※この記事は2013年08月10日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第284回

　暑い夏には、脳みそまで煮えて溶けちゃう人が多いのだろうか？ 　ここ数週間、店舗従業員が店の冷蔵庫や冷凍庫などに入り込んで撮影した写真を、わざわざSNSなどで晒して、店舗が謝罪をするという問題が頻発している。 　世間ではこうした事件は、責任感を持たないアルバイトが、遊び半分で社会的影響も考えずに行う愚行として受け止められているのだろう。

　発端というか、これらの問題の先陣をきったコンビニのアイスケースに従業員が入った事件(*1)があったが、かつて６、７年ほどコンビニでバイトをしていた立場からいわせてもらえれば、単に涼を取るだけなら、ジュースなどを補充するウォークインに入ればいいだけのことである。

　ちなみにコンビニのウォークインとは、ジュース棚の後ろにある補充用のスペースのことで、在庫も冷やせるように、その部分がすべて冷蔵庫になっている。もちろん元々店員が入って補充を行う設備だから、入っても何ら衛生上の問題はない。

　それでも、わざわざアイスケースに寝そべったのは、もちろん写真を撮ってそれを見せびらかしたかったからだろう。本人の中では、ちょっとおもしろいネタとしてしか認識しておらず、まさかニュースになったり、チェーンの本社が謝罪を出したりするような大事になるとは思っていなかったに違いない。そのあたりについては、僕の考えも、世間の受け止め方とさほど違いはしないだろう。

　そんなことを考えていると、ふと別の問題を思い出した。とあるうさぎカフェが閉店することになり、従業員が「（うさぎが）処分されそうでコワイ」という書き込みを独断で行った。結局、うさぎたちは別の店舗に引っ越すことになったが、従業員の「本当に経営者は（うさぎを）商品としか見ていないので」などと、店側を批判するような内容も書かれていた。

　この従業員が経営者側とどのような関係を築いていたかは分からないが、少なくとも従業員側は経営者に不信を抱いていた。職場に人間関係の軽視が、結果としてこうした問題を引き起こしてしまった。

　店の冷凍庫などに入ってバカ写真を撮影する従業員と、うさぎが好きであるがゆえに、暴走してしまった従業員。一見全く異なる行為に思えるが、僕は「自らの属性をネット上に過剰に露出させている」という点で、全く同一の行為である。僕はそう見ている。

　冷凍庫に入って、それを撮影してネット上に晒してしまうのは、やっている本人がそれを「楽しいこと」だと思っているからだ。一方でうさぎカフェの店員はそれを「正しいこと」だと思ったのだろう。そのいずれにも強い自己主張がある。

　「面白い私」や「動物好きの私」というセルフイメージを他人に伝えるためにネットを通して晒し出す。本人は友人の範囲にしか届かないと思っているが、実際は世界全体に届いてしまう。それはネットがコミュニケーションの定礎となった時代だからこそ発生する、自分が晒したモノが届く距離の認識と現実の齟齬という問題である。だがこうした問題はメディアリテラシーを彼らに教えることで、解決する問題なのだろうか？　僕は解決しないと考えている。

　なぜなら、インターネットを通したコミュニケーションが定礎になった時代においては、かつての共同体ばかりではなく、ネットを通じて外部とつながることも必然となっているからだ。そうした社会において、田舎のコミュニティの住人たちが地域行事に参加することが必須なように、若い人たちもまた、ネットを通して自らの意見やパーソナルイメージを晒すことを心的に強要されているのかもしれない。

　ネットという広大なエリアの中で、自分の存在を他人に見つけてもらうために、他人に自分の存在を伝えなければならない。そのための手段として一般的に見れば問題のある過剰な行動が選択されてしまう。

　この問題を笑う人たちも、多かれ少なかれ、ネット上では過剰に飾り立てた、本来の自分とは似ても似つかない人格を演じているのではないか？ 　そうした状況で、問題行動が発生していることを、当人のリテラシー能力の問題なのだと、単純に切り捨ててしまっていいのだろうか？

　これだけ同様な問題が続発する以上、そこには何かしらの理由があるはずだ。この問題を個人の問題としてバッサリ切り捨てるべきではないと、僕は考える。

*1：加盟店従業員の不適切な行為についてのお詫びとお知らせ（ローソン）http://www.lawson.co.jp/emergency/detail/detail_78348.html