安保法制は″修正″によって、どのように形を変えたのか～山田太郎議員に聞く″入口・中口・出口″論～ - BLOGOS編集部
※この記事は2015年11月26日にBLOGOSで公開されたものです
政府原案に附帯決議がつけられて可決された安保法制。この附帯決議、さらにはその後の閣議決定によって、法案の内容はどのように変化したのだろうか。与党との調整などの実務を担当した日本を元気にする会の山田太郎政策調査会長に話を聞いた。可決後に改めて評価されつつある修正の中身
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山田太郎議員（以下、山田）：今回の安保法案については、「原案賛成」か「廃案」か、という2択のように見えてしまっていました。しかし、実は「対案」と「修正」という選択肢があったのです。そして、我々「日本を元気にする会（以下、元気会）」は「修正」という選択肢を取りました。「修正」というのは、構造上、原案に賛成した上で変えるということになります。これに対して、「対案」というのは、原案を引っ込めて別の案を採用しなさいということですから、「廃案」に近いと言えるでしょう。
―「廃案」のように、旗色を鮮明にした方が盛り上がりやすいですし、支持も受けやすい傾向があると思います。今回の元気会の対応についても、修正に回ったことでTwitter上などで「この裏切り者」といった批判も受けたと思いますが。
山田： 私たちの判断は、今回の騒動が落ち着いてから非常に評価され始めてきたと感じています。最近は修正協議に反対していた政党ですら「あの附帯決議があるんだから、今度の参議院選挙で逆転させれば、自衛隊を出さなくて済むんだ。ついでに法律まで変えてしまえばいいんだ」と言いだしているぐらいです。
「おいおいおい」と。あの時、あなた達は「そんなことをしても意味がない」とか言っていたはずなのにと思います。実際には、我々も一度で合意文を作成したわけではありません。一段ずつ階段を上って、与党とすりあわせながら実現していったのです。
－与党と具体的にどのような調整を行い、どのような成果を勝ち取ったのでしょうか。
山田：私たちは、"入口論（例外無き国会の事前承認）”と一緒に"中口論（定期的な再承認）”"出口論（事後検証）”というのを出しました。
一番強く主張したのは、事後検証を行うという"出口論”です。私は以前からイラク戦争はおかしいと思っていました。大量破壊兵器もないのに戦争を起こしてしまうという誤りを国家が犯しておいて、謝罪すらない。挙げ句の果てに、「大量破壊兵器がないことを証明出来なかったフセインが悪い（悪魔の証明）」などと言い出すわけです。こうした事態を防ぐためにも事後検証が必要だと考えました。
実は出口論については、早い段階で与党側と合意ができていました。５～６回のやり取りがあったのですが、事後検証というのは、おそらく与党内でも意見として出ていたでしょうし、「当然だよね」という空気を感じました。ただ表立ってそれを言う人がいなかっただけだったので、これは付けてもいいんじゃないかという空気でした。
次のステップは、活動途中での報告と派遣の中止、撤退を可能にする"中口論”を実現させることでした。正直にお話しすると、"例外なき国会の事前承認”は当初は厳しいと思っていたので、私の本丸はこの"中口論”でした。国会から「帰ってこいよ」と言われれば、いつでも撤退させることが出来る。事後承認だといって政府が勝手に派遣を決めたとしても、"中口論”の部分が実現していれば、極端な話、「1日で戻ってこい」ということもできなくはありません。現実的には、事前承認よりも厳しい制約とも考えられるわけです。
ただ、国会が撤退を判断するためには、適宜報告をさせなければいけません。そのため、「180日にごとに国会に報告させる」という条項を付けました。自衛隊としては、非常にめんどうくさいので、これを一番嫌っているようです。180日ということは、実質120日ぐらい経過したタイミングで報告書を作成する必要があるので、非常に実効性があると考えています。この"中口”が実現したことで、自衛隊の海外派遣をいつでも国会が中止させることができるようになったのです。
政府原案では、国会の再承認は「存立危機事態」にしか必要ありませんでした。「重要影響事態」についてはそもそもなく、PKOや共同対処事態については「２年ごと」となっていますが、多くのミッションは１年ごとの計画なので、現実的にないも同じです。つまり、私たちが求めていた"中口”がまったくなかったので、「これはマズイよね」と思ったわけです。
安保法制における与党側の本丸は「重要影響事態」
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山田：これは民間の知恵なのですが、一段交渉の階段を登り始めると、相手も階段をのぼりやすくなります。例えば、１億円のプロジェクトを受注しようと考えた時に、いきなり「1億円払ってください」ではクライアントは乗ってきません。まず100万円でもいいから、事前のコンサルティングや調査料として一段階段を登ることで、その後の取引がスムーズにいくわけです。
今回の交渉でも、与党側が乗りやすいところから階段を登っていきました。そうすれば与党側の担当者もお互い積み上げたものを崩したくなくなってくるのです。今回、維新の党は「対案」を出しましたが、「対案」とは相手の案を一度廃案にして出し直そうということですから、最初からケンカ腰なわけです。「俺の案をだしたから、そっちをひっこめろ」といっているわけですから。我々の場合は、"出口”"中口”と登ってきたので、最後はお互い「何とかまとめたいよね」という雰囲気になったのです。
長い交渉の中では、３回ぐらい「ダメなんじゃないか」と思ったこともありました。それでも、お互いにまとめ上げ始めたわけですよ。そのことによって、与党側の"本丸”もだんだん見えてきたんです。
―与党側の"本丸”とは？
山田：集団的自衛権という枠組みの中には、事実上、大国の侵略に該当するような形で発動されてきたものもあるので、それを日本もできるようにするというのはおかしいでしょう。そういう話を詰めていくと、米軍の後方支援を勝ち取るというのが、政府・与党サイドの今回の法案の目的なんだということが見えてきたのです。ですので、そこをうまく扱わなくてはいけないと思いました。これは商売の交渉と同じで、そこを突いたらすべてを失ってしまうからです。
つまり政府の本丸は、「存立危機事態」ではなく、「重要影響事態」だったんです。あまりにも世論の風当たりが強いのであれば、「全部事前承認有りでいいんじゃないか」という空気感が流れる中、「重要影響事態」だけは、事後承認を残す。ただ「限定付き」ということで、今後の協議事項に議論を積み残すこととしました。
「存立危機事態」には、集団的自衛権以外にも個別的自衛権も集団安全保障も含まれています。これが国会の完全な事前承認になったということは、「ある存立危機事態が集団的自衛権にあたる」と国会が判断したら、自衛隊の海外派遣に対してOKを出さなければいい。しかし、事後承認でOKだったとすると、政府が第一次解釈権を持って、つまり集団的自衛権は政府に自由に認められたということになるんです。だからこそ、存立危機事態で「国会の例外なき事前承認」なのか、「国会の事後承認あり」なのかは、集団的自衛権の存在と実行を認めてしまうのか、そうでないのかの意味で雲泥の差なのです。
私の立ち位置は、「集団的自衛権は違憲の疑いがある」なので、存立危機事態の際に、問題があればそれを国会で認めなければいいと考えたんです。「存立危機事態」の中の集団的自衛権の発動を防ごうとするのであれば、国会として許さなければいい。つまり、「国会の事前承認が必要」という条件がついていれば、集団的自衛権を認めた法律とはいえないわけです。
国会の議論は本当に"ちゃちい”
―"本丸”以外の部分に「国会承認」を義務付けることで抑止力を高めたということですね。山田：私たちは与党と協議を続ける中で、 "出口”、"中口”、"入口”のほとんどというところまで、勝ち取って、山は８合目まで登りました。そのタイミングで非常に悩んだのは、重要影響事態を含めた「完全なる例外なき国会の事前承認」にこだわるかどうかです。この理想に到達できなければ、この"商談”は辞めたほうがいいのか。これはとても悩ましい問題でした。
この点については、存立危機事態の事前承認や中口、出口において全て勝ち取ったので「今後の５党協議の継続」という形で一度痛み分けにしたのです。最後の段階になってこちらの理想を押し付ければ、いままでの交渉の成果を全部台無しになってしまう可能性がありました。であれば、相手の立場を考えて、もう一度冷静になった段階で、もう一度協議のイスにつく。その時にもう一度、理想にトライしてもいいわけです。
最後は、双方引き分けという形になりましたが、そのおかげで、ここまで合意できた。これまでの法律では、PKOですら「帰ってこい」という仕組みもなかったわけですから、以前と比べ日本の自衛隊の海外派遣については遥かに制約が厳しくなったともいえるでしょう。
―反対派から、この法案が通ったことで「戦争になる」という声をよく耳にしますが、修正によって、かなり歯止めをかけることに成功したと。
山田：そうですね。また、今回の議論を通じて、様々な矛盾もわかってきました。
それは、今回の安保法制以前の問題として、海外に武力を出す際の規定が厳格過ぎて逆に現実の有事に対処できないのではないかという問題です。何故なら、現在の枠組みでは、すべて対処方針書などの書類を作って、内閣の国家安全保障会議で閣議決定をする必要があるからです。つまり、日本人を乗せている隣の米艦船が攻撃をうけて、それを日本が守ろうと思っても、必ずシビリアン・コントロールをする必要があるので、最低でも閣議決定をしなければならない。これでは、現場では全く対処出来ないですよね。
また、現在はミサイル戦争の時代ですから、どこが「着手（武力攻撃事態等）」と言われる段階なのか、という議論は重要です。自国が攻撃を受けた場合には、個別的自衛権を行使して対処するわけですが、どの段階で対処を始めることが出来るのか、という問題があります。どのタイミングで反撃をできるのか。それは一歩間違えたら、先制攻撃になってしまう。今回は、まったくこうした議論がされませんでした。
また、後方支援をやっている時に巻き込まれて戦線が拡大してしまうケースや、民間人に犠牲が出て対処していたら、戦争に巻き込まれてしまうといったケースも考えられます。戦争が起きるメカニズムを細かく類型化して考えていくと、まだまだなされていない議論がたくさんあります。日本の防衛議論は穴だらけなのです。
今回の修正に至るまでの２週間ぐらいは、睡眠時間２時間足らず、交渉のための準備や調整、相手方とも何度も交渉して内容を詰めていきました。交渉事ですから、向こうは出来るだけ譲歩したくない。こっちは譲歩を勝ち取りたいけど、相手の立場も考えながらやらなきゃいけない。今回の件で、改めて痛感しましたが、私は政治の世界に来て、「ちゃちいな」と思いましたよ。こういうことを言うと怒られるかもしれませんけど、「白」か「赤」だけで、それ以外の選択肢がない国会の議論は非常にちゃちいと思いましたね。
※後編に続く
