※この記事は2012年10月20日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第242回

　2010年の参院選に対し、５倍の一票の格差が存在することは違憲状態であり、すみやかに不平等な状態を解消する必要があると、最高裁が判決を出した。(*1) 　重要なのは「都道府県以上に意味のある選挙区単位を見いだすことは容易ではない」という意見の部分。確かに、国政選挙に「私達の代表」として議員を送り込むというイメージをもって都道府県ごとという感覚はあると思うのだが、そうしたイメージは実態と著しく異なっている。 　僕の出身は栃木の南の方だ。栃木は選挙区としては１人区である。

　ここ数年の「ご当地ブーム」の中で、栃木の名物として有名なのが「レモン牛乳」だ。レモン風味だけど、レモン果汁は入っていない（酸性の果汁を牛乳に入れたら、タンパク質が分離してしまうので入れられない）独特な牛乳として親しまれている。栃木のおみやげ屋などでは、レモン牛乳の形のキーホルダーやストラップまで売られているらしい。 　でも、そのレモン牛乳とやらを、僕は全く知らない。なぜならレモン牛乳は僕が生まれ育った栃木の南の方では、まったく流通していなかったから。

　栃木県は角ばったたまご型のような形をしており、県南地域と県央地域では、生活圏が大きく異る。県南からであれば、同じ栃木の宇都宮よりは群馬や埼玉、そして東京の各都市の方がアクセスもよく、あえて宇都宮に出向くこともない。 　僕の生まれ育った地域は県南でも西のほうだから、群馬の南東の都市、館林や桐生、太田といったあたりと同じ生活圏になる。

　そのように、生活圏が違うのだから、レモン牛乳のような宇都宮あたりの物事を「栃木のご当地」だと言われても、全く当事者性がなく、ぽか～んとしてしまう。 　2010年の参院選で選出されたのは、自民党の上野通子さんだ。プロフィールを見ると、宇都宮生まれの宇都宮育ち。県央の人が「参院における栃木の代表」だとしても、生活圏から考えるに「でも県南とか関係ないんでしょ」と当事者性がなくぽか～んとしてしまう。多分県北のほうも同じ感覚だろう。 　都道府県ごとの選挙区である意味は、単に「分かりやすい」からであり、都道府県の区割りが決して生活の実態を汲み取っているわけではない。

　そして、両院含めて解消の兆しもない一票の格差。それはまさに都道府県に縛られた選挙区割りが、生活の実態と著しく乖離していることをそのものをまさに示しているのである。 　いくら見出すことが容易ではなくても、それでも都道府県割りの選挙区に縛られている限りは、田舎優遇の現状を打破することができないばかりか、同じ県でも異なる生活圏の意見が十分に組み上げられない現場が変わることはないだろう。 　僕としては早急に都道府県割の選挙区をやめることを願うのだが、それを利用して野田政権が延命を図ることはご勘弁願いたいなぁ。

*1：「一票の格差」５倍で２２年参院選は違憲状態　最高裁「著しい不平等」（産経新聞）http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121018-00000094-san-soci

赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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