないこと、そして観客は選手の見た目ではなくパフォーマンスや試合を見にきていることに言及し、【一応現役の世界チャンピオンやし。そういった意味で印象を変えていければいいな】と“世界目線”でボクシング界の変革を訴えた井岡。

 自然と語気が強くなっていくと、JBCルールの矛盾にも矛先を向けた。

【実際に日本にいる海外の選手だと普通にタトゥー入れているんですよ。でも、消さなくていい。日本のジムに所属しているけど、外国人やからってそれも矛盾しているし。それやったら、“日本のジムに所属してるから全員(外国人選手もタトゥーを隠さないと)ダメ”とかでいいじゃないですか。

 そこ(のルール)もおかしいんで、徐々に打ち砕いていって、もうコイツにいうても通用せえへんな、めんどくさいと思わすぐらい、もうなんか突き抜ければいいのかな】

 JBCは外国人のタトゥーを黙認していることについて、「その国の文化や宗教上の問題があるので外国人にはタトゥーを消せと言えない」と各国の“文化や宗教上の問題”との見解を示している。

 昨今の日本でも、アートやオシャレの文化として認知されつつある現状。井岡のタトゥー問題を受けて、ネット上では《そろそろ「刺青、タトゥーお断り」文化をなくしたら》と容認を求める声がある一方で、《多くの日本人の感覚では入れ墨は反社会的勢力の象徴》とまだまだ“負のイメージ”として捉える意見も多い。

タトゥーがダメなら海外を拠点にする

【もともと復帰した時に日本でやる気はなく、海外を拠点としてやりたいと思ってたんで。だから日本で万が一(タトゥー)入れたからダメって言われたら、海外でやろうっていう頭なんで。それでやってるっていうのもあるんで】

 先の動画では、これからも日本の試合でタトゥーが容認されないのであれば、海外に拠点を移すことを示唆していた井岡。あれから2年ーー。

「当初こそ海外試合に意欲的だった井岡選手ですが、国内復帰後はほぼ日本でキャリアを重ねています。今や33歳とボクサーとして若くないだけに、正直なところ体力的にもタフな海外移籍、そしてコロナ禍の世界情勢では難しいかもしれない。日本で試合をする以上はルールに従うしかないということでしょう。

 一方で、今のボクシング界でお客さんを呼べる数少ない人気チャンピオンだけに、JBCは是が非でも日本に残ってほしい。一番の矛盾は、世間の目を気にして禁止としているのに、“タトゥー隠し”を要請してまで井岡選手をリングに上げたい“選手は二の次”のボクシング界の対応かもしれません」(前出・専門誌編集者)

 井岡が臨む、タトゥーが根付く時代はまだまだ先、いや、来るのだろうか。