地盤＝組織、看板＝知名度、カバン＝資金のない選挙の戦い方 日本政策学校シンポジウムレポート - BLOGOS編集部
※この記事は2012年11月24日にBLOGOSで公開されたものです
日本政策学校主催のシンポジウム「政治を可視化・双方化する」の第３弾「三バンのない選挙の戦い方」レポート。公職選挙において当選するために必要と言われる３つの要素「三バン」（地盤＝組織、看板＝知名度、カバン＝資金）。しかしこれは長い間地元に根付いて初めて手に入るもの。では、この３つがないところから始める場合、どのように戦えば良いのだろうか？正に三バンがない政治活動により選挙にのぞんだ飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長、吉田雄人横須賀市長、樋渡啓祐武雄市長が、体験を元に持論を展開。これから政界を目指す受講生が熱心に耳を傾けていた。（取材・撮影：濱田敦子）
まずは愚直に思いを有権者に伝える
金野索一日本政策学校代表理事（以下、金野）：今日は「三バンのない選挙の戦い方」をテーマに、政策と言うより実践的にいかに選挙で勝つかを議論したいと思います。今日お迎えした３人は、まさに三バンのない政治活動を体現されてきた方々です。武雄市長の樋渡さんはオンラインでのご参加になります。まずは今日のテーマについて自己紹介を兼ねてお話しください。
飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長（以下、飯田）：今年７月の山口県知事選に出馬しました飯田です。私は落選したのでどこまで参考になるかわかりませんが、まさに地盤・看板・カバンのない戦いでしたね。メディアに出ていたので多少は知名度があると思っていたのですが、私のような堅いニュースの人はダメで、事前の調査によると10％程度の知名度からスタートしました。さらに、保守でガチガチな山口で、出馬を決めたのが告示の３週間前という極めて短期間の戦いということもあり、結果は現知事が25万票で当選、私が18万票で落選となりました。しかし、残りの候補も現職の国会議員と県職員という強敵だったにも関わらず、事実上の一騎打ちまで持ち込むことができたので、戦いそのものは非常に良いものだったと思っています。
山口は圧倒的に自民党が強い所で他党の看板を背負うとまず間違いなく負けるため、完全無党派で戦いました。脱原発は非常に大きな争点になりましたが、それだけでは層が薄いため、そこは地方の強みは“地縁血縁”だろうと、私の出身高校の同窓メンバーがフルに動く状況を作ってもらいました。また、第一声は県庁所在地や大都市ではなく、私が生まれ育った中須という総人口300人くらいの村で行ったのですが、これが物語の始まりとなってどこに行っても「中須の出身です」とか、「私の親族が中須の出身です」と、声をかけて頂けたのは良かったです。さらに山口の政治構造の中でネットワークのハブのような役割をしている方と関わりを持ち、お話する中で社会不満を持つ方に支援が広がっていきました。地縁血縁の物語から始まり、今の社会に不満を持つ層に支持を広げていく構図を上手に描けたことが、短期間ながら票を取れたことにつながったと思います。
金野：続いての樋渡市長は、女性と子どもを中心に選挙を行い、30代で現職の市長を破って当選されたとうかがいました。
樋渡啓祐武雄市長（以下、樋渡）：最初に国政と県政レベルの話は、分けて考えたほうがいいと言っておきます。僕らの所は人口５万１千人で、投票率が80％を超えるような場所です。そうなると地盤看板より、女性と高齢者票をどれだけ取れるかがポイント。とにかく戸別訪問を繰り返すうちに徐々に風が吹き、最終的にはダブルスコアで圧倒できました。どこをターゲットに絞るかと、対立軸を明らかにして戦うことがポイントだと思いますね。
金野：吉田市長も小泉さんが応援されている現職市長を破り、30代での当選でしたが。
吉田勇人横須賀市長（以下、吉田）：私は大学院時代の同期に市議会議員をやっている人がいて、背中を押される形で９年前に市議会議員に立候補しました。立候補したときは、当然、地盤も看板もカバンもない状態。そもそも、横須賀市に家を借りるところから選挙活動が始まりました。でも横須賀の高校に通っていたことから次第に仲間ができ、運にも恵まれてなんとか当選できたのだと思っています。
市長選挙に立候補したのは２期目の途中でしたが、33歳という若さと、自民も公明も、民主党さえも現職を応援。さらには当時の小泉総理も相手につくという状況で、絶対勝てないと言われました。これも当選できたのは、正に時の運です。私は「どうやったら選挙に受かるか」ではなく、「どうしたら必要とされる候補者になれるか」を常に考えています。そのために、有権者の先にある時代を見極め、地域社会を背負って、その中で必要とされる人間になるかがカギです。でも、「自分がやりたいこと」と、「必要とされること」の間には常にギャップがあります。そのギャップを埋める作業は候補者が落とし込まなければならないので、その作業から始めるべきだと思います。
金野：地域社会に必要とされる候補者になるという話ですが、吉田市長は具体的に何をされましたか？
吉田：市議会議員に出馬しようと思った時は、「横須賀の街を１番愛しているのは自分」という気持ちや、「選挙に行きたいと思ってもらえるような政治をやるぞ！」という、中身があったかは別として勢いで立候補しました。だから、それを真剣に愚直に有権者に伝えることから始め、結果としてそれが受け入れられて当選できたのだろうと。それとタイミングですね。当時は、市長選挙の時は官僚出身の市長が36年間も務めていて、その方が市長をやめるごとに借金によって大きな箱物が出来上がり、それが次の世代に繋がっていくという構図に市民が飽き飽きしていた。政党や国政のビックネームが地域や街づくりをするのではなく、市民の１人１人がやらねばとみんなが気付き始めていたタイミングだったのだと思います。
金野：吉田市長の今のお話は、国政、地方自治どちらにも通用するお話ですね。
樋渡：僕が仕掛けたのも吉田市長と基本的に同じです。僕の場合は、情熱が伝わるようにお茶の間で面白く読めるようなチラシを作りました。硬い政策の話より手書きのイラストを入れたりして、家族で話ができるように工夫した。あとは、ミニ集会をとにかく数やろうということで参加者が２人いれば開催というようなことを続け、それがだんだん蓄積されて広がりました。それから２年前の選挙ではfacebookもtwitterもなかったので、チラシの他にブログを活用しました。今だったらSNSも連動させてやると思いますが、田舎の選挙は紙が基本というのは実感としてあります。
金野：飯田さんは山口に必要な人材になるために、どんな事をされましたか？
飯田：７月１日から再生可能エネルギーの固定買い取り制度が開始されたのですが、その法案のたたき台は私が13年前に作って国会に持っていたものでした。だから、「その法案の全てが分かります」と売りにしました。それと、エネルギー維新を掲げたんですね。例えば「山口県なら１世帯あたり１年間の光熱費平均が15万円。それを60万世帯で掛け算すると、山口全体で１千億の光熱費となりますが、そのお金は全て外に流れていきますよ」と。「しかし、エネルギーは山口県内での自給が十分可能で、そうなれば１千億円というお金は県内でまわる。これは山口県内の一次産業の総売上に匹敵する金額で、より付加価値の高い仕事ができるようになりますよ」と。こういう話は相手の「山陰道を６千億で作ります」という政策と一番対照的でわかりやすい対立軸となり、市民にスッと入って行ったようです。
地域雇用は自分たちで形にして生み出していくもので、上から降ってくる原発や公共事業ではないということを伝えたくて、伝えてそこに対立軸を作るところまでは成功したんです。しかし、保守層までは時間が足りずに伝わらず、そこは地道にがんばるしかないと思いました。
選挙は同情を誘った者勝ち？
金野：「三バンがない」がテーマですが、逆に「これはあるぞ」という強みはなんでしょうか？
吉田：仲間に恵まれたこと、運が良かったこと、人の話を聞く耳を持っていたことですね。最初の市会議員選挙では180日間駅立ちをほぼ毎朝やったのですが、そのほとんどを友だちが支えてくれた。そういう仲間がいてくれたのはすごくありがたかったし、同じスタイルで選挙をやっていた人があまりいなくて際立てたという意味では、運にも恵まれました。それから、横須賀が大好きと言いつつも、最初は消防団と消防局の違いもわからないほど、横須賀をあまり知らなかったんです。しかし、人の話を聞くのが得意なので、いろんな人の話を聞く中で学びながら、それを議員活動や市長としての行政運営に反映することができました。
樋渡：僕の場合は、現職って、地盤・看板・カバン全部持っているから、それを持っている奴は悪者だともっていきました。
会場：（笑）。
樋渡：僕は吉田さんほど性格が良くないので、いかに同情してもらうかを考えた。選挙は憐れみなんです。「私が入れないと、この人はどうにも立ちいかない」ともっていくために、徹底的に相手を悪者にしました。出馬した時僕は36、相手は68だったので、ご年配の人には悪いんだけど「これからは若い人たちがやります」とした。それから、今でも中が悪いんですが、なんとか協会だのなんだのの組織が向こうについたら、既得権益についている人たちは私たちの邪魔ですと主張したり。非常に保守層の強い地域なので、このやり方には相当批判もありましたが、その時に学んだのは「批判を抑える」より、いかに成層圏を突き抜けた形で炎上させるかが重要だということ。このおかげで結果的に知名度があがり、最終的には「こいつに託せばなんとかなるぞ」という風にもっていくことができました。そして、最後は泣いてお願いです（笑）。
金野：樋渡市長ならではの実行力ですね（笑）。飯田さんの強みも際立っていると思うんですけど、そのへんはいかがですか。
飯田：エネルギーに関して言うと、全く今新しい第４の革命と呼ばれる変革が起きています。選挙が終わってからの３カ月間は山口県民参加型の事業を計画し、全部実現すれば10億円程動きそうなところまで形にできました。でも、問題はエネルギー分野に関してはできる確信があるけれど、どこの地方も直面している少子高齢化や中山間地の衰退化問題をどう再生するか。これには、大きなビジョンが必要ですが、私は山口の造り酒屋を回るところから始めています。NYやパリで人気の「獺祭（だっさい）」を始め、「東洋美人」など、山口の地酒がどんどん美味しくなっているので、山口を日本のブルゴーニュにしようと。酒は地域の文化の中心となっていて、それが食や農や発酵文化につながり、付加価値を高めていくものなんですね。こういうビジョンが選挙中には間に合わなかったんですが、これから形に落としていこうとしているところです。
有権者に主要なプレーヤーだと認識してもらうには
金野：樋渡市長は先程、特にご年配の女性にフォーカスして選挙戦を戦ったとおっしゃいましたが、もう少し詳しくお聞かせください。
樋渡：男性は基本的に組織に属しているので、その票は現職にいってしまう事が目に見えていました。だけど、戸別訪問で「僕に入れてください」と言うと、「うちのカカアがなんて言うかな」と返されることが結構あって、武雄市のような田舎では女性が発言権を持っていることがわかったんです。さらには、家族の中でおばあちゃんもチカラを持っていたので、「じゃあ、この人たちが喜ぶ政策は？」と考えてそこを打ち出すことにしたんです。
もう１つは、中学生やお年寄りでもわかる言葉を使い、必ず笑いを折り混ぜました。選挙演説はどうしてもつまらなくなるので喜怒哀楽を盛り込んで、女性にわかりやすい劇場型に持っていった。これがだんだん年配の女性を中心に「樋渡くんに託そうよ」となっていき、僕が選挙カーに乗っていると「この人はしゃべるのが下手だから、私が喋る」と、おばあちゃんが乗り込んできたなんてこともありました。
会場：（笑）。
樋渡：要は、有権者に自分たちが主要なプレーヤーだと思ってもらうのが大事。「私のチカラがなければこの人は負けてしまう」というところから、少しずつ「やろうよ」という気運を根付かせたんですね。
金野：同情を誘うという点と、シニア女性に訴えるというのは、都市部でも通用するやり方に思えますね。
樋渡：通用すると思いますよ。吉田さん言っていたように、情熱ですよね。これがあるかないか、特に女性は察します。投票したいけどよく分からないという人に、分かってもらえるようにするという意味で、同情は大きなファクターだと思うんです。最終的には、「あなたが可哀想だから入れます」と言われましたもん。
会場：（笑）。
樋渡：なんで石原さんがあれだけ人気があるかといえば、カリスマ性もあると思いますけど、やっぱり頑張っているんですよね。頑張っている人には、同情して入れようとなる。僕は、そう感じています。
吉田：先ほど金野さんが都市部でもとおっしゃいましたが、分けてしまうのは同意できませんね。都市部は投票率は低くても、投票行動自体は他の地域と変わらないんじゃないかと。だから、投票に行かない人にどうやって投票に行ってもらうかは都市ならではの議論ですが、普段から投票に行っている人に、自分に振り向いてもらうにはどうしたらいいのかは、都市部もそれ以外もあんまり変わらないと思います。
その上で、女性にどう伝えるかはとても重要。僕の先輩は、「男性は選挙で裏切るけど、女性は裏切らない」と言っていました。政策を伝えたくて街頭演説などを行っても、まず誰にも聞いてもらえませんが、聞いてあげようかなと思わせるものは、同情なのかもしれませんね。
金野：今の議論、飯田さんはどう思いますか。
飯田：山口は広くて分散型の県なので、各主要都市に選挙事務所をかまえたのですが、それぞれに選挙ボランティアが千人ほど集まりました。その柱になったのがほとんど女性です。山口は保守的だから、もっと男社会だと思っていたんですが、今回の選挙でその社会からはみ出ているというか、ギャップを感じている人たちが大勢いるとわかりました。これまでの男社会、上からのヒエラルキー社会、あるいは正社員のためだけの古いモデルが完全に壊れようとしていて、そうではない自由な考えをする人や、そこからはみ出ざるを得なかったような人たちが、１つの可能性や方向性として私を支持してくださった。
競争や数字の達成価値は俗に男性的価値、感性やシンプリシティや調和といった存在価値は女性的価値と言われており、日本は今まで達成価値に偏ってやってきたのが、完全に壊れかけていた。それを取り戻すという意味での“シンボルとしての女性”像があって、その女性的価値が日本ではすごく大事になってきています。だから、障がい者やアーティストなど女性的価値を持つ多くの人々が私の支持にまわってくれたのでしょう。そういう感性と、これまでの男性的価値とのバランスを取ろうという動きが、山口でも起きているということが今回はっきり見えましたね。
金野：安倍総裁の奥様、安倍昭恵さんにも支持されたという噂もありましたけど（笑）。
飯田：選挙中は相手候補の選挙カーに乗られていて、「期間中は友人関係を凍結」と言われましたが（笑）、選挙が終わった翌々日くらいに一緒にワインを飲みましたね。１つ面白い話で、自然発生的に私の女性支援者だけの集会が選挙中から今も引き続き開かれているんです。それを見た相手候補の奥様が「あなたもやらなきゃ」と言って、奥さんの名前で１度だけ女性の会を開いたそうですが、それは「大日本夫人会」的な雰囲気だったという話がありました（笑）。そこにも価値の違いがはっきりと表れているように、僕はこれを「20世紀的価値」と、「21世紀的価値」の完全な入れ替わりの時期だと感じています。そして、ソーシャルメディアはまさに、その方向性ともっとシンクロしていくんじゃないかなと思っています。
選挙はネズミ講じゃないと意味がない
金野：政治をビジネスに例えると、有力な政治家や既存の政治家が大企業で、改革しようとする新しい勢力はベンチャーですね。そうなると政治を変えたいベンチャーは、既存の政党・政治家が支持を得ていない未開拓のマーケットに進出する必要がある。つまりそれは、今の議論にあった女性や若者で、そういう人たちの支持をどう集めていくかに向けて、政治を変えていく可能性があるんじゃないかと。そしてもう１つ、未開拓の20代、30代というのはインターネット世代で、正に三バンのない人間が政治活動をしていく上で、非常に有力なターゲットです。その人たちの支持を得るために、ソーシャルメディアなどの活用が重要になってくると思います。
ここに日本政策学校の受講生のチームが、日本のすべての政党本部と、全国会議員のインターネット利用の調査をした資料があります。国会議員の活用度を８段階で評価、格付けしたのですが、使いこなしているのは39人。ホームページすらない田中真紀子さんと、福田康夫さんのような人が17人。つまり「ネットを使おうが使うまいが、自分たちの選挙の勝ち方には関係ない」という方たちが結構いました。この結果を踏まえ、そういう人たちに「使わないとまずい」と思わせるにはどうしたら良いのか。ここは、日本で初めて市役所のホームページをfacebookページにされた樋渡市長にお聞ききしたいのですが。
樋渡：twitterやfacebookの登場は、情報の流れをガラリと変えましたね。武雄市のホームページのアクセス数は以前月5万でしたが、facebookページにしてから360万に増えました。自分自身もfacebookをやっていますが、田中真紀子さんを擁護した時なんかもう、爆発的に閲覧者が増えた（笑）。ただ、ここからがポイントで、日本の場合は情報を見た人がそれで終わりなんですよ。選挙はネズミ講的に見た人が「吉田はいい」とか「飯田はいい」と言ってくれないと意味がないんです。さらに、SNSを使っている人は総人口からしたら一部ですから、使っている人たちがアナログに伝えていくのもポイント。今のままでは広がらない。受け手の有権者たちが今のアメリカのごとく情報を自分の言葉として、ボランティアとして発信する。アメリカだとSNSがない人に向かってもボランティアが戸別訪問するなどして、オバマのここがいいなどと伝道師になっていくわけです。だから、受け手の層が自分に成り代わって発信を始めたときに、次の革命が起きると思っています。
吉田：おっしゃるとおりですね。twitterは匿名性が高いので単体では難しいと思いますが、個人を特定できるfacebookならできるだろうと思います。ただ、現状で今の段階でどこまで使えるかというと、リアルにお会いした人との関係性をつなぐためのツールくらいにしかなっていない。リアルでも支持者の方がチラシなどを「友だちに10部配っておくね」と伝道師的に動いてくれることがありますが、そういうことをネット上で行うツールとして、facebookに可能性を感じています。
飯田：私の選挙ではfacebookを通じて自転車隊や選挙に行こうキャンペーンなど、本当に勝手連的に色々皆さんが動いてくれました。選挙投票日以降も、坂本隆一さんや孫さんとの対談などが、SNSを通じて広がっていった。その広がりが直接投票行動につながったと言うよりも、機運を盛り上げるためのベースインフラになったと思っていて、SNSのつながりで選挙資金のカンパや寄付、ボランティアの1000人など全国から支援が集まりましたね。ただ、問題は告示日以降facebookが勝手に動いたことが公職選挙法上、白か黒か分からなくなっていったことです。公職選挙法はあまりにも時代錯誤で、ネット社会に合っていない。私自身の発信はフリーズしても、限りなくグレーゾーンで広がる中で、改正の必要性を改めて感じました。
金野：法律の問題は国会マターになりますが、選挙や政治活動におけるSNSの活用で、なかなか投票など具体的行動につながらないのをどうすればよいのでしょう。
樋渡：使い方だと思いますよ。SNSが機能する前提としては、アナログがしっかりしている必要があります。「私が当選することで、こう変わる」というのを、原稿なんて見ずにしっかり自分の言葉でしゃべりきることができるか。それができていてUstreamやSNSと連動させば、だんだんと広がっていきます。これには時間がかかりますが、ある時点から爆発的に増えるということを自分の選挙で実感しました。
「facebookはアナログの補完にしかならない」と言いますが、「アナログの補完にはなれる」んです。Apple社なんてファンが多く、勝手に広めてくれるじゃないですか。あんな風に政治でも勝手に「ここがいいよ」と言ってくれるエバンジェリストをつかまえて、その人たちがSNSを使って広めてくれるという構図を作らないと。実際、橋下さんなどと違って三バンのない人がtwitterでいくら叫んでも響かないので、そのまわりの人が傾斜を広げていくことが大事ですし、そういう仕掛けを作れるのは、５年前の選挙と比べて楽になってきていると思います。
吉田： その上で選挙でSNSを活用する際に、匿名性は排除していくべきでしょう。今、僕は初めてニコ動のコメントを見ながらしゃべっているんですが、みんな匿名だからって本当に言いたい放題ですね。「老害政治だ」とか、「飯田の話は難しい」とか、「吉田はモンキッキー似ている」とか（笑）。
会場：（笑）。
吉田：こういう匿名性を少しずつ排除しながら、リアルと並行してメディアの向こう側にいる人と実名でコミュニケーションをとることがすごく大事なことだと思うし、政治風土を高める１つの大きなきっかけになると思います。特に、物理的な距離や時間を超えられるのは強み。私は選挙のないときも駅でチラシを配っていますが、中にはさっき言ったように「３部頂戴」と言ってくれる人がいるわけです。紙ならコピーをしなければなりませんが、SNSなら部数は関係ない。そのメディアの強み弱みを見極めながら戦略的に使えば、選挙でも有効に活用できると思っています。
献金について思うのは、例えば私は市長選挙の時、約70万の募金をいただいたんですね。もちろん気持ちのこもったお金なんですが、募金をくれたのは東京に住むサラリーマン時代の同期からがほとんどで、単に彼らはわざわざ横須賀の事務所に来て現金を払うのが面倒くさかったから「勇人、頑張れ」という意味で振り込んでくれたんだと思うんです。もしこれが面倒くさいからではなく、税制の控除の対象になりやすいとか、手続き的にそっちが楽になるとか、ネット献金のメリットがはっきりした形で行われればもっと進むでしょう。
飯田：ネットは非常に高速でどこでも繋がり、票には直接なりにくいけど気運を作るのに良いネットワークですね。一方、顔と顔を合わせるリアルネットワークは、低速走行で物理的に時間がかかりますが、継続することで「飯田さんはこういうことをやっている」とわかってもらえて、票に繋がりやすい。ネットにアクセスしない人が多い山口では、こういったリアルの活動が重要だと思いますが、でも、どちらもネットワーク理論ですよね。ITネットワークでも凝縮度の高いハブになっている人がいるように、リアルでも社会的に人と人との繋がりのハブになっている人がいて、そういう人にできるだけ早く会って信頼を勝ち取り、良い評判を広げてもらうというのが重要だと思いました。
金野：ありがとうございました。では、会場からの質問に移ります。
人材発掘のために裾野を広げたい
Q：飯田さんに質問です。最大の敗因はなんだと思われますか。
飯田：選挙の壁の厚さを甘く見ていたことがあげられますね。よく「あと１週間あったら逆転できた」と言われるんですが、本当にそうなのかなと。ラスト１mmってすごく分厚いんじゃないかと思うんです。まだ答えのない問いですが、そこを破らないと次はないと思っていて、突き破らなければならない最後の壁が何なのか、もう一層奥まで届けさえすればよかったのか否かということを、絶えず問い続けながら活動しています。前回は空中戦だったので、次に出るときは地面から這い上がっていきたい。だから、今は地道にいろんな人と直接話すことをやっています。それから、形として見えることが一番説得力があるので、山口県民参加のメガソーラーを年明けにスタートできるよう仕込むなど、１つずつ形にするべく動いています。
Q：吉田市長に質問です。10年前と比べ、市民の選挙に対する意識や反応は変化しましたか？
吉田：よく有権者を馬鹿にした言い方、例えば、「なんで選挙に行かないんだ」とか、「政治に関心を持ちなさい」などと言いますが、それは間違い。政治家の方が選挙に行きたいと思ってもらえる、関心をもってもらえるような政治をしなければならないと思います。その上で有権者は一般的に言われているほど馬鹿じゃない。現職の総理大臣や国会議員を指して「あれを選んだのは有権者だからね」という発言をされる方が多いですが、見る目はあると思うんです。ただ、どうしても、マスコミのチカラが有権者の見る目よりも強い状況があり、特に国政選挙はマスコミに流されやすいことは否めません。だけど、地方の選挙の場合は、議員の地道な活動をダイレクトに伝えることさえできれば、見極めてもらえるはず。10年前と何が変わったかを考えるより、私はそういう意識で望むようにしています。
Q：脱原発活動の声が届かないので、無謀にも一般市民でありながら衆議院議選出馬を考えています。しかし、なかなか声が届かず、「頑張ってね」とは言ってくれるものの一緒に活動してくれるような人が現れません。三バンのない人が選挙を戦うには日本に風土がなく、出馬を目指すといった途端に離れていく人が多い現状に悲嘆しています。これをどのように変えていったらいいでしょうか。
吉田：飯田さんのすごいところは、落選してすぐ次の出馬に向けて行動されていること。私は選挙に出て「変えます」と言っていたくせに、落選した瞬間に「もう政治には愛想尽きた」という人間を何人も見てきました。落ちても問題提起は続け、本当に変えたいなら５年、10年計画で望むべきでしょう。その上で、「風土が悪い」などは、政治家になろうとしている人が絶対に言っちゃいけません。そういう風土でも変えていくという気構えで志していかないと変えることは難しいですよ。がちがちの地盤は長い戦後の歴史の中で出来上がっているのですから、１度でそれを崩そうと思ったら大間違い。諦めずにがんばってほしいと思います。
飯田：選挙そのものが男性的お祭りだし、政治も男性的な世界なので、それを変えていくためにも女性の挑戦が重要です。選挙のテクニック論はいろいろあると思いますが、自分自身も勉強していく必要がありますね。僕は少なくともエネルギーについては霞が関レベルでも、国際レベルでも来ても、反論をはね返す自信があって、それを横展開していくことで、日本社会の穴や問題点が分かるようになってきました。選挙で勝ち抜く人は男性的エリートが多いですが、そうするとまた疑問に持たれているような男性的価値で政治が支配されてしまう。だから、最初に感じた素朴な疑問点を維持しつつ、自分も学習しながら勝ち抜いていってほしいと思います。
樋渡：この人のために死んでもいいという仲間が１人でも２人でも増えないと、選挙は勝ち抜けないですよ。利害や既得権益じゃなくて、この人が政治家になったらこういうふうに世の中は良くなっていくんだという、仲間＝エバンジェリストを増やしていく。その上で、応援しようと思ってもらえる言葉遣いはテクニックでカバーできるので、それをいろんなところで学ばれたらどうでしょうか。
Q：三バンのない状態で戦う場合、負けた時の対策を何か事前に考えておいた方がいいのか、それとも負けた時のことなんか考えるようでは駄目なのか。実体験を教えてください。
吉田：年齢にもよるのでしょうが、私は楽観的な気持ちでやっていました。家庭があって子育て中などとなると保険が必要な気持ちになるとは思いますが、変えようという思いを伝えるときに落ちた時の気持ちを考えるよりも、受かった時のことを考えたほうが絶対ハッピーですし、そのほうが選挙も戦いやすいと思います。
飯田：ひとつはっきり言えるのは、落選後に自分が何を得るかなんて選挙前は想像していなかったんですが、全く新しい人間関係を得て、山口県での知名度が抜群にあがった。当選したら当選したあとの職業がありますが、落選したとしても本当にやるべきことをやりぬいて良い関係性を作れば、必ず人生に得られるものがあり、それはまさにお金には代えがたいものです。生活のことは腹をくくるしかありませんね（笑）。
樋渡：僕は後のことなんて考えちゃ駄目。票をもらうわけだから、命を懸けてやるべきです。しっかりやっていれば捨てる神もあれば、拾う神もある。だいたい、そんなこと考えている人に、受かっている人はいないですよ。そんな野暮な話ではないです。一方で日本は例えば、公務員は辞めないと出られないなど、セーフティーネットがなさ過ぎる。だから、選挙に変人しか出てこない。裾野を広げるには、公務員や会社員の身分のままでも出られるとか、負けたら帰ってきてくださいというようなセーフティーネットが必要だと思います。
日本の政治の歴史的転換点の今、1mmずつ社会を変えていこう
金野：ありがとうございました。では最後に、一言ずつお願いします。
吉田：我々は変えていくために本当に努力をしていかなければいけない。今は三バンが大事だと思っている人がほとんどですし、それで受かっている方々がほとんどですが、そこをSNSや既存のメディアをうまくミックスして、候補者個人の活動を広めていくことが大事だと思いました。
飯田：初めての選挙は、自分の名前を連呼したりあたりかまわず握手したり、自分は素晴らしいことができると言ったりと、とにかく非日常的なものでした。さらに公職選挙法で手足を縛られて古臭い活動を強いられるという異次元体験です。でも、我々は今、官邸前でのデモや脱原発などの動きなど、日本の広い意味での政治、歴史的転換点のただ中にいると思うんです。だから、異次元体験ですが、大きな転換点の先駆けとしてぜひみなさんも挑戦されたらいいと思いますよ。諦めずに少しずつ、１mmずつ社会を変えていく努力を一緒にやっていきましょう。
樋渡：さっき言ったこととだいぶ矛盾するんですが（笑）、選挙は気軽に出るべきですね。おふたりの話を聞いて思ったんですけど、業界にあんまりまともな人がいないから、もっと裾野を広げないくちゃ。そのために、その時の身分ののまま出られるようにしたり、三バンのない勝ち方をツールやメソッドを作るなどは、我々が考えていくべきだと思いました。もう１つは、シンポジウムだけじゃなく、実際に僕らが戦っているときに会得してもらうのが１番なので、その機会を作っていきたいですね。
金野：ありがとうございました。
パネリストプロフィール
●樋渡啓祐（武雄市長)
東京大学卒業後、1993年総務庁人事局に入庁。内閣府参事官補佐などを歴任。総務省を退職後2006年に全国最年少市長として初当選。以来、行政の可視化を掲げ、日本で初めて市役所の公式ホームページのフェイスブック化を実現、月間5万件程度のアクセスが300万件に達したことなどが話題となる。
●吉田雄人（横須賀市長）
早稲田大学を卒業後、アクセンチュアに入社し2002年に退職。2003年には、27歳で横須賀市議会議員選挙に出馬しトップ当選。2009年の横須賀市長選挙において、政党からの支援を受けない無所属候補として立候補、小泉純一郎元首相の支援を受けた現職の市長（自民・公明・民主3党推薦）を破り、初当選を果たす。
●飯田哲也（環境エネルギー政策研究所所長）
自然エネルギーの日本の第一人者、環境エネルギー政策研究所長。その他、日本総合研究所主任研究員、世界風力協会理事、国家基本問題研究所客員研究員など、自然エネルギーに関連する団体に数多く参画。大阪府市の特別顧問として、大阪市の橋下徹市長のブレーンも務めていた。地方自治から政治変革を目指し、2012年7月の山口県知事選に出馬するも惜敗。
