インターネット選挙運動の解禁は政治をどう変えるか ～One Voice Campaignイベントレポート - BLOGOS編集部
※この記事は2012年12月03日にBLOGOSで公開されたものです
インターネット選挙運動の解禁を求め活動するOne Voice Campaignが中心となって呼びかけた第３回イベント「インターネットと『新しい政治』―その実現へ向けて」が11月29日に開かれた。日本は公職選挙法により、選挙期間に候補者本人・政党がホームページやSNSの更新を行うことはもちろん、第三者がネットで言及することも許されていない。しかし、ネットで党首討論が行われるなど、ネットと政治に関係は確実に変わり始めている。この状況を踏まえ、今回のサミットではネットが解禁されると、政治はどう変わるのか？、そして今の状態でもネットでできることは何かなど、前向きな議論が交わされた。（編集部：濱田敦子）日本人の民度がモロに試されるツール
津田大介（以下、津田）：このサミットは今日で３回目で、１・２回目を通じて超党派でがんばりましょうという機運はできてきました。それに、世の中の流れ的に通らざるを得ないという状況まで来ているので、そのうち必ず通るでしょう。だから、今日は通った後に我々と政治との関わりがネットでどう変わるかと言う話も含めて議論していきたいと思います。
オリンピックから政治の話題まで、twで発信を続けている為末さんにうかがいます。特に311以降に国民と政治が遠くなったと言われていますが、為末さんはどんな風に感じていますか？ネットで政治はどう変わると思います？
為末大・プロ陸上選手、株式会社R.project取締役（以下、為末）：政治って、何と何が争っているのかよくわかりません。協力できないのはわかるんですが、じゃあ何が協力できるのかが全然見えてこない。その雰囲気と、twで相手を踏みにじる感じや、徹底的に違うものを避ける雰囲気がなんとなく似ているように感じています。だから、ネットを解禁しても日本人に民主主義的感覚が生まれるか疑問で、今のままでは解禁したところで「こいつを当選させようぜ」みたいなノリの運動が起こったり。民度がモロに出るものなので、プラスだけでなくマイナスの面も出るのではないか思うのですが。
津田：実は僕の新刊『ウェブで政治を動かす！』にそのあたりの答えが書いてあるんですが（笑）、非常に重要なご指摘ですね。メディア化されたら紙代などコストダウンになるとか、政治が身近になると言いますが、ネット選挙運動先進国のアメリカを見ていると違う問題も出てきました。先日の大統領選ではオバマだけでなくロムニーもネットをがんがん使い、大量の献金を集めた。そのお金を何に使ったかと言えば、メディアコントロール。つまり、紙代などのコストは減ったものの今度は情報戦になり、ネガティブキャンペーン対策にメディアコンサルタントや代理店がつける必要が出てきたんですね。
藤末健三・民主党参議院議員（以下、藤末）：アメリカのように何でもやるのが前提だと暴走するでしょうが、日本は元々がんじがらめの中で、さらにネットもダメ。解禁してもやれることが増えるという段階なので、良い方向に動くと思います。それに、アメリカと日本では選挙に使うお金も桁違いですよね。とにかく私は、ここで議論をしていないで実証してみたいんですよ。全国比例の参議院選なら可能性があると思っていて、そこで一切プリントを使わず、インターネットだけの戦略で議員を誕生させたい。今は特定な政治基盤がある人しか出馬できませんが、そうなれば普通の人にもチャンスが出てくると思うんです。
平将明 自民党前衆議院議員：ネット献金の話については、日本では集まらないですよ。ホームページやtwを使って定期的に「献金してください」と楽天のネット献金ページに誘導をかけていますが、集めたいお金の100分の１程度というのが現状です。でも、おそらく１億とか２億というお金が選挙にかかっていたと思われる中選挙区の時に比べ、小選挙区なら東京で２～３千万の選挙戦となったので、今までのように無理にお金を集めなくてもなんとかまわるようになりました。小選挙区になって「小者が増えた」などと言われたりもしますが、巨額のお金が必要だった中選挙区では、お金を出してくれる既得権益と結び付きやすかった。そういう意味で、お金がかからないようにするというのはとても大事だと思います。
それと、やっぱり構造を変えないとダメだと思うんですよ。今の公職選挙法では手足を縛られ、組織化された団体をもっていないと苦戦する。ここにネットという武器を与えることで、新規参入しやすくなると思います。さらに新規参入した後も、ネットを使えば既得権益の上に立つ候補者の情報発信に決して遅れを取らなくなる。民主党の組合勢力と、自民党の既得権益に新規で割って入りやすくするツールとして、ネットを解禁するのが重要だと思います。
津田：議員になるには地盤、看板、カバンがないとダメで、既得権益のある人しかなれないというのを打破するものとしてネットがあるということですね。一方で、多くの人にとって投票行動を選ぶためのネット使用がありますが、それがアメリカのようにネガティブキャンペーンだらけになるかは、仕組み作り次第だと思います。アメリカではネガキャンがある反面、市民メディアがFACTチェックを行っています。自民党の世耕議員などもおっしゃっていますが、プロバイダー責任法を改正するなど、公示期間中のネガキャンに対応するシステムを作るべきですよね。それともう１つ、ネットの活用は、ポピュリズムを加速するものでもあると思うのですが、このあたり宮台さんはどうお考えですか？
不完全情報を克服しリベラル化をはかる
宮台真司（以下、宮台）：ネットの特長を生かし、民主主義を妥当に機能させる条件を考えてきた人物に、アメリカのサンスティーンがいます。彼は逆に「どういう条件があると、民主主義が集合的極端化をするか」について、２つのことをあげています。第一が承認を求めてポジショントークする人が溢れたとき、第二に情報が「不完全情報」の状態であるとき。つまり情報が完全じゃない状況の下では、ポジショントークをする人が極端な発言をすると、ピュアで男気があって潔く見え、それに反対する人がまるでへたれに見えるという極端化が生じるんです。同じように丸山眞男が「共同体が空洞化すると、クレージークレーマーが増える」というようなことを言っています。さらにそういう人が知識社会から疎外されていたりすると、歴史や社会や政治を知らない人間だからこそ軍事外交問題などで「やっちまえ」となり、世論がそちらに押し流されて、最終的には政治家が抜き差しならない状況に追いやられてしまうんですね。これをなんとかしなければならない。
熟議型世論調査の提唱者であるフィシュキンは、「共同体が空洞化する中でポジショントークをする人間が溢れるのはある程仕方ないことで、これは対処し難い。しかし、不完全情報を克服することはできる」と言っています。それは、極端な発言をする人間の言った通りにすると何が起きるかやがて適切な情報が与えられたり、対立な立場の人たちの議論から、どちらが優勢かを我々が見ることで克服されます。数合わせや動員のための議論ではなく、きちんとした話し合いであらゆる熟議が行われて完全情報化していくと、必ずリベラル化して極端化を避けられるんです。
だから、ニコ生やニコ動など、コメントを見ながら動画をサイマルに配信できることもひとつの追い風になり得ますね。とにかくネットの中でポジショントーク極端野郎がただのへたれだということを明かすようなシステムや、オフラインでインターネットの弱点を克服するような仕組みを作っていく必要があると思います。
津田：ポジショントークと不完全情報という話にあったように、実行されるべき政策が歪んだものになっていくことがあると思います。ここで関さんにうかがいたいのが、楽天の薬のネット販売の件。あの審議では、人ってここまでポジショントークしかしないのかと感じました。あの問題にネットがどうかかわったか、ぜひお聞かせいただきたいのですが。
関聡司・新経済連盟事務局長（以下、関）：ネットはビジネスでも日常でも活用されている重要な通信手段で、特殊なものではありません。だから、ネットだからと特別扱いしてどうこうと言うことに違和感があります。薬のネット販売の件に関しても、通信販売のひとつの手段としてインターネットを使ったという性質のもの。販売することで国民の健康に被害や悪影響を及ぼすのであれば規制が必要だと思いますが、当時の厚労省も危険だと明確にすることができなかったために、現在裁判所で争う事態になっています。
ネット選挙運動にしても同じで、重要な通信手段であるインターネットを国民に使わせないというのは国の大きな不備です。情報の発信にも受信にも、インターネットは重要な位置づけとなっているので、ことさら情報が必要な選挙で制限することはあってはいけませんね。
原田謙介・One Voice Campaign発起人（以下、原田）：僕は単純に何かに興味を持ったり、もっと知ろうとするきっかけになるものとしてある情報を、選挙という政治への興味がいつもより高まるタイミングで、なぜ制限するのか疑問です。縛ってしまうことで、興味をもたないまま普段の政治が進んでしまうことにつながります。そうなると何も変わらないじゃないですか。ネットのコアユーザーである若い人の声を本当に聞く気があるのであれば、早く解禁してほしいですね。さらには選挙期間だけでなく、普段からもっとネットを活用すれば、政治家にも有権者にとっても全体としてプラスになると思います。
政権交代後が物事を進める最大のチャンス
津田：ネットが特別なものでなく、日常のものだというのは一般的な認識だと思います。けれど、議員にはそこに深くて大きな谷がありますね。会場から「議員のネットリテラシーの低さが問題だと思いますが、それをどう向上させていけばよいと思いますか？」という問題提起がきています。
平：確かに議員のITリテラシーは低いですね。数年前に僕がiPodで音楽を聴いていたら、「どこにカセット入っているの？」と言った人がいたくらい（笑）、恐ろしいレベルです。でも、これからかなりのスピードで世代交代していくことは間違いありません。そうなると、リテラシーがないから嫌というより、剣術の世界で実力があるのに、鉄砲が出てきちゃったというような話なんだと思うんです。鉄砲を許容すると剣術が不要になるという新撰組のような心境で、できるだけ剣術の時代を長くすることで、自分の現役の時間を延ばせると。だから、あえてそっちを見ないようにしているんですね。僕ら若い議員は、小選挙区で勝つためにネットを使いたいんですが、「親子代々３世代」なんてやってきた人は固まった票で戦うので、そこに新たな武器は与えたくありません。
世耕さんが「なんとなく進まない」と言っていたのは当たり前の話で、そういうのはタイミング、つまり勢いのあるうちに崩さないとダメなんです。民主党のチャンスは、政権が交代して鳩山さんが総理になったあの時だったけど、辞めてしまってそのあとは有耶無耶になってしまった。えー、今度はうちが政権をとりますので……
会場：（笑）
平：そうなったら一気にやるべしということだと思います。なぜチャンスかというと、自民党が党として負けた前回は都心部の若手も敗退したので、今は地方のお年寄り議員が多い状態なんです。今回の選挙でかなり若手も戻ってくるでしょうから、そこを“野党の皆さん”と一緒にやっていこうということですね。
津田：自民党がもし政権をとったら私がやりますという公約だと思っていいですか？（笑）
平：自民党の今回の公約に、インターネット選挙の解禁法案を制定しますとあります。書いてあることを交代直後である来年の参議院選挙までにカタチにできるかどうかですね。
津田：まさに選挙前ならではの発言ですね。藤末さん、反論はありませんか？
藤末：騎兵隊ができたとき、武力の独占ができなくなって侍階級が滅んだんですよね。ネットを解禁して新しい戦い方が生まれると、今まで地盤・看板・カバンと積みあげてきた人に不利になるので、そういうのが得意な人が新しいルールを拒むというのは私も同じ意見です。
鈴木崇弘・城西国際大学大学院客員教授（以下、鈴木）：インターネットというと若い世代を言いますが、団塊の世代も結構使っていますよ。私なんかは、もっと政治家にメリットを売り込んだらどうかと思うんですが。
インターネットの情報は玉石混淆
宮台：３１１の福島原発の事故以降、多くの方々はマスコミ情報には石しかないけれど、インターネットは玉石混淆で玉があると理解しました。マスメディアよりネットの方が質の高い情報が転がっているということを、事実として目にしたわけです。その結果、メディアは正当性を失いました。同じようなことが審議会や国会の議論でも言えます。
官僚が人選した段階でシナリオがほぼ100％決まっている審議会制度の議論の中身は、非常に低水準な石です。とすると、ネット選挙運動の解禁は、玉石混淆の空間で政策を通じてバトルをしなければならない段階へのシフトを意味します。例え団体に所属していても、人々が政策を比較せざるを得ないような状況に追い込まれる。そうすると面従腹背が起こる可能性も出てきます。
つまり反対する人の本音は、従来の議論になら耐えられても、インターネットに存在するような高度な議論に耐えられない。ネット選挙運動をめぐる議論をとっても、国会とネットで交わされるどちらの議論の質が高いか？ 言うまでもない。おまけ的に言うと、マスメディアもネット選挙運動に関してはそこまで積極的になれない理由があります。今は政局記者がアホな政局報道ばかりをして、政策議論をせず、プロレスを見ているような気分で人々を選挙に導引する。マスメディアに猛省を促すものがインターネット選挙運動だと思います。
津田：最初はなかなか解禁は難しいだろうと思っていたんですが、ここ１～２か月の間に急速に状況が動いたというのをヒシヒシと感じています。その象徴が党首討論をテレビじゃなくてネットでやろうとなった一件で、民主党も自民党もひとつのメディアとしてニコ生をあげるようになった。これは、大きな変化ですよね。為末さん、何か意見はありますか？
為末：僕もだんだんネット選挙の問題がわかってきました（笑）。自分に当てはめてみて思ったのが、僕って卑しい言い方ですが人当たりが好いんですよね。
会場：（笑）
為末：地方のおじいちゃんなどにとっても好かれるんです。それで、ひとつ思ったのが、ネットではそのチカラを使いにくいなと。
津田：ニコニコして握手していればよかったのが、ダメになったみたいな。
為末：そうですね。文章だけだとツンケンしているように取られる。そうじゃない雰囲気を出したいんですけど、ネットでは出しにくい。だから人当たりみたいなものが武器な人は、やりずらいと感じるだろうと思いました。まさに僕はそれを武器だと思っているので、もし自分が政治家になるとしたら、この技を使えないのは嫌だと思いました（笑）。今までの話だと、iPhoneで街頭演説を撮って、ネットにあげるのもアウトということですよね？ 個人がやってもダメなんですよね？
津田：ただ、ユーザー全てを規制することなんて絶対無理ですよ。宮台さん、なんで総務省はここまで頑なにNOを出すんでしょうか？
宮台：わかりやすい例が、楽天の薬販売訴訟でしょう。どうして厚生労働省とその審議会が否定的な結論を出すかといえば、厚労省の背後には政治家がいて、その背後には薬剤師を中心とする権益団体があるからです。ロビーイングの主力は、権益を持つ古いタイプの人たち。新しい人たちはロビーイングパワーを持っていません。今はロビーイングでルートを持っている旧勢力のほうが政治家に有効に働きかけることができるので、審議会や行政官僚に自分たちの都合のいいルールを作ってもらうことができます。この構図の中にこそ、官僚たちの天下りを含めた生来的権益があるんですね。これからは新しい経済プレーヤーが出てこなければならないし、出てきつつあるものの、そういう人が適切なルールメイクができない構造になっている。官僚も新勢力に関しては天下り先がどうなるかわからないので、もうすぐ定年みたいな人はNOを出すんです。
ロビーイングを制する者がルール作りを勝ち取れる
津田：なるほど。そうなると、ネットの参入でロビーイングがどう変わるかという話がありますね。
平：政治に積極的に関わろうという人は、予算でお金をもらえる人か、税制で税金をディスカウントしてもらえる人か、規制で守られている人が主で、そういう人は組織化されています。しかし、価値観の多様化に伴って政策が多様化してくると、予算でお金をもらえるわけでもなく、税金をディスカウントされない、つまり組織化されておらず、まとまった献金や、まとまった投票行動をすることのない人の方が圧倒的に多くなる。そういう状態で「何が国益か？」といった時に、国民と永田町の「国益」にギャップが出てくるんですね。
組織化されていない人が政治的パワーを発揮するツールとしてネットがありますが、中選挙区から小選挙区になったのはとても良いことだと思っています。なぜなら、中選挙区では５人ぐらいの候補者が出ますが、投票率を5割とすると１割の人の面倒をみてあげると議員になれてしまう。しかし、小選挙区だと既得権や組織化された人だけのケアをしていても、無党派層で過半数とらないと議員になれない。一部の団体の意見にそうだと言っても、無党派層に「それはおかしい」と言われて議員になれない。だから、小選挙区という選挙制度とネットが両立することで、国民と政治家の国益にあったギャップが狭くなると思います。
津田：企業団体献金についてはどうお考えですか？
平：企業団体献金は額が問題なんですよ。私は２万円の政治資金パーティーもやっていませんし、まとまったお金ももらわないようにしています。個人献金と言って実は個人という名の組織ということもある。とにかく個人だろうが、企業だろうが影響力を受けないように国事分散して、支配されなければいいんだと思いますね。
藤末：企業団体献金は禁止するべきです。私は政治資金報告書に一切の企業名が載ることがないような議員活動をしています。組織化された人の資金や票は、何らかの形で政治を狭めますよ。そういう組織的な資金の流れを止めて、個人の寄付をしやすくすることが大切。ネットで献金することもひとつのやり方ですし、寄付した人が税額控除を受けられるなどのインセンティブを作る必要があると思っています。
平：藤末さんは別としても、参議院の方がやばいんですよ。全国区だから特定の業界だけケアしていれば受かっちゃう。組織内候補で、そこだけがんばっていれば安泰なんです。だから政治改革やるなら参議院をなくして一院制にしないと！
宮台：国際比較をして冷静に考えるべきポイントですね。政治資金に関してヨーロッパは企業団体献金を全面禁止としていますが、アメリカは合法化する代わりに全てを公開するようにしています。完全に公開することで、議員の活動がどの程度ロビー・献金団体の思うがままになっているか、またはそれに抗ったり独立した活動をしているか見ることができます。さらに昔から、そういう議員の公共活動の有無について、ネットで人々に告知するようなネット運動もある。日本はアメリカのような文化的傾向がまだないため、アメリカのような形では実現できないでしょう。議員活動をウォッチする人数が日本はまだまだ少ないと思います。
もうひとつ、アメリカは選挙に巨額なお金が動きます。もともとアメリカではそういう選挙活動が許容されていて、なおかつルールメイクが議会、つまり州議会と連邦議会で専ら行われるんです。そのため、ロビーイングパワーをもつNPOが自分に有利な法律を作り、ますます巨大化する傾向にあり、グラスツールのNPOがほとんどなくなって巨大企業化してしまった。政治家や行政官僚たちが取りこぼす公共活動を担うはずだったNPOなのに、ロビーイングパワーをベースにして自分に有利な法律を作る仕組みがあるせいで、本来の機能が損なわれてしまったんです。
これをどうにかするには、ロビーイングパワーをもつ人間がルール作りに影響を及ぼせる枠組みを、なんらかの形で変えてしまうのが大事です。ロビーイングパワーを制限するとか、ルールメイクを議会に任せず、絶えずそのほかの枠組みでチェックするとか。ともかく、アメリカの大統領選挙は今回も36の州で住民投票が行われました。日本はマスコミが愚昧なので全然住民投票について報じませんが、アメリカは住民投票でルールメイクを編成するシステムにはなっているものの、それでもNPOの偏りを変えることができなかったという歴史的事実があると言っておきます。
原田：まさにOne Voiceもロビーイングをしていますが、僕らは発信によって意見が活発化し、イベントが行われ、議員の方と会うというその変化の過程をネットで見せる努力をしています。どういう過程を踏んで、どういう声が政治を変えたのか。今は投票に行っても、その1票がどう影響したか全くわかりません。だから、ネットでロビーイングを行い、その過程を可視化することで、ひとりひとりの声や１票のチカラがどういうものかわかることが大事だと思います。
現場の声をどう拾い、政策メーカーにどう伝える？
津田：政治家と企業・団体との関係という従来型のシステムは、戦後のあるタイミングまでうまくまわっていました。しかし、情報公開が増え、しがらみが増え、社会が複雑化したことで、その関係性が変わってきたように思います。関さんは、企業からの政治アプローチは今後どう変わっていくと思いますか？
関：政治家や役所は、ビジネスが今どういう状況にあるか正しい知識をもっていません。だから、企業は彼らに対して情報のインプットをしてく必要があり、それがロビーイングの基本です。中には政策提言的なものもあると思いますが、日々ビジネスがどう動いているか、最近の状況や技術の動向を、積極的に政策メーカーである政治家や行政に教えていかなければなりません。
津田：企業が政治家や行政のシンクタンクになっていくイメージに誓いですか？
関：少なくとも新経済連盟はその役割が果たせるように努力しているところです。
鈴木：直接ネットとロビーに結びつくかわかりませんが、少なくとも戦後の何十年かは役所の下に業界がつき、業界から役所に情報が上がり、その情報で法案を作り、国会で議論されて法律ができるという仕組みだったと思います。ところが、今は、非正規労働者が６割を超え、今までのように業界や企業に入っていない人が増えちゃったんですね。そういう人の、現場の声を救うチャンネルやメカニズムを行政も政治も作らないと、現実に即した政策立案ができないでしょう。
もうひとつ企業の話で、各業界団体や業界の中の特定企業と、他の同じような業界の中の企業の中で利益相反が起こっている状況があるように思います。そういう意味で、もっと細やかなロビー活動が生まれてくると思っていて、そういうときに現場に近い声を集めるツールとしてネットに可能性があるのではないでしょうか？
為末：直接民主主義が成り立つなら、政治家の仕事は何になるんでしょうか。今日の話を聞いていると、選挙に夢中になる人たちは何か良い思いをするからということでしたが、ネットを解禁したところで良い思いをする人たちが投票することになりそうですよね。解禁することで国民の意識が高まったりするなら変わると思いますが、それにはそういうシステムが必要ですよね。それって何なのでしょうか。
津田：会場からは「アメリカは党の政策が大きく差異を示しているからこそ、政策議論ができる。日本の政党はアメリカほど政策の違いが明確でないように見える。そうなるとインターネット選挙になったところで変わるのか？」という懐疑的な質問が来ています。
宮台：もうすぐ開かれる総選挙を見てみると、脱原発、TPP、増税の是非が争点になっていますね。でも大きな政党を見れば、民主党は政策に合意しない人は切り捨てるという純化を図っていますが、それぞれ内部はバラバラ。なぜそうなるかと言えば、従来の団体的動員に依存する選挙運動を主体としているのに、団体の利害に必ずしも結びつかない、様々な価値の軸が争点になっているからです。
アメリカには３万人のロビイストがいますが、日本の団体的動員に基づいた選挙運動の背後に存在する権益団体と、その価値の軸はあまりに貧困。逆にネットを通じた政治運動が広がることで、こういう非常に貧しい価値の軸しか共有していない団体ごときに、政治のイニシアチブを担わせないという、非常に大きな機能が期待されます。集合的極端化を含め、様々な悪い可能性をどのように抑止するかについては実に多様な統計データがあるので、そのデータを基に制度設計を行うことが必要だと思います。
解禁していなくても選挙中にネットができること
津田：今回は政策に関心を寄せている人が多いと思いますが、平さんはどう思いますか？
平：いろんな意見がある中で、落とし所を決めるのが政治の役目です。だから、党内に多様な意見があるのは当然のことですが、党としてどうするかを明確にしたものが「政権公約」であり「マニフェスト」です。そしてこれを逸脱して候補者が好き勝手言っていいわけではないので、政党法のようなものを作りガバナンスすることが必要だと思います。重ねて言いますが、新規参入しやすくすることが大事ですよ。そのためにネットを使って、選ぶ側も十分に情報を出せる状況を作る。マスコミが機能していないのであれば、ネットで情報の根詰まりを取り除かないと。
藤末：ネットは自分で動画を流せますよね。私はそれがやりたいんです。テレビだと必ず都合のいいようにカットされてしまいます。個人が持っている色々な要素を発信できるものとしてネットがあるんです。さっき為末さんはネガティブなことを言っていましたが、私はネットでずっとしゃべっていれば地が出ると思いますよ。むしろ、ネットの方が違いが出るんじゃないかと思います。
津田：会場から最後の質問です。「平さんがおっしゃるような、インターネットを使いたくない旧来型の候補者を当選させないためにはどうしたらいいですか？」と。僕は自分の選挙区の候補者のHPを一通り５分ずつでもいいから見たらいいとアドバイスしていますが、解禁まで行かなかった今回の総選挙で、有権者がネットで何ができるでしょうか？
平：我々は規制があるので発信ができなくなりますが、例えばOne Voiceのホームページには、それぞれの政治家がネット解禁についてどういう見解を持っているか出ています。そういう情報があると発信を行って、「解禁に熱心な人を応援しようよ」と、ネット上で広げてもらうのが大事だと思いますね。
宮台：僕はあくまで総務省の見解なので、選挙期間中も平然とやったらいいと思います。しかし、ヤバイと思う人がいるのは仕方がないこと。だから支持する政策があるなら、その人に代わって有権者が政策やその妥当性をネットで発信し、その政策に反対する人と議論してほしいと思います。大きな政党の内部は実は本音はバラバラで、党議拘束に従っているというのが実情ですから。それと、ウェブサイトがあるのは最低条件ですよね。持たないとか、あるいはそこに政策を載せていないという人は、候補者の資格がないんじゃないんですか？ だから、サイトがない人、また意味のない情報しか載せていない人を選択肢から落とすというのがいいと思います。
津田：おお！わかりやすくていいですね。
原田：今の話と同じですが、サイトを持っていないや持っていても更新をしていない人は、多くの有権者に発信する気が全くないということです。一方で、自分の後援会のようなところには細やかに政策ビラを送ったりしている人たちなんだと思います。そういう人が多くの有権者の為になることをやるとは思えないので、ホームページの更新履歴をチェックするだけでもわかることがあるんじゃないでしょうか？
投票に行ってネットが投票行動に影響することを示そう
津田：ITリテラシー議員偏差値みたいなものを作りたいですね。最後にネット選挙運動はいつか解禁されると思いますが、そのときにきちんとした形で解禁されるよう圧力をネットでかけていく必要があると思います。ネットが解禁された明るい未来に何があるのか。一言ずつお願いします。
原田：解禁すれば、政治家とSNSを使って直接やり取りし、そこで思っていることを聞くことができます。逆に政治家側も、何か言いたいことがあった時に発信して意見を聞けます。政治家は日本全体に約４万人いますが、その人に直接会う機会はなかなかありません。でも、SNSならやり取りができます。一番政治的関心が高まる選挙期間中に、SNSを通じてやり取りができたら、何かを選ぶときに対話するという最低限のことができるようになります。
津田：解禁しても、その先の活動ができそうですね。
関：新経済連盟では投票に行こうというキャンペーンをやる予定です。ネットで情報を収集する人が、投票に行かないと意味がありません。ネットの情報発信が、投票に影響を与えるということを議員に知らせる意味でも是非、投票へ行っていただき、さらにはSNSなどを含めて友人にも働きかけをしてほしいと思います。
為末：ネットはツールであって、目的は民主主義をどう良くするかということだと思います。スポーツ選手のセカウンドキャリアの問題があって、引退後の就職先がないという問題もそうですが、なんとかしてくださいという声はあるけれど、じゃあ、なんとかしようという声は少ないです。あっちの人が解決してくれて我々は受ける側＝意見を言って実行してもらう側という垣根がネット選挙運動で崩れ、政治が自分の側にあると思えるきっかけになっていくといいと思いました。
平：ネット選挙運動の解禁に向けてこれからも活動を続けますが、今後どんどんITの技術革新が起こるでしょうから、仕組みも進化しなければなりません。長い議員生活の中で役所の出す資料がどれだけいい加減かわかっているので是非、最先端の技術にあった政策づくりに皆さんのチカラをお借りしたいと思います。
藤末：平成の長篠の戦いをやりたいですね。ネットだけで国会議員を作るシンボリックなことをできれば、大きな流れができると思います。構想を実行するためにも皆さんのお力を貸してください。
宮台：ネトウヨの影響力は以前ほど大きくなくなりました。それはナマポの問題や外交の問題で、だんだんと完全情報化してきたからです。完全情報化すると、ただのポジショントーク野郎がポジションを取れなくなります。僕は保坂展人世田谷区長が候補者だったときに推薦人だったのですが、彼が当選できたのは奇跡だと言われました。ご存知のように311以降、インターネットの情報がバッググランドにありましたが、候補者６人の中で原発について言及していたのが保坂さんだけだった。なぜ票が集中したかは明らかで、選挙に先立つインターネットの普段の活動が、政治家を選ぶ我々の価値軸に影響を与えたんです。だから普段から社会にとって重要な論点を絶えず明るみにし、なおかつポジショントーク野郎が過激なことを言って承認されるようなへたれ空間をつぶしていくことが必要なんです。すべての論点について、普段から分厚い議論を整えるのが、それを排除することにつながります。
鈴木：前回の参議院選挙のとき、自民党はHPの書き換えを行っていましたよね。だから、もうやってしまってください。そして、ネットで情報を確認し、必ず投票に行ってください。
津田：今日の話は解禁した後も重要な議論になると思います。本当にありがとうございました。
