″記憶に残る「幕の内弁当」は無い″～秋元康☓小山薫堂「企画力で勝つ！」（後編） - BLOGOS編集部
※この記事は2015年10月14日にBLOGOSで公開されたものです
10月７日に行われた「新経済連盟」会員交流会での秋元康氏と小山薫堂氏による対談「企画力で勝つ！」。前編に引き続き、後編をお届けする。※ "カルピスの原液を作らなきゃダメだ"～秋元康☓小山薫堂「企画力で勝つ！」（前編） はこちら 写真一覧
完璧じゃない企画でもやってみようと思うようになった
小山：最初に戻りますけど、僕が思うのは、自分が楽しいか、誰を幸せにするのか、それは新しいのかの３点。毎回、自分が楽しいだけだと、多分ダメだなと思うんですよね。最近、企画を立てる時、自分に言い聞かせることがあります。"日本最初の天気予報"を思い出すんですよ。今って、天気予報っていったらピンポイントで分かりますね。でも、日本最初の天気予報を調べてみたら、日本全国の天気予報なんですよね。「明日の天気は概ね晴れるが、ところによっては風雨あり」みたいな。でも、天気を予想するという行為があったからこそ、100年経った今、ここまで進化している。
つまり、自分で作り上げなくても、一歩踏み出せることを企画しておけば、後世になって何か役に立つんじゃないかなという風に思うと、最近は、完璧じゃない企画でもやってみようと思うようになったんです。
今までは、完成されてなきゃいけないなとか。それをやったことによって、すぐに結果が分かったり、儲けなきゃいけないということがあったんですけど。最近は、一歩踏み出して、失敗したとしても意味があるんじゃないかなと思うようになりました。
僕が今、自分でやっていて一番おもしろいと思っているのは「湯道」でして。お茶の道が「茶道」で、お風呂に入るというのが「湯道」。
なんで「湯道」をやろうかと思ったかっていうと、フランス人と結婚した僕の知り合いが、旦那を連れて箱根の温泉に行ったんですね。箱根の温泉に行った時、旦那さんに「男湯に入ったら、まずキレイに体を洗ってから湯船に入りなさいよ。日本はそういう国なんだから」って言ったらしいんですよ。そうしたら旦那さんは、男湯に行って、脱衣所で服を脱いだら、その脱衣所にいっぱいシンクがあったので、「これだ」と思って、そこで体を洗ったらしいんです。脱衣所で体を洗って中に入って行ったら、中で洗っている人がいて恥をかいたと。
確かに外国人にとって、あまりにもミステリアス。でも、お湯って、日本にとってものすごい観光資源じゃないですか。飲める水を沸かして、それに人が入るっていう、こんな幸せな国って、地球上で考えた時に、あんまりないですよね。未だに何億人の人がお風呂に入れず亡くなっている。
そういう意味で、「湯道」を始めておけば、400年後に千利休のように"開祖"としての名前が残るんじゃないかなと。それで湯道を始めて、仲間を集めていっているんですよ。
この「湯道」には二つ目的がありまして、一つは子供への教育。「湯塾」みたいなのをやりたくて。銭湯が今キツイ時代に、銭湯の空き時間を使って、人にいかに迷惑をかけずにお風呂に入るかっていうのを教えてもらえるようなことをやったら、おもしろいんじゃないかなと思っていて。学びの場であると同時に、日本の手仕事や伝統工芸を守るためのお道具を開発していく。それをやってみようかなと思って始めました。
齋藤：小山さんが興味を持たれるものって、割と昔からの文化とか、極端な言い方をすると、文化的、スノビッシュ的なところがすごいのかなと。
小山：そういうわけじゃないんですけど。ただいつも自分の中から企画を引っ張りだす時のキーワードは"もったいない"ってことです。自分では"テコ入れ"って勝手に言っているんですけど、世の中のもったいないなと思うものを、僕だったらこうするのになとか。
齋藤：価値の底上げみたいな？
小山：ええ。それを空想・妄想しているうちに、実際に出来るチャンスをもらったりとか、チャンスを見つけることが出来る。その時に、今の伝統工芸とか、みんな一生懸命やっているのに、今ひとつうまくいかないところがあるので。海外の人ともっと分かりやすく、くっつけられないかなと。
記憶に残る「幕の内弁当」は無い
秋元：薫堂君の企画は、さっき言っていたように漢方薬なんですよ。ジワジワ効いてきて、70年後に「湯道って昔、薫堂君が言っていたよね」っていう風になると思うんですよ。でも例えば、「クールジャパン」もそうですけど、伝統工芸を広く海外に紹介しようとしても、何かきっかけがない限り、みんな日本に来ないでしょ。だから僕は、やっぱりそこに"抗生物質"が必要だと思っていて。まず、それが観たいんだ。それが欲しいんだ。ということを作っていかなきゃいけないと。だから、「寿司ゾンビ」もそうですけど、今、ニューヨークで忍者のミュージカルも作っているんです。それが日本に来るきっかけになってくれたらいいなと。忍者ミュージカルに人が集まるというところから、何かが広がっていく。
これは古舘伊知郎さんに聞いたんだけども、香具師が往来を歩く人達の足を止めるためにどうしていたたかというと、ダミ声で「ヘビが飛ぶよ」って言うんだそうです。そうすると「えっ!?ヘビは飛ばないでしょ？」と思うから、みんな足を止めて「なになに？」と来る。
やっぱり僕が今必要なのは、この「ヘビが飛ぶよ」っていうキーワードだと思う。「ヘビが飛ぶ？」と思った時に、テレビを見たり、Netflixを見たり、Huluを見たり、何かに立ち止まるんですよね。
だから僕は、「ヘビが飛ぶよ」っていうのを常に作らなきゃいけないと思っています。そうしないと、みんなドンドン慣れてきてしまうし、刺激がなくなってしまう。
僕のヒットのポイント、企画のポイントっていうのは、"記憶に残る「幕の内弁当」は無い"っていうことなんですよ。会議をやればやるほど、僕がこの一品で勝負しようと思っても、「いや、それじゃあ、肉を食べられない人どうするんですか。お魚食べられない人どうするんですか」と増えて、結局は、幕の内弁当になっちゃう。だから、一品でいいんだと。
つまり世の中に、梅干しだけの日の丸弁当を出したいと。高級な世界一美味しい梅干しだけの、白いご飯の日の丸弁当なんて出るわけないと思っているところに出すから価値があるんですよ。
そこに「さすがに日の丸弁当の梅干しだけでは、おかずにならないから、お魚入れましょう、お肉入れましょう」って、結局は幕の内弁当。これは全然記憶に残らない。だってみなさんも、今まで食べた幕の内弁当で一番うまかったものなんて、絶対覚えてないですよ。
でも、「あのうなぎ弁当」とか「あの釜飯」とか「あのカレー」とかは、覚えられるじゃないですか。この、"あの"がなきゃいけないと、絶対思っているんですね。例えば『おくりびと』ってタイトルは覚えられなかったり、思い出せなかったりするけれども、「死んだあとの"あの"映画」って"あの"がちゃんとあるんですよ。だから、ヒットするんです。
「あの、秋葉原でいっぱいいるグループ」っていうのがAKB48だったり。僕らの仕事とみなさんの事業とは違うかもしれないけど、コンテンツだと"あの"が付いているか、付いていないかというのは、すごく大きいんですよね。
だから、差別化でいうと、"あのなんとか"っていうのがあるかどうかっていうのは、僕の中で一番大きいかもしれない。
人脈を作りにいく人っていうのは、何か信じられない
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秋元：しがらみは断ち切れないですよね。でもね、薫堂君を見ていると、本当に人が好きなんですよね。それが多分企画に繋がっているのかなと思いますね。多分、薫堂君にとっては、人が企画の入り口ではないかなと。
ある時、僕が知り合いの女の子に「誕生日に薫堂君の経営しているレストランに行きたい」と言われたので、予約のために薫堂君にメールをしたんです。そうしたら「その日は休みなんです。すいません」っていう返信があったんですけど、５分後にまたメールが来て、「その日は休みなんですけれども、前の日はどうですか？」と。つまり、「前の日にいらしていただいて、日付が変わった12時に誕生日を迎えた時、東京タワーの照明が落ちる。そこで、ロウソクがついたバースデーケーキを持ってきたらどうですか？」っていうのを、わざわざくれたんですよ。
その時、薫堂君はアルゼンチンにいたんです。それなのに、たかだか僕の雑用というか、しがらみの「誕生日にレストランを予約してくれない？」ってことに対して、ちゃんと返答してくれた。で、返答するだけだったら、しがらみの域なんだけど、しがらみの域を越えて、そこに企画が生まれるわけですよね。
よく講演会で若い女の子達に話しをすると、「何の意味もない。私たちは普通のOLなんで、企画の話は役に立ちませんみたい」に言われるんですが、全てのものが企画だと思うんですよね。
例えば、OLが朝それぞれのスタッフにどんなお茶を入れるか。あの人は、胃が弱っているからこういうハーブティーにしよう。あの人は寝てないからカモミールにしようとか。それも企画で、あの子はすごく優秀で、こんなことを考えているということに繋がるんじゃないかと。
つまり人が企画なんだと。だから僕は、しがらみから何かが生まれる人もいるんじゃないかと思っていて。どうですか？
小山：ありがとうございます、僕のことを言っていただいて。同じです（笑）。
多分、結局、経営者の人とかって、そういう人を何人持てるかだと思うんですよね。これは別に圧力を感じるということではなく、いつも色々なことをやっていただいたり、申し訳ないな、恩返ししなきゃなと思っているので、そういう時に頼まれたら断れないじゃないですか。だから、圧力で断らせないのではない、その人から尊敬されて断らせないしがらみをたくさん作るっていうことが、やっぱりいい経営者のポイントなのかなと。
秋元さんも同じですよ。メールが来た時のことは今でも覚えています。普通の人だったら「その日は休みなんです」で解決しますけど、秋元さんからアルゼンチンのブエノスアイレスにいた時にメールが来て、僕としては「秋元さんからメールが来た。なんとか、秋元さんを喜ばせなきゃ」と思うわけです。頼られていることに、相手が想像している以上の答えを出した時に、自分が認められると思って返すわけですから。そういう人を何人作るかが大切かなと。
秋元：こういうのでよく「人脈を作ろう」みたいなのがあるじゃないですか。僕、人脈は作れないと思うんですよね。後から気づいたら、それが人脈なのであって、人脈を作りにいく人っていうのは、何か信じられない気がするんですよね。
だから若いスタッフに言うのは「仕事と関係ない時にご飯に行け」と。「仕事と関係ない時に、色々遊べ」と。その結果、最終的に話が出来る関係になるのはいいと思うんですけど、それが目的でというのは、すごくイヤラシイじゃないですか。
だから、薫堂君との関係も、全然仕事と関係がなくても、なんとなく面白いなとか。そういうのが一番大事じゃないですかね。
心の中に、頭の中に、何がプールされているか
－質問：企画をする時の気持ちというのは、どういう状態が多いでしょうか？焦っている、ワクワクしている、怒っている。様々だと思うんですけれども、どういう時が多いのかというのを是非教えていただきたいと思います。小山：僕はワクワクしていますよね。これが実現した時にどうなるんだろうということを想像するだけでワクワクしますし。
うちの会社は20人足らずの会社なので、全スタッフの誕生日にサプライズを仕掛けるというのを、企画の練習にしてるんです。社員のサプライズでおもしろいものを考えついた時、いいアイデアが閃いた時の快楽、快感というのがありまして。
それって多分、人が美味しいものを食べた時、「これ、美味しい」と思うから、またそこに行きたいと思うように、「この企画、すごく良かった」と思ったら、それを超える企画を立てたくなる。なので、企画はワクワクした気分と一番相性がいいと思うし、ワクワクしなければいけないんじゃないかなと思います。
ちなみに最近、僕が一番ワクワクした企画は、うちの会社の副社長の誕生日の時のサプライズだったんです。海に泳ぎに連れていって、サメが出るっていうサプライズをやりました。結構お金をかけてサメのラジコンを作りました。人ってこうやって溺れかけていくんだなと。本当に溺れそうになって（笑）。
秋元：本当に薫堂君は楽しい生活しているなと。リア充（笑）。
やっぱり、僕なんかはサプライズが本当にニガテで。誕生日によくサプライズをされるんですよ。僕は５月２日なんですけど、その日が近くなって、ちょっと不審なことがあると、「サプライズだな」って分かっちゃうわけですよね。分かっちゃったのに、驚いたというのがすごく恥ずかしくて。
この間も、AKBのメンバーが誕生日にサプライズで集まってくれたんだけど、その時点で、不自然ないくつかがあって、絶対ここにいるんだろうなっていうのが分かるわけ（笑）。そこに入っていく時の自分がすごく苦しくて、辛くて。僕はサプライズがニガテだなって思ったんですよ。そんなことはどうでもいいんですけど（笑）
僕が企画を考えるのは、心の中に、頭の中に、何がプールされているかだと思うんですよ。だから、"企画メモ"取ることはしないんだけども、出来るだけ自分の中に付箋を付けていく。毎日何もしないで、ボーッとしていたら付けられない。けれども、ジムでトレーニングする時に、「ここの筋肉を意識してください」と言われるように、意識をすると付箋は貼れるんですね。
「こんなことがおもしろいな」とか「なんだろうな」とか。それが企画にとって、すごく大事なような気がするんですよね。つまり企画というのは、何もないところではさすがに生まれないんですよね。だけど、何かがきっかけになる。糸口になる。
例えば、30数年前に、ロスに行って、チャイナタウンでご飯を食べ終わった後に、会計をしたら、最後トレーに載せて、クッキーが出て来たわけですよね。クッキーを割ると、中に占いが入っている。「これは何ですか？」と聞いたら「フォーチュンクッキーって言うんだよ」と。要するに、占いみたいなもんだよねと。
これがずっと引っかかっていたんですよね。それが30数年経って、『恋するフォーチュンクッキー』になる。そういえば、今のクラブとか行っても、みんなバラバラに踊っていて、つまらないなと。僕らが高校生・大学生の頃は、ディスコに行くと、みんな同じ方向を向いて、同じステップを踏んで踊っていたので、そういうディスコ音楽を作りたいと思ったのが、『恋するフォーチュンクッキー』だし、詞を書こうと思った時に「フォーチュンクッキー」が浮かんでくるわけですよね。
だから企画を考える時っていうのは、ワクワクするのもあるんですけど、自分の頭の中に、おもしろいことが最近なかったかなっていうことをサーチしている感じですかね。そのためには、何かちょっとしたことでも、不思議だなと思うものがあったらいいんじゃないかなと。そういうことを覚えていたり、見たりするといいかなと思います。
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予定調和の"予定"を排除すると差別化ができる
－質問：大事なポイントが「差別化」というお話だったかと思います。例えば、他のサービスとの差別化だとか、他のコンテンツとの差別化だとか、他企業との差別化だとかを考える時のポイントっていうのは、何になりますでしょうか？小山：さっき秋元さんが言われたことに近いかもしれないですけど、天邪鬼になってみるっていうことはあるような気がするんですよね。僕は自分の中で"神様にフェイントにかける"ってよく言うんですけど、神様とか人々はこう思っているだろうなと思うことと、あえて逆のことをやってみる。自分が天邪鬼になったつもりでやってみるというのが、1つの差別化に繋がるのではないかと思います。
秋元：これも薫堂君との話ですけど、お互い食べることが好きなので、好きなものを持って集まっている時に、薫堂君が名古屋の『天使のババロア』を送ってくれたんです。単に美味しいというだけでは、僕の記憶には残らないんですけど、その時に薫堂君は、一輪の花を入れていたんですね。「この花が枯れるまでに召し上がりください」と。
「賞味期限」という無粋なものではなくて、この花が萎れるまでというのが、刺さるじゃないですか。賞味期限がいつまでというよりは、花が萎れるまで、ということを考える。そういうことが、「差別化」だと思うんですよね。
つまり自分だったらどうするか、自分だったらどっちを取るかというのが常にある。
例えば、昭和の時代であれば、シャンプーの泡立ちが良くて、香りが良くて、エコロジカルであれば良かったけども、今はどれも同じだと。そうすると、何で差別化されるのか。もちろん、タレントの誰々さんが使っているシャンプーとかもあるけど、もしかしたらそこで、モーニングシャンプー専用の、"すぐ乾くシャンプー"というのがあったら、それは間違いなく使うだろうなとか。
そういう他にはない、"オンリーワン"であるためには、どうしたらいいかということを常に検証しますね。
僕らはよくコンペがあるわけですよね。昔は勝つためにどうしたらいいかっていうことを考えていたんですけど、最近は別にコンペじゃなくても、自分の中の"お約束"を作るんです。例えば、「社歌を作ってください」というのがあった時に、まず、よくある言葉を全部排除しようと。「夢」「明日」「希望」「未来」という言葉を排除して、どれだけ作れるか。
予定調和の"予定"を考えて、あるいは、"みんながこうしてくるだろうな"ということを考えて、それを全部排除すると差別化ができるんじゃないかなと。他所がこうくるだろうということを予測して、それとは違うものを作る。そうすると、予定調和から外れて、差別化になるんじゃないかなと思います。
